257豚 風のデニング公爵家③
「スロウ君。龍殺しを達成した君が急にいなくなったもんだから、結構大変だったみたいだよ。私は詳しい話あんまり知らないけど……。ほら、私みたいな引き籠りにはお母様やマルディーニは何にも教えてくれないからさ」
「……姫殿下は自分で引き籠りって自覚がおありなんですね」
「うん、あるよ。私の引き籠りっぷりはすごいからね。ねぇ、それにしてもさ。あのお爺さんを戦意喪失させるなんて君はすごいね」
アニメには出てこなかった王女様は自分は引き篭もりだからと自信満々に笑ってみせ、相変わらず何かをぶつぶつ呟いている危ない雷魔法を観察し始めた。
雷魔法が持っていた杖は確かに強力な武装だ。
だけど雷魔法はあの
「あのお爺さんってもしかしてモロゾフの血縁者かな? そっくりに見えるから」
「……恐らく、そうでしょう」
「だよね。でも噂の雷魔法なら王室騎士を蹴散らせたのも納得かな」
「……もしかして、正体に気付いていたんですか」
「お母様もマルディーニも私のこと引き籠りとか、怠け者とか散々なこと言うけど……頭はいいんだよ、えっへん」
多分ねと付け加えて、胸を張る王女様。
俺はそんな彼女に幾つか聞かなければいけないことがあったのだが、とりあえず王女様の聞き役に徹することにした。
何せ彼女は王女様である。
真っ黒豚公爵時代、大勢の貴族が集まるクルッシュ魔法学園においても唯我独尊を貫いていた俺であるが、あの頃の俺であっても王女様にはでかい顔は出来ないだろう。
この騎士国家で最も尊い王室の一員。
公爵家の人間でも、当主である俺の父上を除いて王室との関わりは薄い。王室騎士団がデニング公爵家の人間と王族との接触に良い顔をしないことが理由だ。
「さて、と。少し落ち着いたところで、私を放置した冷たい君に言わないといけないことがあります」
「何ですか?」
「あ、ちなみに。私の方が一歳年上だから
「……えっと、はい。お好きに呼んで下さい」
王都への被害も抑えて、こうして彼女を助け出すことに成功した。
俺にとっては完璧な救出劇なんだけど、王女様はやっぱりどこか不満そうだ。
カリーナ・リトル・ダリス、この国の姫殿下。
俺よりも年上らしいけれど、あんまり年上っぽさ、お姉さんな感じはしない。近くでよーく見ればどこか眠たげで、全体的にぼんやりとしている印象だからだろうか。
「――イーグル白金貨二枚」
「……え?」
アニメの中では頑なにその姿を表に晒さなかった引き籠り姫。
真っ黒豚公爵の記憶にあるそんな王女様の情報は、枢機卿も困り果てる出不精とか、けれど人前で王女として振舞わなくてはいけない時は完璧とか様々だ。
けれど、どれも憶測の粋を出ないもの。
そんな王女様が一体何を言い出すのかと思ったら、貨幣の名前であった。
イーグル白金貨。それは遥か昔に生産が中止された価値ある貨幣であり、古い貨幣マニアであればどんな手段を取っても手に入れたいレア貨幣。
「――トレラ金貨六十枚」
「うわっ、どうしたんですか」
また貨幣の名前だと思ったら、王女様がいきなり俺の手をがしっと掴んだ。
逃がさないとでも言うかのように、強い力が込められている。
そしてすぅーっと細められる目を見て、何故だか悪寒が走った。
「クルム銀貨八百枚」
「えっと……あの? カリーナ姫?」
「シーリング銅貨は……いいや。銅貨の枚数まで覚えてたら引かれそうだし。さて、私は何の話をしているでしょう」
次第にカリーナ姫は、その明るい髪色からは想像も出来ない、雷魔法に負けずとも劣らない暗い空気を醸し出す。まるで、全財産をギャンブルですった人を見ているかのような自暴自棄な感じ。
そこで、俺はピンときた。
「カリーナ姫……まさか――」
蘇る記憶。
大陸南方のあちこちに手配されていたらしい俺の手配書の数々を見て思ったものだ。俺を探すためとはいえ、ダリス王室も随分と派手に金を使うもんだなぁって。
王室発行の刻印が押された手配書は、あのマルディーニ枢機卿も賛同したという証。あのケチな枢機卿が、今後どれだけ王室に貢献出来るかも分からない俺を探し出すために多額の金を使う許可を出すなんて珍しいこともあるもんだなぁと思っていた。
「私ね。最近よく眠れなかったの……」
だけど……。
まさかまさか、まさか――。
お金の出所はっ――。
「君を探すために、へそくりまで使っちゃったから――」
ダリス王室ではなく――
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