160豚 人知を超えた第六感【前編④ sideシューヤ】
「逃げろ? 一体どういうことですの?」
「さあ、理由までは教えてくれないみたいっていうかこの宿に帰ってきた時からいきなり黙りだしてさ……こういうことってあんまり無いんだけど」
「シューヤのお友達の水晶は気分屋ですのね」
いつもの俺なら大体は水晶の言う通りにするんだけど、今回はちょっと反抗したい気分だった。何せ何か大きな事態がユニバースで起きようとしている。
デニングのこともそうだし、あのギルドマスターが何をやろうとしているのか興味があった。
野次馬根性。
……もしかしたら俺も街の熱気に乗せられているのかもしれないな。
「それはもしかしていきなりダンジョンから追い出されたことと関係があるのかもしれませんわね。……はぁ、もっとあのダンジョンにいれば私の杖を取り返す可能性があったかもしれませんのに」
「おーい、水晶どうなんだ? ……駄目だ、返事がない。寝てんのかな」
前みたいなドラゴンがやってくるとかだったら大変だけど、何ていってもここは冒険者ギルド総本山、ネメシスがあるダンジョン都市。
さらに俺達がいる馬車はS級冒険者
医療施設だって沢山あるし、ここ以上に安全な場所って他にないだろって俺は思う。
「まあもう少しで明らかになることですわ。夜にはギルドマスターが理由を発表する予定なんですわよね?」
「あぁ。ギルドマスターの名前で冒険者ギルドから正式に発表があった」
「じゃあ考えても仕方ありませんわ。時間と共に埋まるパズルなら他に時間を割いたほうが余程建設的。だってシューヤ―――」
アリシアの言うとおり、原因は明らかになる。
冒険者ギルド南方本部、ネメシスが声明を出したのだ。
それもネメシスのギルドマスターが直々に話をするらしい。
俺は正直言って、いてもたってもいられない。
だってあのギルドマスターだぞ?
ヨーレムの町にも俺のニュケルン領にも冒険者ギルドはあるけれど、あんなものとは比較にならない最上位のギルドマスター!
しかも現役バリバリの
俺達のような駆け出し冒険者ばかりじゃなく、A級ダンジョンに潜るためにパーティを組み入念な準備をしていた
一体、その理由は何なのか。
新ダンジョンが見つかったとか色々な噂が出回っている。中にはデニングが豚公爵から進化し、オークを中心としたモンスター軍団を従えてユニバースに侵攻してくる何て荒唐無稽な噂があって俺達は笑ってしまった。
あいつの豚公爵時代の噂はダンジョン都市にまで広がっていたらしい。
「―――街の外に出られる出入り口は全てギルド職員達に見張られてるって話なんですわよね」
「マスターレングラムの決断だ。何か大事な理由があるんだと俺は思うぞ!」
アリシアの言うとおり、今このダンジョン都市から外には出ることは許されていない。
ギルド職員が外へと繋がる出口を全て見張っているため、街の外に出ることが出来ないのだ。
そしてそれを指示したのはあのギルドマスターらしい。
「あら、ギルドマスターの肩を持つんですのねシューヤ。でも私、今回の件についてはちょっと思うことがありますわ。聞けば
アリシアはそんなギルドマスターについて何か思うところがあるらしい。
いつの間にか立ち上がり、窓の外を眺めながら言葉を続ける。
窓の外といっても細い路地裏しか見えないんだけどね。
「初めて見た時は善良そうな優男に見えましたけど、結構な強権なんですわね。でもそれぐらいじゃないとネメシスのギルドマスターは務まらないってことかしら。そういえばあの時も護衛を付けてほしいだの、最高級の宿を提供するだの煩かったですわ……ねえシューヤ。ギルドマスターってどんな人なんですの?」
「お前なぁ……ギルドで冒険者登録した時に職員から説明されただろ? 冒険者ギルドの歴史の中でも類を得ない最年少のネメシスギルドマスターにして改革のシンボル。
「
「熱っぽく? ……あぁ、ユニバースのギルド職員は大半がマスターレングラムの熱烈な支持者って噂があるからな」
「でも可笑しいですわね。ねぇシューヤ。どうしてあのギルドマスターの二つ名が
「青い瞳?」
「ええ。とても
髪の毛を弄りながら、思い出すかのようにアリシアは言った。
へえ、ネメシスギルドマスターはあの金髪と似てるのか……。
……。
ん?
綺麗な青い瞳であの金髪に似てるだと?
それに優男?
先ほどからアリシアの言葉には違和感があった。
まるでアリシアはギルドマスターを見たことがあるような―――
「―――なぁアリシア……、お前まさか、マスターレングラム……ネメシスのギルドマスターに会ったことがあるのか?」
「えぇ。ネメシスで冒険者登録をする際にお会いましたわ。私の身分に気付いたギルド職員にネメシスの最上階に案内されて―――」
王族なんて奴らは鈍いものだ。
一応はダリスの下級貴族である俺も平民の感覚があるといえばすぐに頷くことも出来ないけど、こいつら王族のそれは群を抜いている。
一介の冒険者成り立てが冒険者ギルドのトップに会えるわけがない。
しかもそんじょそこらの冒険者ギルドじゃない、マスターレングラムは冒険者ギルドの格で言えば最上位のネメシスギルドマスターだ。
「―――うっそだろお前! マスターレングラム! ギルドマスターに会ってたのかよ!!」
「え、えぇ、ってこらシューヤ、近いですわ! 近い近い!」
「お前! それがどんだけすごいことか分かってんのかよ! ギルドマスターは何万人もいる冒険者の中でも六人しかいない
「な、何ですの! シューヤ! 一人で興奮し出すのはやめて!」
ああ、そうだ。
俺は思い出した。
そういえばアリシアと仲良くなった時、俺はこいつの余りの世間知らずっぷりに呆れたもんだった。
”……”
ギャーギャーと騒ぎ立てる二人の少年少女を見つめるモノがいた。
机の上に置かれた水晶の中から、運命を呪うモノがいた。
水晶の中で未だ傍観者を気取っている火の大精霊は気付いていた。
このボロ宿に戻ってきた時、火の大精霊は即座に異変を察知した。
”まずいまずいまずいッ……何故アイツがここにいるのだッ―――”
見上げる天井のその先に―――。
このボロ宿の最上階に―――アイツがいる。
六大精霊の中でも最も会いたくない―――アイツがいる。
クルッシュ魔法学園であのスロウ・デニングの周囲に
しかし、それは彼らの事情だ。
下手に詮索することで、こちらに気付かれても堪らない。
だが、アイツは違う。
アイツの出自は特殊であり、アイツはどんな時でも慢心しない。だからこそアイツはあれ程までの巨大な国家を作り上げた。
……出来れば二度と会いたくない相手。
これ程までの距離に近づけば、アイツならいつ気付いても可笑しくない。
その時、己はどうすればいいのだろう。
水晶の中に潜む盤上の第三者は、ひっそりと
「これが興奮せずにいられるかよ!! なぁアリシア!
「―――しゅ、シューヤ! 分かったから落ち着いて!」
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