第4話 語り手
語り手 1
「……私、
薄暗い帰り道で、
俺の首筋が汗ばんだのは、湿気と気温のせいばかりではないはずだ。
「さっきの
「どういう意味?」
俺は何と口を挟んでいいのかもわからずに、様子を見守っている。
「正確には、私のしようとしていた範囲を超えた動きだった。『アメフラシ』を囲い込もうと茨を動かしたんだけれど、あの数を一度に、あんなに整然と動かすことは、今の私には出来ない」
「えっ、だって」
見守るつもりだったのに、思わず声を出してしまう。
二人の目が一度にこちらを向き、慌てて口をつぐんだが、そのまま
「『ラプンツェル』の時だってあんな
「だからきっと、そういうことなのよ」
「そ、そういうことって?」
和葉さんの反応は予想外に早く、戸惑ってしまう。
次に続く言葉は、俺の気持ちをさらに揺さぶった。
「たかやくんが、やったってこと」
「俺が?」
「そう。――多分」
「どうやって?」
「それは……わからないけど」
和葉さん自身も何だか煮え切らない表情を浮かべ、言葉を選ぶように慎重に発していく。
「たかやくんが直接やったのではなくて、多分、私の力を増幅したのだと思う」
「ぞ、増幅?」
ただ、何とかなれとか、頑張れとか――。
「……あ」
もしかしたら、そういうことなのか?
「何かわかってんなら、さっさと言いなよ」
立木がそう言って、持っていた鏡で小突いて来る。
俺は思い当たったことを、二人に話してみた。もうこれで終わりにしたいとか、疲れたとかの部分は伏せたが。
真剣に耳を傾けていた和葉さんは、納得したように頷く。
「願いや祈りも、強い意志を伴う行為だわ」
「『
立木も呟き、それから何かを思いついたように鏡を叩いた。
さっきからそれはそんな雑な扱いでいいのか。
「語り手って、物語を面白く出来るでしょ? だから、めっけちゃんがそう呼んでたのかも」
「きっとそうだね。『
二人はすっきりしたような顔をして、こっちを見る。
いまいちピンとこないっていうのは正直まだあったけど、俺自身、急に目の前が開けたような気がした。
◇
「どうしたタカ。いいことでもあった?」
そろそろ寝ようかとトイレに行き、二階の部屋へと戻る途中で声をかけられた俺は、はっと顔を上げる。
階段を上がった先には、大学生にしては子供っぽいキャラの
風呂あがりのようで、顔は紅潮し、頭にはタオルを巻いている。
「い、いや別に」
やばい。これは獲物を見つけたという目だ。絶対ロクなことがない。
さっさと部屋へと向かおうとした俺の前に、姉貴は華麗な横滑りで移動する。
「彼女でもできたのかなー? ……なんて」
くっ。さりげなく首を傾げてみましたと見せかけて、俺の視界に入り込んでプレッシャーを与えつつ、さらに通路を
「で、出来るわけないじゃん」
俺は精一杯、何気ない
「うんうん、でもさ、タケくんがね」
姉貴は今度は後ろ向きのまま、俺の前まで移動してくる。
しかしその動きで頭のタオルが
――チャンス!
俺はタオルをキャッチするのに気をとられていた姉貴の隣を、滑り込むようにして通り抜ける。
「お、おやすみ!」
「あっタカ、逃げるな!」
そして姉貴の声にも振り返らずに、急いで自室の扉へと向かい、中へと入った。
閉じたドアの外でぐちぐち言っている声が聞こえるが、それは無視する。
ああ、びっくりした。でも、何とか乗り切った。
それにしてもタケのやつ、余計なことを。
姉貴の耳に入ったとなれば、これから
本当のことならまだしも――いや、本当だとしても
急にずっしり重くなったように感じる体を引きずり、俺はそのままベッドへと潜り込む。
でも少し経つと、浮かんでくるのは心配事よりも、今日起きた出来事で。
すると今度はまた気分が軽くなってくるから不思議だ。
自分の能力のことや、自分に出来ることが少しでもわかったということは、二人と一緒に活動する意味や、居場所が与えられた気がして、やっぱり嬉しかった。
想像していた能力とは、少し違ったけど。
――そうだ。明日はあの
そのアイディアに、気持ちはさらに
俺は、和葉さんや立木の能力を増幅し、二人の活躍を陰で支える自分の姿を思い描きながら、いつの間にか眠りの中へと引きずり込まれて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます