127豚 火焔の戦い【VS A級冒険者】②
「ごめんなさいぷぴぃ……。スロープが泉を綺麗にしてるって聞いたからどうなったか見てみたかったんだぷぴぃ……」
ブヒータは普段はそれ程好戦的なモンスターじゃなかった。
北方から逃げ出して初めて皇国にきた時、反魔王派のモンスターが暴れていたのを見てドン引きしていたぐらいだ。
「さあ早くオークの里に帰るぶひィ。後はオークキングのおいらに任せるぶひ」
「プピータ様……ごめんなさいぷぴぃ……。泉が気になったんだぷぴぃ……。最近、お水あんまり飲めなかったから……泉が綺麗になるのが待ちきれなかったんだぷぴぃ」
反魔王派のモンスターは街を壊したり暴れたり、あのダンジョンマスターのサイクロプスみたいな傍若無人の暴れん坊ばかりだった。
それにブヒータはオークキングだった父親からよく聞かされていたから。
おらは
だから皇国から反魔王派のモンスターを追い出す戦いにブヒータも協力した。
沢山戦ったブヒータは運良くオークソルジャーへと進化して、さらなる力を求めて皇国の隣国ダリスへと武者修行の旅に出た。
「スローブが後数日で泉の水は前みたいに飲めるようになるから心配するなって言ってたぶひィ。だからもう大丈夫ぶひィ」
「やったぷぴぃ……。これでばーちゃんも沢山水が飲めるぷぴぃ」
オークキングとなって皇国に帰り、旅で学んだ知識を使ってオークの里を魔改造しているさなか、ブヒータは面白い出会いをした。
ダリスからやってきた不思議なオーク。
大食いで強くて魔法も使えて、知的で先進的な考えを持つオークだった。
「……………あの変態人間、怖いぷぴぃ……」
「半裸の男がこっち見てるぷぴィ……」
スローブの知識の中にウィンドル領への移住に役立つものがあるかもしれない。だから近々、ウィンドル領移住について相談しようと思っていたのだ。
「あの人間……強そうぷぴぃ……」
「大丈夫ぶひィ。おいらはオークキング! とっても強いオークだぶひィ!」
人間が入れなくなった呪われたダリスのウィンドル男爵領。
人間にばれない移住方法さえ見つかればすぐにでも向かえる準備は整っている。
もうあまり時間が無いけれど、それでも一生懸命頭を捻れば何とかなると思っていた。
「後はおいらに任せて、さあ皆を連れて帰るぶひよゼロメガブータ。お前が年長者ぶひィ。かっこいい所を見せるんだぶひィ」
皇国は四方を人間の国々に囲まれている。
北で圧倒的な存在感を見せるドストル帝国は現在、戦争終結宣言を出し何を考えているか全く分からなくなった。
それに反魔王派の勢力が北方では勢いを増し、もう帰ることも出来ない。
南方四大同盟の国々も強力だ。
騎士国家ダリス、サーキスタ共和国、自由連邦エロモスコ、魔道大国ミネルヴァ。今はまだ
楽観視していたわけではない。
楽観視していたわけではないのだけれど―――。
ブヒータは―――その内、皆で新天地へ移住出来るんじゃないかなって愚直に信じていたのだ。
ブヒータは充分に知っていたはずなのに。
どうしてそんな希望を持ってしまったのだろう?
安寧な日々は一瞬で終わることを。
雑魚モンスターのオーク。
旅をしながら痛感したモンスターとしての格の弱さ。
だからこそ、ブヒータは誰よりも強くなりたかった。
オークは弱い。
くそ雑魚だ。雑魚雑魚雑魚の底辺モンスターだ。
オーガのでこぴん一発で吹っ飛ばされるぐらいの雑魚ナメクジモンスターだ。
落ちてた肉をひょいぱくして腹痛にうなされることだって沢山あるし、落とし穴を作られたら絶対に引っかかってしまうし、罠という罠にはとことん嵌る。
まぬけなモンスター、それがオークだ。
そんなこと生まれた瞬間から知っていた筈だった。
この世には強者と敗者が存在して、間違いなくオークは敗者、底辺だ。
強い者に怯えて暮らすオークだからこそ、一箇所に定住するなんてありえない。
だからオークの里のような平和な村を作れたことがブヒータやオーク達にとっては奇跡だったのだ。
毎日が楽しくて平和な時間を満喫していた。
けれど奇跡の時間はもう終わり。
魔王派のモンスターは飛翔型タイプが多いとはいえ、皇国で一番大きい街に配置された主力達がこの場にやってくるまでには結構な時間が掛かってしまう。
もう間に合わない、オークの里は今日滅ぶ。
だったら今、自分に出来ることは何だろう?
ブヒータはまぬけなオークキングだけど、必死で頭を働かせた。
「や、やっぱり……す、スロープも呼んで来た方が良かったぷぴ……お、オークの魔法使いはとっても強いって皆言ってるぷぴぃ……あそこにいる変な人間……とっても強そうぷぴぃ……。プピータ様、死んじゃうぷぴぃ……」
冒険者から開放されたばかりの子供達の顔がパアァっと明るくなった。
そうだ! オークの魔法使いがいるじゃん! 名案だ! というように子供達は若きオークキングの顔を見上げた。
「……それは……ダメぶひィ」
スローブに助けを求める。
当然ブヒータもすぐにスローブに声を掛けようとした。
だってブヒータはいっつもスローブの傍にいたからオークの魔法使いの強さを誰よりも知っていたのだ。
だからブヒータはシャーロットちゃん警報が発動していた時、ゼロメガブータとこそこそ喋りながら横目でちらりとスローブを見たのだ。
「スローブ。大変ぶひィ!!! 冒険者が現れたぶひィ!!!」って、いつものように声を掛けようとして―――ブヒータは固まってしまったのだ。
あの時―――スローブはちょっとだけ顔を上げて、空を飛んでいるシャーロットちゃんを見ていた。
あのスローブの横顔を見たとき、ブヒータは思ってしまったのだ。
優しさにはきっと形があって、それは
だからブヒータはそっと、まぶたを閉じて決心したのだ。
「スローブには内緒ぶひィ。冒険者ぐらい、おいら一人で何とかなるぶひィ」
あの時、不意に。
これ以上、大切な人がいる
冒険者ぐらい自分一人で何とかなる。
だって、おいらはオークキング。
皇国に生まれた奇跡の楽園、オークの里を守る強きリーダーなのだから―――。
「……ゼロメガブータ。オークの里の皆に逃げろって伝えるぶひィ……後、スローブに今までありがとうって、シャーロットちゃんとあの
だけど、悲しいかな。
ブヒータの予想は外れてしまった。
あの半裸のだらしない男が身に着けている腕輪の色は銀色だ。
つまりスローブが出会ったら逃げろって言っていた
しかも、高価な魔道具まで身に着けている。
でもブヒータはしっかりとまぶたを開いて、
だって、オークキングはもう決心したのだから。
「おいらはオークキング。とっても強いオークキングぶっひィィィィィ!!!」
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