神に最も近い男
今日の夕ご飯はシチューだった。
――わぁっ。今日もおいしそうね!
真っ先に歓声を上げたのは、自分は食べもできないサロメ様だ。
――信一が一人で食べる時のご飯って、なんだかご飯っていうより食材って感じだもの。やっぱりこういう人間らしいご飯が一番よね!
――そうですね。
うきうきと声を弾んだ言葉を否定できる要素がないので大人しく同意する。僕は料理下手とかそういう以前の問題に、そもそも料理の仕方がよくわからないから一人でいるときは食べないか食材のまま食べる人種なのだ。
――ねえ、どんな味がするの?
――どんな味って……とりあえずおいしいですよ。
食に対するこだわりが欠けている僕に対して、そもそも食事をしたことのないサロメ様は興味津々と言った態度で聞いてくる。
――もうっ。そんな漠然とした感想じゃなくてもっと具体的にどんな味がするのか知りたいのよ。
――えぇー……。
そんなこと言われても、味に対して言葉を尽くせるほど僕は食事に興味はない。おいしいかおいしくないかまずいか。その三種類ぐらいしか味に対する感想は出てこない。
――まあしいて言えば……委員長のほどおいしいわけじゃないですけど、おいしいです。
――割と最低な批評よ、それ。ダメダメね、信一は。
正直な感想をぴしゃりとしかりつけられながらも、僕はアンナさんと夕食を食べていた。
さっきはああいったものの、一緒に異世界を来たクラスメイトの一人である委員長の食事がおいしすぎただけであって、アンナさんのご飯は普通においしい。なによりいいのは、一人きりの食事じゃないということだ。
人と一緒に食べれるというのは、それだけで心が温まる。
――ええっ。いつも私がいたじゃない。
――はいはい、お口でご飯食べれるようになってから一緒に食べたって言ってくださいね。
そんな風にしてサロメ様をあしらいながらもアンナさんと話す夕食の場の話題は、もちろん今日のゴブリン戦のことだった。
「いや、それにしても今日は大変でしたね」
「そうですね。今日はシンイチさんの頭の中が大変だって判明しましたね」
「あははははは、そうですね」
それはずいぶん昔に自覚してるから今更だ。
「もう。なにを笑っているんですか。笑い事じゃないんですよ?」
僕の頭の中身が大変だっていうのが判明したせいか、いつもよりちょっとだけお小言が多いアンナさんの態度だが、そんなものでめげるような繊細さは異世界に来て二年くらいで消え失せた。……我ながら結構時間がかかったと思う。他のみんなは、もっと早くに適応していた。
「今日のことはてっきりアンナさんが僕を死地に送って僕の信仰心を試してるのかと思いました」
「そんなことするわけないじゃないですか。私を何だと思ってるんですか?」
せっかく変なわだかまりを残さないですんだのだ。あえてお説教された話題のまま、わざとおどけた口調を作る。
「あはは。いや、昔、よくやられてたんですよ? 何人かで訓練の名目で適当な魔物の巣に投げ込まれて『これくらいの訓練地だったら信仰心が高ければ楽勝っすよー。……楽勝っすよね?』とかにっこり笑って突撃させられていたので、予想以上にゴブリンにが多かった今回もそれかなって」
「え? 誰ですか、その頭のおかしな人は」
この世界の宗教比率の実に九割以上を占め、アンナさんも所属する世界で最も正統的な宗教団体『中央聖教』の枢機卿の一人である『信仰の鎖』の所業を例に挙げたというのに、なぜかとてもいぶかしそうな顔を向けられてしまった。
「神官位の取得過程には確かに魔物討伐の訓練がありますけど、死地というほど過酷な場所ではないはずですよ。せいぜい先導者に従ってゴブリン狩りをするくらいで……魔物の巣って、どの辺りで討伐訓練をしてたんですか?」
「グレゴリオ火山とかパルテナ渓谷とかです」
「ねえ。さっきも聞きましたけれども、誰ですか。そこを訓練地とかほざいた頭のおかしい人は」
やっぱりうすうすは感じていたけれども、あそこでの特訓は普通ではなかったらしい。実践訓練の難易度がおかしいとクラスを代表して訴えた委員長に対して、あの頭のおかしい神官は「普通っすよ。むしろ訓練としては楽な部類っす!」とか言ってたけど、やっぱりおかしかったんだ。
アンナさんにはそのまともな思考を保ったまま信仰を続けていてほしい。行き過ぎた信仰で頭いっちゃった知り合いを見るのは心が痛むのだ。
――ま、まあ、あの子はちょっと熱心すぎるところは確かにあったわよね。
――あいつの所業がそれで済むんだったら、この世のすべての人間は聖人君子です。
――そうかしら。信一が言うほど悪い子じゃないと思うんだけど……。
ぶつぶつと呟くサロメ様の言葉はスルーする。サロメ様の人物批評はおおらかすぎるので、信用すると痛い目を見るのだ。
「第一級の封鎖地域ですよ、そこは。高位の魔物が出現する地域じゃないですか。厳正に管理されるべきであるそこに訓練の名目で踏み入るような人が神職にいるとは思いたくないんですけど……というか、よく生き残れましたね」
「周りの人たちが超強かったんです」
朝食のスープを飲み干しながら真実を明かす。
「僕がなにもしてないのにバッタバタと周りの魔物が倒されて塵に還っていく光景は圧巻でした。アンナさんにも見て欲しいくらいすごい光景でしたよ?」
「……そうですか。いえ、そんなことだろうとは思ってましたけど」
悪びれもなく寄生虫していましたと発言した僕に、アンナさんはおおきくおおきくため息を吐く。
「はぁ。聞けば聞くほど、どういう経緯でシンチイさんが司祭様になれたのかわからないですよ……」
「え? そういう話題だったんですか?」
「そうです。シンイチさん、自分のことをあんまり話さないじゃないですか。だから聞いたんです」
異世界から来た勇者だなんていう身柄がばれたら面倒になるから黙っていたんだけど、どうやらそれがアンナさんの不信を煽っていたようだ。どうやら経歴を探られていたらしい。
「あはは。嫌だなぁ。アンナさんが僕に興味しんしんだなんて、照れちゃいますよ」
「そういう風にごまかすから気になるんですよ」
「そうですか?」
「そうです」
照れたのは本気なんだけど、あっさりあしらわれてしまった。
探られたからにはある程度アンナさんの興味心を満たしておいた方がいいだろう。実のところ僕は、中央聖教から脱走して逃げ出しているという身の上だ。ありがたいことにまだまだ捜索の手配はされてないみたいだけど、変に探られたくはない。一応は『神に最も近い男』なんていう称号をもらっているくらいには有名人なのだ。
この程度の情報じゃバレないだろうと、残ったパンをもぐもぐしながら神官服をつまむ。
「まあ確かに、自分でもこの服は過分だなぁとは思います」
「自覚あったんですね……」
「そりゃありますよ」
これは某頭のおかしい枢機卿にもらったものだ。なんでこんな目立つ服を着てるかって、やっぱり便利な服だしそもそもこれしか服を持ってないからだ。
――新しいの買えばいいんじゃないのかしら。
――残念。そんなお金ありません。
なにせ着の身着のまま逃げだしたせいで一銭も持ち合わせがないのだ。もともと逃亡中は人里に近づくつもりがなかったから別に良かったんだけど……これからどうしよ。逃げ出し当初ならともかく、いまの状態で人里に近づかないで逃亡の旅を続けるのは厳しい。だから一か月以上もこの村に逗留してしまっているというのもあるのだ。
とりあえず、今回は素直にアンナさんの問いに答えることにした。
「これはコネでもらいました」
「いま私は神官位を縁故で受け渡したという教会の腐敗を聞いた気がするのですけど、気のせいですよね」
怒ってない今なら聞き流してくれないかなって思ったら、そんなことなかった。
「すいませんアンナさん。それたぶん気のせいなので、聞き流しておいてください」
「なるほど。つまり嘘じゃないんですね。いまの嘘じゃないなら、ちょっとその人物教えてください。ぜひとも上層部に告発したいので」
真面目なアンナさんらしい発言だけれども、やめて欲しい。上層部の人がここに来たら、僕の正体がバレる恐れがある。
「勘弁してください。僕はどうなっても構いませんけど、あいつ偉い人なんで見っ濃くなんてしたらアンナさんが心配です!」
「もう一回お説教してほしいですか?」
「あ、すいません」
断り文句が適当だったのを一瞬で見抜かれたので、即座に謝る。
「真面目に言うと、僕は教会内部でもあいつともう一人にだけは二度と関わらないって決めたんです。なので、いくらアンナさんにも教えられません」
今度は真剣にきっぱり断ると、身を乗り出していたアンナさんは一瞬だけ唇を尖らせた。
「む……いえ、そうですね。事情があるなら、無理に聞き出そうとは思いません」
自分の正義感をごりおしせず、こうやって他人に気遣えるのは素晴らしい資質だ。アンナさんの人徳の元でもあり『慈悲』の加護をもらうに至った心の持ち主であるということが良くわかる。
「ていうか、アンナさん。さっきまでの体勢はなんだったんですか?」
これ以上身の上を探られてもホコリしか出てこないので、話を別方向へと誘導する。
異世界に来てから三年経っているので、ある程度の風習は馴染んでしまっているからこそ知っている。
この世界に、正座という風習はない。
僕の疑問に、アンナさんよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに目を輝かせた。
「これは異世界の勇者の一人である『生命の御子』様がお伝えくださった、新しい懺悔の方式だそうです!」
「え」
話題を逸らしたかっただけだったんだけど、いきなり跳ね上がったアンナさんのテンションと予想外の名前が出てきて目が点になる。
「生命、の御子……?」
「ええ、そうです。本名までは私も知りませんけど、三年前にこの世界に召喚された二十四名の勇者様方の一人。その中でも魔王と相対したパーティーのメンバーでもあった方の異名です!」
「へ、へー。そうなんだ」
ああ、うん。
得意げに語っているアンナさんには悪いけど、よく知ってる。『生命の御子』ってあれだよね。小日向君のことだよね。知ってるよ、うん。明かす気はないけど一応僕も、アンナさんの言うところの異世界から来た勇者の一員だからね。クラスメイトのことくらいは、いくら物覚えが悪い僕でもちゃんと覚えている。
――小日向君って言うと……『生命』の加護をもらった子よね。
――はい。そうですよ。
――でもあの子、そんなに尊敬されるような子だったかしら……?
――いえ、全然。尊敬とはほど遠いパッパラパーでした。
小日向君は『生命』を司る神様から加護をもらったクラスメイトで、かなりお茶らけた性格をした男子だ。いわゆるムードメーカーであり、僕の知る限り一番正座と土下座に慣れた勇者だった。しかも大体の場合、土下座しても許されないまでがテンプレだ。小日向君がクラス男子八割を率いて女子風呂を覗いた時、通称『大風呂冬の陣』及び『大風呂夏の陣』では、こっぴどく撃退されたあげく必死な土下座の甲斐なく主犯の咎でひどい事されていた。多種多様のチート加護を持つ女子勢からの私刑は、『生命』の加護をもらって異常な生命力と再生力を持った小日向君じゃなきゃ間違いなく死んでたと思う。
その彼から懺悔の手法として日本的方式がこの世界に広まっているということは、たぶん今でも小日向君は正座と土下座を続けているのだろう。別れてから三か月ばかり経つけど、とても彼らしく生き続けているようで、ちょっと安心した。
「一年前に中央聖教の枢機卿の第三席『信仰の鎖』様に率いられて魔王を退けてくださったお一人である、ありがたい勇者様のおひとりが広めてくださっている儀礼です。シンイチさんもその礼をもって心を正してもらおうというのが、さっきの姿勢の狙いです」
「ああ、うん。そだね……」
いたたまれなくなって、さっきまでとは違う意味でアンナさんを見てられなくなってしまった。『生命の御子』はただのチャラ男君だし『信仰の鎖』に至っては、いまさっきアンナさんが頭おかしい人呼ばわりした張本人だ。その人物の伝歴をきらきらした瞳で語られても、なんとうか、その……困る。
――……土下座って、別にそんな大層なものじゃないわよね?
――いえ。一応、僕たちの国では最上級の謝罪様式ではありますよ?
ただ小日向君が安売りしすぎて、サロメ様にはかなり軽いものとして認識されてしまっているだけだ。本来はかなり屈辱的な気分を強いる姿勢である。
教会勤めで神官資格を持つアンナさんだけれども、もともと純朴なのかこんな辺鄙な村に住んでいる影響なのか、流行り話や英雄譚に影響されやすく純真な憧れを持っているのだ。特に勇者の功績は、今がまさに旬の話だからアンナさん的にはヒットしているんだろう。
「『生命の御子』……なにせ初期五神の加護をもらった方です。きっと素晴らしい方なのでしょうね!」
きらきらと目を輝かせる夢見る乙女がそこにいた。
教会に勤めているのに、ちょっと俗っぽいところが抜けていない。それはアンナさんのかわいらしさの元になっているけど、乙女すぎて童貞の僕だと反応に困ることが多々ある。
「そだねー。きっと超素晴らしい方だと思うヨー」
お説教と詮索から話をそらせたことは何よりだったけど、話題がちょっとクリティカルだ。
でもアンナさんの純朴な夢をぶち壊すのも何なので『生命の御子』がセクハラが趣味のクソ野郎ですよ、というのは教えないであげることにした。
「ああ、信一さんも分かりますかっ。勇者様がたの冒険譚は、もういろいろと楽しみがあって素晴らしいですよねっ」
「デスヨねー」
「『友愛』の勇者様が『空騎士』と呼ばれるようになるまでの成長物語は素晴らしいサクセスストーリーですし、亡国の王女様と『勇気』の勇者様との恋愛話はもう胸が締め付けられるような甘酸っぱい話の数々で……ふう」
うっとりと息を吐いたアンナさんによって並べ立てられるクラスメイトの逸話の数々に、リアルタイムでその物語を目の当たりにした僕はなんだか微妙な気分になってきた。
特に『友愛』の勇者様こと貴樹ちゃんの成長って……ミス・ランドセルの異名を持つあのロリっ子はこの異世界に来てからも身長は一ミリも伸びてなかったし。いや、そういう意味の成長じゃないことは分かってるけど。確かに貴樹ちゃんの成長ぶりは、クラス随一と言ってもいいほどすさまじいものだった。こっそりとではあるが、僕の自慢でもある。
――あら? どうして『友愛』の加護の子のことが信一の自慢になるの?
――ん? だって貴樹ちゃん、僕の数少ない友達ですもん。
数少ない友達で、唯一の親友だ。男女の垣根を超えて友情をはぐぐんだ子の功績が嬉しくないわけがないし、ひそかに自分の自慢にしたっていいと思う。
「シンイチさんはどの勇者様のお話が好きですか?」
「んー……勇者様の中だと、いいんちょ――じゃなくて『四元』の勇者様かな」
――あら? 貴樹ちゃんじゃないの?
――ええ、まあ。
アンナさんに問われて、貴樹ちゃんではなく委員長を出したのは適当な気持ちではない。
二十四人いるクラスメイトの中には、それこそ物語になるほどの所業を打ち立てた人もいたし、勇者と呼ぶにふさわしい活躍をしていた人もいた。それに貴樹ちゃんは友達として仲が良かったから大好きではあるけれども、やはり委員長には頭が上がらないのだ。
特に魔王討伐に随行したメンバーは全員、それこそ委員長のことを神のように崇め立てていた。というか、委員長が居なかったら、あの旅は絶対に途中で挫折していた。
僕の中ではアンナさんと委員長でツートップの女神様だ。心の底から尊敬してる。
――私は? ねえねえ信一。私は?
もちろんだけれども、答えなんてわかりきっているくせに、語調を必死にさせるものすごくうっとうしい女神様なんて論外だ。サロメ様のことを本気で崇め立ててまつっているのなんて、中央聖教信者くらいなものだ。
つまりかなりの人数になる。大変遺憾なことに、サロメ様を本気で信仰しているのは結構な人数に登るのだ。
やめて欲しい。サロメ様が調子に乗って『この世界は私のハーレムだわ!』とか勘違いし始めるかもしれないじゃないか。
――そんな頭の悪い勘違いはしないわよ!?
「『四元』の勇者様の加護がなかったら、絶対にああいう過酷な長旅は絶えられなかったと思うんだよね」
「ほほう」
それだけでもなくて、委員長の最も不幸な時の苦労を知る身としては彼女の頑張りにはエールを送らなければならないという使命感に駆られてしまう。
いや、あの時の委員長、ほんと大変そうだったし。
サロメ様をガン無視した僕の委員長上げに、きらりんとアンナさんの目が光る。
「なるほど『四元』の勇者様……渋いところを突いてきますね、シンイチさんは。なかなか通好みじゃないですか。確かに直接の戦闘力は勇者様の中では劣ったと伝え聞きますけれども『四元』の勇者様のサポートがないと、魔王討伐時のパーティーは空中分解していたという説もあります。枢機卿『信仰の鎖』様は、残念ながら細かいところに配慮がいく方ではなく、人間関係の要は『四元』の勇者様だったという――」
――英雄譚とかになってるからあてにならないと思ってましたけど、意外に的確なんですね、こういうのって。
――そうねぇ。でも『四元』の加護をもらったあの子、今頃なにをしてるのかしら。
――さあ? 聖地を出るっていうのだけは聞きましたけど、それからは以降はなんとも。委員長だったら教会に限らずどこでも歓迎されると思いますし、とりあえず元気でいるだろうってことぐらいしか想像できないです。
魔王討伐のメンバーの中ではピカイチに性格が良かったし『四元』の加護はいくらでも応用の利く非常に便利なものだ。能力的にも性格的にも、委員長だったらどこでもうまくやっていけるだろう。
「後はなんといっても、魔王撃退の一番の功績を立てた英雄『神に最も近い男』とまで呼ばれた勇者様ですね! 異世界から来た勇者様の中では破格の力を誇って、信仰にすべてを捧げたような方だったらしいですけれども――」
――あ。やっぱり噂は噂ですね。
――えぇー。
サロメ様がなんか不満そうな声を上げたが、こればっかりは譲れない。
だって『神に最も近い男』とやらは、よりによってこの僕のことだ。その人物像がよりによって信仰にすべてを捧げた人物だと認識されているなんて……どうしよう。すごく恥ずかしい。悪い意味で、とてつもなく恥ずかしい。
破格の力? ええ、そうですとも。いろいろと悪い意味で破格の力でしたとも、このサロメ様直通回線は。
――いいじゃない。恥ずかしい噂でもないわよ?
――嫌ですよ。冗談じゃないです。サロメ様のジョークって何でいつもそんなにつまらないんですか?
そもそも信仰にすべてを捧げたっていう噂話が気に入らない。
僕は、サロメ様を信仰しないと決めたのだ。
「いいですか、シンイチさん。なんだか適当な信仰しかしてなさそうなシンイチさんも、ぜひとも『神に最も近い男』と呼ばれるまでに至った勇者様の信仰を見習ってください。なんなら、このまま説法代わりに『神に最も近い男』と呼ばれた勇者のお話をしても――」
アンナさんってお説教もそうだけどこういうお話も長いなあ。
――女の子ってそういうものよ。男の子ならもっと真摯にお話を聞かなきゃダメじゃない。
――貴樹ちゃんとか、あんまりしゃべらない子もいますよ?
――だからっ。信一はなんでいちいちそうやって比べるのよ!
――いやだって、貴樹ちゃん僕の数少ない友達ですし……。それに女の子でしゃべれる知り合いなんて、貴樹ちゃんと後は委員長くらいですし。
「つまりですね。異例なことに『神に最も近い男』の勇者様は異世界から召喚された中でも最初から強い信仰を持つための下地があったのではないかと考察されていて――」
――ここでその英雄様が僕ですって言ってみたら、アンナさんどういう反応すると思います?
――あの……あんまりこういうことは言いたくないけど、たぶん信じてもらえないわ。
――ですよねぇ。
それは望むところなので特に落胆せずに事実は事実と受け入れながら、アンナさんの口から嬉しそうに語られる僕の脚色された黒歴史を聞き流していった。
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