第7話

 夜中の11時になったので遅いが風呂に入って、寝ることにした。

 パソコンをスリープモードにして、ディスプレイと本体のパソコンに黒い布を被せて、スマホを充電して寝ることにした。

 明日は放課後に軽音部の部室を掃除して、家に帰ったら管理人見習いの仕事をまたするのだろう。

 管理人見習いの仕事ってそういえばコミュニケーション以外に何があるのだろか?

 インターネットで調べてみたら24時間体制で色々仕事をすると書いてあった。それが住み込み管理人のしごとだそうだ。

 克也さんが言っていた見習いは何をするのだろう?

 アパートの掃除とか、家賃の徴収と管理とか、電球の交換や入居者のリクエストに出来るだけ答えたりするのだろうか?

 もし引っ越しがあったら部屋の大掃除とメンテナンスもするのだろう。

 とりあえず朝早く起きたらできるだけアパート周りの掃除だけでもしようと思った。

 頼まれたわけでもないが、何もしないままというのも悪い気がした。

 学生は勉強が本分なのはもちろんだし、部活も梨佳の頼みでやらなくてはいけない。

 それに家に帰れば見習いとして日常でこなす仕事をしなければならないもの事実だ。

 色々あるだろうが、やらなくちゃいけない。

 中学の頃と違って忙しい毎日だと思った。

 明日克也さんに掃除を代わりにすることを言おうと決心し、寝ることにした。

 昨日に比べると1度寝た部屋なのか、思いのほかぐっすりと眠れた。


 ※


 スマホからの目覚ましの振動で目が覚める。

 顔を洗いに部屋の障子を開けると克也さんがキッチンにいた。

「ああ、おはようございます。今朝食が出来ますので、少し待っていてください」

 俺はとりあえず掃除の事を言うことにした。

「おはようございます、克也さん。昨日考えたんですけど、学校行く前に朝の掃除してもいいですか?」

 克也さんは机に朝食を置いて、ゆっくりと答えた。

「そうですねぇ、司君の管理人見習いの仕事も曖昧でしょうし、わかりました。そういう事でしたら朝の掃除をお願いします。これからは朝の掃除と入居者のコミュニケーションやリクエストに応えてください。いやぁ、助かりましたよ、最近は年のせいか朝起きるのが辛かったので、あははは」

 まだ老齢ではない30代後半の克也さんはそんな爺臭いことを楽しげに言っていた。

 俺は黙って朝食をとることにする。

 鮭の塩焼きに味噌汁とご飯に沢庵の漬物、目玉焼きとドレッシングをかけたサラダにこんがりと焼けたベーコン、それと何故かコロッケと焼き鳥が朝食メニューに入っていた。

 ちょっと朝にしてはボリュームが多い気がしたが、残さずに食べることにした。

 食事を取りながら、克也さんは思い出したかのように話した。

「ああ、そうだ。私は今日の夕方頃は管理会社に日報を書いて提出して、そのあと理事会に出席しなくては行けないので夜まで帰りません。夕食は商店街で買って食べてください。お願いしますね」

 管理人の仕事も色々あるんだなっと俺は思った

「わかりました。今日は夕方もアパート周りを掃除をしておきますね」

「司君が来てからは今後色々と手助けしてくれそうで頭が上がりませんねぇ。あはは、あっ、ご飯おかわりしますか?」

 これ以上食べると太る気もしたので遠慮して朝食を済ませた。

 ジャージのままアパートを出て、裏にある箒とちり取りを取って掃除を始めた。

 時間はまだ7時で、学校が始まるのは8時頃だ。

 バスで行けばだいたい20分で着くので、明日からはもっと早く起きようと思った。

 克也さんがドアを開けて声をかける。

「今日は急がないといけませんから、掃除は大雑把にすませていいですからね」

 それを聞いて、俺は掃除を20分ほどで終えるように急いだ。

 7時20分頃になり、家に戻って制服に着替えて、昨日貰った教材を入れたままの鞄を持って部屋を出た。

 部屋を出た時にアパートの上から声が聞こえた。

「あ、司君。おはよう」

 梨佳と黙ったままの槇村だった。

「おはよう梨佳さん」

 上を見て挨拶をすると、彼女のスカートからピンクのフリル付きが見えたので目をそらした。

 無防備すぎる人だと思い、公園を見ると学生服の智哉を見つけた。

 俺が手を振ると智也も嬉しそうに手を振る。

 なんだか年下の小学生を見ているようで微笑ましかった。

 俺の後ろから声が聞こえた。

「あたしには挨拶無しなんだ。へー、礼儀の出来てない後輩ね」

 振り向くとすぐ近くに暗殺者のように槇村がいた。

「うわっ!脅かさないでくださいよ!ってかいたんですか?」

 俺がそういうと槇村は冷ややかな目で俺を見てこう言った。

「あんたの目はあんたの物事の視野と同じで狭いわけ?梨佳ちゃんと一緒に2階にいたでしょうが」

 今日も嫌味たっぷりだなと思いつつ、一応挨拶する。

「ああ、そうでしたか。おはようございます?これでいいっすか?」

 普通に挨拶するのも嫌だし、ちょっと疑問形で言ってみたが、なんかそれが気に触ったのか槇村は怒っていた。

「調子に乗ってんじゃないわよ、自分がどれだけ矮小か自覚しておくことね。梨佳ちゃん、こんな奴ほっといてさっさと学校に行こう」

 そう言って槇村は梨佳の手を引っ張ってバス停に向かって歩いて行った。

 梨佳は困った顔のまま、苦笑いで俺に手を振っていた。

 そのまま心が矮小そうな先輩に連行されていった。

 あいかわらず自分本位で嫌な人だと思っていたら、智哉が笑顔で俺の前に立っていた。

 いつ着いたのか覚えていないが、さっき見た時はシュルエットだけだったのに足の早い奴だ。

「おはよう、司君。今の槇村先輩と梨佳ちゃんでしょ?喧嘩してたけど、なんかあったの?」

 智哉はそう聞くが、俺はただ絡まれただけなので適当に理由を上げた。

「挨拶できない心の狭い先輩が勝手に怒っただけだよ。気にすることじゃないよ。行こうぜ、今日サッカー部に入部するんだろ?ってか槇村のこと知ってるのか?」

「うん、入部届を今日貰って書いて、速攻でレギュラー取るんだ。あ、槇村先輩は僕が中学の頃に商店街で知り合ったんだ」

 楽しそうに話す智哉の前にアパートのドアが開く。

 頭を抱えて不機嫌そうな幼児体系にスーツという格好の峰屋が出てきた。

 峰屋は俺を見てちょっとにやけながら声をかける。

「おう、変態高校生。私の朝の姿を見たいがために待っていたのか?パンツは見せんが太ももくらいなら頬ずりくらいはさせてやろうか?」

「司君の知り合い?」

「知らない人だよ、さっ、学校行こうぜ」

 俺はそう言って智哉と一緒に歩いた。

 後ろから声が聞こえるが無視することにした。

「あっ、こいつふざけんなよ!なんだよ、このホモマスター、略してホモマスがっ!」

 智哉が俺を見て、本当に知らない人なの?っという顔で俺を見る。

 俺はため息をついて、智哉にこう言った。

「知り合いたくない知り合いの人だよ。同じアパートに住んでるんだ。管理人見習いの仕事上ああいう子供や無愛想女と話さなきゃならないんだ。それで毎月2万貰って耐える仕事してる」

「そうなんだ、楽しそうな人だねー。管理人みたいなことしてるんだね。色々教えてよー」

 大通りを歩いているとバスが横切る。

 バスの中には槇村と楽しそうに話している梨佳が見えた。

 バス停に着くと商店街から2人の見知った男を見かける。

 彩島と横田だった。

 朝から何をしているのか気になったが、俺を見て近づいて話しかけてきた。

「おお、司少年ではないか!朝の出勤ご苦労」

 横田さんが俺の方をポンポン叩きながら、そんなことを言う。

 智哉が困惑しているので説明を加えることにした。

「同じアパートに住んでいる横田さん」

 智哉がそれを聞いて、横田に挨拶をする。

「初めまして、司君の友達の佐倉智哉です」

「おお!良い目をした少年だな、司少年を冥府魔道に進ませずに清い道に導いてくれよ」

 横田がそういうと何故か智哉に握手を求める。

 智矢も嬉しそうに握手した。ノリがいいのか、流されやすいのかわからん奴だ。

 彩島も智也に自己紹介する。

「あ、俺も司っちと同じアパートに住んでる彩島って言うんだ。大学生だから彩島さんで固定しとくんだぞ。プリティフェイスボーイの智哉君」

 なんで大学生でさん付けが固定なのか疑問だが、彩島は今日1番のウインク顔で智哉を見る。なんで朝7時半からそんなテンション高いのか聞きたくもなった。

「はい、これから司君の家に遊びに行くこともあるので、その時はよろしくお願いします」

 智哉は笑顔で答えて、彩島と無言で握手を始める。

 いつのまにか変な法則が出来ていた。

 体育会系のノリってやつなのだろうか?俺には解らないし、知りたくもないが3人は会ったばかりなのに打ち解けていた。

 コミュニケーションが高いことを少し羨ましく思った。

 3人は俺を見るので、困ったがとりあえず一言言った。

「いや、俺は握手しませんよ、というかなんで2人ともこんな朝早くから商店街にいるんですか?まだお店ほとんど閉まってますよ?」

 彩島が俺が握手しないことに空気が解ってないなっと言った感じのため息の後にその疑問に答えた。

 ちょっと悔しい感じがしたが、流して聞くことにした。

「いやー、昨日司っちが家に来るって言って来ないから、ガッカリして横田っち呼んで夜に女騎士店で飲みに行ったのよ。で、そのあと大学のメンバも呼んで朝までカラオケしてさー。明日は俺ら講義が休講だし、朝までカラオケって、店の前で解散したんだわー。他のメンバーはこの後5美女と生徒会の裏教室でTRPG完徹でやるって言ってさ。俺は麻雀がしたかったけど、横田っちが今月ピンチだから負けんの嫌ってヘタレなこと言うからビール買って俺んちで飲み直しってやつよ」

 要するにあんたらは昨日の夜から今日の朝まで飲んで騒いでたんですか。

 もう色々と突っ込みが追い付かないので、そうですか、とだけ言った。

 智哉がそれを聞いて嬉しそうに答える・

「それじゃ、お酒が回らないうちに気を付けて帰ってくださいね、あっ、メアド交換しましょう!」

 3人でメールの交換をして、俺も交換しろと横田に言われ交換した。

 友達のメールを貰ったのはこれが初めてだった。

 少しだけ嬉しくもあり、悲しくもあった。

「ああ、さらばだ少年よ。学業に捕らわれて闇に沈まぬことを一杯の酒と共に見守っているぞ!」

 横田が意味不明なことを言いながら、彩島とビールの入った袋を下げて帰っていく。

 朝の通勤に反逆しているようでどこか面白かったが、真面目な登校気分があっさりと壊された。

 俺は智哉と美女と生徒会の裏教室って何だろう?とかTRPGって何だ?と言う会話を智哉としながらバスに乗る。

「その2つは知ってるから話すよ」

 智哉がそういうことに意外と詳しいのがちょっとだけ嫌だった。


 ※


 そんな朝の中で俺は学校に着く。

 教室に入り席に着くと隣の席の瑤子が心配そうな顔で挨拶する。

「おはよう司。なんか疲れてない?あんまり眠れなかったの?」

 朝の1件や槇村の相変わらずな態度にアパートの掃除が心にきているのだろうか?

 なんとも説明しがたい朝だったので、なんでもないと言った。

 智哉が嬉しそうに俺の代わりに答える。

「実は朝に司君の住んでいるアパートの楽しい住人に会いまして」

 瑤子は興味津々に聞きながら、俺に質問する。

「へー、管理人見習いなんてやってるんだ。楽しそうじゃん。梨佳も同じアパートに住んでるんでしょ?」

「う、うん。まあ、ね。そうか彩島さん達に朝会ったんだね。あの2人は明るくて楽しそうな人たちだし、司君も色々大変だったんじゃないかな?」

 梨佳だけが俺の心中を察しているようだった。

 瑤子が疑問に思って梨佳に話す。

「明るくて楽しい人なのになんで司が大変になるのよ?」

 梨佳が苦笑いで答える。

「ええと、瑤子ちゃん。テンションの高い人とずっといると解ってくると思うよ」

 そう言った後に佐伯先生が教室に入り、ホームルームが始まった。

 何はともあれ今日から高校生活が始まるので、俺は若干の疲れをだしたまま授業を受けることにした。


 ※


 英語、世界史、国語、数学と授業を終えて、昼休みには4人で学食で食事を取った。

 中学の頃なら昼休みが終わるまでは学校の図書館で勉強をしているのだが、こうして4人で学食を一緒にするのは初めてだったので新鮮だった。

 智哉とサッカーの話をしつつ、瑤子たちと軽音部の放課後の話をして、4人で俺と梨佳の住んでいるアパートの話になった。

「そういえば3限に横田さんからメールが来てさ、今度司君と彩島さんと横田さんと僕の4人で商店街で遊びにいこうよ!いいよね?」

 智哉がそう言うので少し悩んだが、日曜に行く約束をした。

 梨佳と瑤子はなんか残念そうだった。

 瑤子が俺と智哉にそれならっと言って話を始める。

「じゃあ今週の土曜日は智哉には悪いけど、軽音部で部室借りて練習ね」

「それいいね!私その日楽しみだなー。あ、佐伯先生に教室借りるように事前に申請しないとね」

 梨佳も乗り気だった。

 智哉が仲間外れは酷いよーっと言っていたが、土曜日はサッカー部の練習があるのでどのみち行けないらしかった。

 チャイムが鳴り、5,6限の授業を終えて、智哉はサッカー部のグラウインドに行き、俺達は2年のキーボード担当の茉理先輩と軽音部の部室の掃除をすることになった。

 梨佳の目は輝いていて、音楽が本当に好きなんだなっと羨ましく思えた。

 肩まで伸びた斜め分けの髪をサラッと撫でて茉理先輩は俺にこう言った。

「準備終ったし、それじゃあ司君にドラムの基礎教えるね」

 今日は夕方までドラムについて実践しながら教わった。

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