めっけ鳥 3

「ふん、中々見事だった」


 辺りにまた日常が戻った途端とたん、やる気のない拍手と一緒に、声が聞こえて来る。

 振り返った先には、いつの間にかあの男が立っていた。


「あっ、めっけちゃん」

渡部わたべだ」


 立木たちきが指を差して言った言葉へと、即座に声がかぶさる。


「いいじゃんどっちでも。似たようなもんでしょ?」


 俺も別にどっちでもいいんだが、かなり違うと思う。


「めっけちゃん、相変わらず偉そうだよね。何にもしないのに」


 腕を組み、大きく溜息をついた渡部が何かを言う前に、さらに立木たちきが続けた。あくまでもめっけちゃんで通すつもりらしい。


「今回は手伝ってくれたよ。彼があそこに居てくれなかったら、まずかったかも」


 流石に見かねた和葉かずはさんが、助け舟を出した。

 この言い方だと、本当に今まで何にもしなかったんだろうな。


「そうなの? お手柄じゃん」

「別に手伝ったわけじゃない。偶然だ」


 こちらも大概たいがい偉そうな立木に、渡部は面倒そうに答えた。


「はいはい、そういうことにしておきましょうか」


 二人のやり取りを見て、和葉さんがくすくすと笑う。


「偶然でも助かったわ。ありがとう」


 立木はああ言ってたけど、普通に仲良さそうじゃんか。

 三人とも結局のところ旧知きゅうちなかってやつで、『つむ』同士、理解し合えるところがあるのかもしれない。

 何だか疎外感そがいかんがあるなぁ。

 そんなひがみみたいな思考が少しだけよぎった時、急に渡部の視線がこっちへと向き、俺はどきりとする。


「新入りか」

「ええ、まあ」


 負けてられるかとフチなし眼鏡の奥を見返すが、鋭い眼光が刺し返してくるようで痛い。


「な、何か」


 渡部はすぐには答えずに、ぼそりと言った。


かたか」

「……は?」


 何を言われたのか理解できず、思わずそんな声が出てしまう。

 だが、それは立木も同じのようだった。


「それって、どういう意味?」


 それから彼女は、助けを求めるように和葉さんを見る。

 みんなの視線を受け、彼女も珍しく戸惑ったような顔をした。


「わからないなら、いい」


 誰かが口を開くより先に、渡部はそう言ってこっちへ背中を向けると、さっさと歩いて行ってしまう。

 何だよ、言いかけたなら最後まで責任持てよ。


 でもその言葉は口からは出ず、俺はただ、その背中を見送ることしかできないのだった。

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