161豚 両翼の騎士は舞い戻る【① sideダリス】

「結論から申し上げますと、アカデミーはスロウ・デニングに風の大精霊アルトアンジュ様が力を貸していると断定しております」


 古来より続く厳格なる伝統を今も貫き通しているダリス王都、中心部に聳える古城ダリスの最上階は重苦しい雰囲気が充満していた。

 一国を支える者達の中でも特に国の進展に関わる者たちが資料を片手に喋るアカデミー研究員の声に耳を傾けていた。

 机の上には特定の人物が描かれた手配書が幾枚も置かれている。


「時系列を再度、確認致します。スロウ・デニングがクルッシュ魔法学園を出発してからヨーレムの町に辿り着いた一度目の街道越え。これについてはスロウ・デニングが守護騎士ガーディアンバルデン卿に比肩し得る力を持っていると仮定すれば可能であるとアカデミーは考えております。しかし、ヨーレムの町からクルッシュ魔法学園に向かった二度目の街道超え。これが問題です」


 口頭にて調査結果を報告するアカデミー研究員が一気に捲くし立てた。

 このような国の重鎮を前にしたことは無かったためか、緊張を通り越して頬は赤くなっている。

 しかし、誇りのある仕事だった。

 国の未来を左右する、意義のある調査結果だった。


「嵐とも言える劣悪な街道状況や溢れ出るモンスターは一度目の比ではありません。そんな二度目の街道超えを行った者はスロウ・デニング、そして現在は牢に送られているシルバの二名。スロウ・デニングに関しては全属性エレメンタルマスターの魔法使いであり、嘗ては風の神童として名を馳せたことはアカデミーの我らにとっても周知の事実。そしてシルバに関してもその類まれなる剣裁きと胆力によって、平民でありながら筆頭守護騎士ガーディアン候補にまで上り詰めた傑物。この両名が命を賭した街道超えを実行したために学園で起こったであろう惨事は免れたのです」


 シルバ。

 その名前が出たとき、室内に参列する白い外套を羽織った王室騎士ロイヤルナイト達の額に青筋が走った。

 現在の王室騎士ロイヤルナイト達にとってその名は何よりも禁句であった。

 次期ダリス女王であるカリーナ姫の守護騎士ガーディアンとなる権利を自ら放棄した大罪人。シルバの身勝手な行動は王族の守護を誉れとする彼ら王室騎士ロイヤルナイトにとっては誇りを汚す、許し難い行為に他ならなかった。


「スロウ・デニングが先導した二度目の街道超え。その最中に一体何があったのか、未だシルバは口を割る様子はありません。しかしシルバの付与剣エンチャントソードを我らが調査した結果、光から風への属性変化は確実に行われ―――」

「学者風情が―――貴様今、シルバの付与剣エンチャントソードと申したかッ!? 付与剣エンチャントソードは王室の守護剣であり、この世に数えるばかりの国の宝ッ! それが平民である奴の物であろうはずが無かろうがッッッ!!!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る