深く、深く、愚かしく

 異世界に召喚されてから三か月余り。

 その時の僕たちは、ありていに言ってしまえば調子に乗っていた。

 異世界に来たのは、クラスメイトの大半にとって本意ではなかった。いくら歓待されようと、勇者だともてはやされようと、元の世界へ帰りたいと願うクラスメイトが大半だった。

 だって、僕たちはただの高校生だった。

 生まれ育った平和な世界に帰りたいと願っていたが、それでも与えられた力に溺れていた。加護という超常の力に依存しきっていた。

 だって、僕らにはそれしかなかったのだ。

 この異世界での生き方も知らなければ身分もない。だからクラスメイトのみんなは、すがるようにして加護という力に溺れるしかなかった。それに縋り付くしか、自分たちの立場を確立する方法がなかった。自分は強くて大層なやつなんだと、そう思うしかなかったのだ。

 もちろん違う人間もいる。僕や貴樹ちゃんはそもそも加護に大した力なんてなかったし、クラスをまとめようと四苦八苦していた委員長や白鳥君は加護に溺れる猶予すらなかったはずだ。

 自分の立場もあやふやで、些細の考えの違いで対立する。僕たちは、そんなまとまりのない集団で、それでも加護なんて言う凶器を持った危なっかしくも増長したクラスだった。

 それを踏みつぶしたのは、僕たちと同年代の少女だった。


「ふむ。こんなもんっすか、異世界の勇者様方は」


 手に持った鎖がじゃらりと音を鳴らす。細かく壮麗な細工が施された鎖に、実用性などまるで見受けられない。事実それは儀礼用の道具であり、戦闘用の武具などでは決してなかった。

 ただ、彼女はそれを好んで武器として用いた。


「ここまで手ごたえがないと、わざわざあたしが来たかいがないんすけどねぇ」


 軽く愚痴る彼女の声は、場違いなほどにこやかだ。

 立ち向かった二十三人の勇者を、ことごとく叩き伏せた悪魔にはいっそふさわしい表情かもしれない。傷どころか汚れの一つもないというのに、そこにある存在感はあまりにも大きかった。


「ね、そう思わないっすか、勇者様?」

「お前は、お前は何なんだ……!」


 にこやかに問いかける悪魔に応えたのは、もちろん僕ではない。光輝の剣を握る勇者だった。

 白鳥潤。

 僕たちのクラスのリーダー格であり『勇気』の加護をもらった人物でもある。委員長を補佐にしてクラスをまとめあげ、この国の王侯貴族との交渉を一手に担っていた僕たちのカリスマ的存在。さらには戦闘用の加護としては随一の力を持ち、クラス最強と認識された彼が、かろうじてまだ立っていた。

 そう。

 そんなかれでさえ、かろうじて、だった。


「んー? そういえば自己紹介をしてなかったっすね。あたしは異端審問官筆頭にして枢機卿第三席『信仰の鎖』っす。悪いっすけど、あなた達の身柄は確保させてもらうっすよ」

「なんでだっ……」


 クラス最強の勇者と、悪魔じみた枢機卿の対峙。僕は、ただ怯えてその光景を見るしかなかった。他の二十二人のクラスメイトは、全員が倒れ伏していた。その中には僕よりずっと強い加護を持ち、この国有数の騎士と言われた人に打ち勝ったクラスメイトもいた。

 そんな彼らを、自ら枢機卿と名乗った女は一蹴して見せた。

 まともに意識があるのは、僕と白鳥君と、後は白鳥君の隣にいたこの国の王女様だけだ。

 僕はこの三か月、何もしていなかった。サロメ様と話せるという僕の加護の内容が知られたとたん、クラスから引き離されて保護された。そのため、クラスメイトとの接触もろくになく、外の様子もよくわからない。ちょっとした偶然で貴樹ちゃんと仲良くなれたのが唯一の成果だった。だから、何もできずに隅で震えていた。だからこそ、今まで叩かれずにすんだのだ。


 ――ひっく……。


 サロメ様の泣き声が頭の中で響いていた。ずっと、ずっとサロメ様は泣きっぱなしだった。クラスのみんなが集まった広場で闘いとも呼べない蹂躙が始まり、ここまで至るまでの十分にも満たない時間。怒号と悲鳴に満ちた広場で、サロメ様は泣いていた。

 人が傷つく光景に、泣きじゃくっていた。


「いやっすねぇ。教会が加護を持った人間を保護するのはよくあることっすよ。そもそも神に愛された加護持ちを国が囲い入れることは、一部例外を除いて教会が禁止してるっす。特にあなた達の加護は強力っすからね。それに、異世界から来たんすよね? なら教会で確保しないといけないっすよ。たかが一国が独占なんかしたら、いろいろと混乱が起こるかもしれないじゃないっすか」

「なら、放っておいてくれればいい」


 僕が何もできない中、白鳥君が声を振り絞る。


「俺たちは、今から帰るはずだったんだ!」


 その場には、くしくも二十四人の勇者の全員が揃っていた。ちょうど白鳥君が元の世界に戻る方法があると知らせてくれて、それを実行しようという段だったのだ。そのため、白鳥君は二十四人のクラスメイト全員を集めた。その場に王女様もいたのは少し不思議だったが、僕たちを召喚したのがそもそも王女様だったのだ。送還も彼女がやってくれるのだろうと納得していた。

 送還の方法は知らなかったし、サロメ様がやたらとどんよりしていたのは気にかかったが、それでも帰れると聞いて僕は喜んでいた。僕だけではなく、クラスの全員が喜んでいた。

 そこに殴り込みに来たのが、目の前の女だった。


「あと少し……あと少しで帰れたのに、どうして邪魔をする! 勝手にこの世界に呼んで、引き止めて……そんな連中の目をかいくぐってそれでようやく帰れそうっていう時にどうして邪魔をするッ、お前のやってることのどこに正当性があるんだ!」

「そりゃ、帰っちゃダメっすよ。それは神意に反するっす」


 僕らの希望を押しとどめた彼女はあっけらかんと告げる。


「異界を隔てる勇者の召喚は、神の加護を私欲に用いようとする薄汚い大罪っす。それは教会の規定でなく、この世で唯一、神から直言賜った禁則事項っす。それは勇者送還も例外ではないっすよ? 次元を超えようとするのが、神意に反するっす」


 初耳のことだった。


 ――さ、サロメ様?

 ――……ごめん、ね。私が、昔に言ったことだから……。


 ぽつりと呟かれた言葉に、それが真実だと知る。

 どういう経緯でサロメ様の言葉が伝わったかは知らないが、確かにそれは神意に反するのだ。だからこそ、サロメ様は僕たちが帰れると聞いてずっと暗い声だったのだ。

 おそらくこの世界で王侯貴族との交渉役も担っていた白鳥君は知っていたのだろう。ぎくりと顔をこわばらせた白鳥君に、ウィー・ファンはいっそ優しい口調で語り掛ける。


「そうっすよね。まあ本来ならぶっ殺確定っすけど、未遂だから許してあげるっすよ。それより、そこの王女さんが送還の核っすか? そういえば敬虔な中央聖教の信者だったそうっすね」

「……ッ」


 枢機卿が入り込んできてからずっと祈りを捧げる姿勢だった王女様が、びくりと震える。

 白い髪に、赤い瞳。血管が浮き出るほどに透き通る肌を持つ彼女は、とてもはかなげな美少女だった。アルビノという知識は、僕にもある。王女様は免疫機能が著しく劣る生まれだったが、魔力強化を行使できる人物でもあった。そのため健常者とそん色ない振る舞いが可能だった。


「はい。枢機卿様の、おっしゃる通りです……」

「あはは、やっぱりっすか。なら、王女さんがあなた達を呼んだんすね。神々の加護を持つものを二十四人揃えて、信仰に厚い信者が魔力強化によって執り行うことによってなされる次元の突破。中央聖教が固く禁止している禁忌を行うような信者がいるわけないと思ってたんすけど……なるほど。王女さんが異端者だったんすね」


 ウィー・ファンが目を細めて王女様を見据える。異端審問官の口から出る異端者といういう単語の響きは、ひどく不吉に響いた。

 白鳥君もそれを感じ取ったのだろう。枢機卿の視線から王女様を遮るように前へ出る。


「どれもフィーラの意志じゃないっ。俺たちを呼んだのはこの国の王に強要されたことで、今回のことは俺が無理に頼み込んだことだ!」

「そっすか」


 白鳥君がフィーラと呼ばれたこの国の王女様と個人的な親交を結びつつあったのは僕でも知っていたことだった。それでも恐怖の権化としか思えない枢機卿を前にして王女様をかばう白鳥君は、まぎれもなく『勇気』の加護を持つにふさわしかった。

 けど、目の前の異端審問にして枢機卿でもある神官にとってはそんなものどうでもよかったのだろう。


「これで確定っすね。そこの王女さんは異端者っす。異端者は拷問してさらし首っす」


 空気が、凍り付く。

 白鳥君が愕然と目を見開く。王女様が、固く目を閉じる。サロメ様が、はっと息を飲む。僕は……やっぱり、怯えていた。


「大丈夫っす。この国の王族は、一族郎党残さずさらし首っす。事情を知って黙認していた貴族の連中は残らず見つけ出してぶち殺すっすよ。何も知らないこの国の国民連中には難民にでもなってもらうっす。それで万事解決っすね。やー、めでたしめでたしっす」

「なにを……なにを言ってるんだ、お前は……?」

「安心するといいっすよ。あんたらの確保なんてついでっす。異端審問官筆頭のあたしが来たのは、勇者召喚なんてして神意に反したこの国を滅ぼすためっす。あんたらがこの世界に呼ばれたせいでこの国は滅びますけど、気に病むこと何てなんにもないっすよ。あんたらも被害者っす」

「お前は……なんなんだ……」


 あまりにも信じられない言葉だ。僕たちを呼んだから、それだけで国を滅ぼそうだなんて正気の沙汰とは思えない。


「お前らは……この世界は何なんだよぉ!」


 呆然と繰り返した白鳥君の二度目の問いかけに、ウィー・ファンはにこりと笑う。


「あたしは教皇より『信仰の鎖』の座を頂いた枢機卿で、この世界は神に愛された次元っす。異端審問官でもあるあたしは、それを乱して神にあだなした異端者を一匹たりとも許さないっす」


 いっそ清々しい瞳には純粋な狂信があった。


「分かったっすか、勇者様?」


 人を殺して国を滅ぼしても、それが正しいと信じて疑っていない。そういう目だった。

 その時の僕には、そいつの気持ちが理解できなかった。人を殺そうとしてなおも自分が揺るがないそいつを、一生理解できないと思った。生涯相容れない頭をしている人間が目の前にいるんだと思った。

 ……自分の未来も知らずに、愚かにもそう思った。

 本当の意味で目の前の枢機卿と決して相いれなかった白鳥君がとうとう対話の言葉を失くす。


「ふ、ざけるぁああああっ! 分かってたまるかぁっ、この狂信者がぁあああああああああ!」


 叫び声に呼応するように、白鳥君が握る光が膨れ上がる。

 それは『勇気』の想いに応じて、どこまで輝き強くなる剣だ。鋭く輝く、白鳥君の底などないと思わせるその加護の強さは圧倒的だった。

 光輝の剣が振るわれる。膨大な光の柱となった加護がほとばしり、全てをなぎ倒す力となる。


「ふむ。これが『勇気』の加護の至高……なるほど」


 僕たち二十四人のクラスメイトが最強だと信じて疑っていなかったその刃を、ウィー・ファンはちょっとだけ眩しそうして、うっとうしそうに目を細めただけだ。

 僕たち勇者全員にとって至高の加護を、ウィー・ファンは端的に評価する。


「やっぱり、ただの雑魚っすね」


 勇気の加護が砕け散った。

 ただ虫でも払うようにして手を振った動きで、光の剣は微塵に散った。


「なっ……!?」

「じゃ、ちょっと寝ててくださいっす」


 砕け散った光の破片が消え去る間すら待たなかった。

 魔力強化。

 存在を強化する、神の欠片。それを込め、恐ろしい速度で振るわれた鎖が、あっさりと白鳥君を打ち据えて吹き飛ばす。打たれた白鳥君は悲鳴すら上げることを許されず意識を手放した。

 その結果に王女様は悲し気にまぶたを揺らし、枢機卿はふんっと鼻を鳴らす。


「あーぁ。弱いっすねぇ。こんな奴らを使って中央聖教に叛逆しようだなんてお笑いっす。ま、すぐに消えて亡くなる国なんて別にどうでもいいっすけど。……あ、王女様はあとでちゃんと殺してあげるっすよ。いいっすね」

「……はい。覚悟の上です」

「ん。いい子っすね。異端者の割には、っすけど」


 たぶん、最初から結果が分かりきっていのだろう。王女様はそもそも勇者召喚には反対派だったらしい。それはたぶん、いまの結果が訪れると理解していたからだろう。それでも彼女は中央聖教に反発し、その手段として強硬に勇者の召喚を執り行うと決めた国王に、自分の父親に逆らえなかったのだ。

 そうしてずっと僕たちの味方をしてくれた彼女は、きっと、こうなる前に僕たちを送還しようとしてくれていた。それは禁忌を破った責任感からか、それとも白鳥君との親交によって生まれた別の感情なのかは分からない。

 でも、ちょっとだけ遅かった。

 自分の悲惨な末路を知っていて、それでも従順に頷いた王女様に満足げに頷いて、視線を最後の一人である僕に移した。


「で、あなたも勇者様っすか」

「は、はい」


 一秒後には死んでいるんじゃないか。最強だった白鳥君が一撃で倒されたのだ。クラス最弱の僕が、何かできるはずもない。

 死を覚悟している王女様も、もう諦めきったように膝をついて祈りを捧げていた。


「ゆ、ゆうしゃ、ですけど、何にもしないです……」


 恐怖に打ち震えながらも、僕は何とか声を絞り出す。そんな情けない僕の姿に、目の前の神官はけらけらと笑った。


「あはは。さすがにもう抵抗する気力はないみたいっすね。ちなみにあなたはどのお方の加護を得てるんすか?」

「う、『運命』の女神様の……」

「おー。サロメ様っすか」


 そこはさすが最上級の神官と言うべきか。『運命』の女神と言っただけで、するりとサロメ様の名前が返ってきた。


「いいっすね、いいっすね。あたし、サロメ様が大好きなんすよ。で、まあ、あのお方のことっすから答えは分かりきってるんすけど……どんな加護っすか?」

「さ、サロメ様といつでもお話できる加護、です」

「そっすよねー。サロメ様の加護は全人類共通で、人生で一番不幸な時にサロメ様のお言葉を聞ける加護――はい?」


 笑顔のまま首を斜めにしたウィー・ファンが硬直した。


「い、つでも……?」

「は、はい。今も、聞こえてます」

「は?」

「え?」


 留まることのない信仰を神へと捧げるウィー・ファンが、この国に来て初めて固まった。


「いつでも……? いつでも……ああ、なるほど。いつでも、っすか。ああ、ふむ、そっすね……ぁああ――はははははははははぁ!」


 困惑から、不意に狂気が弾けた。


「ぁああああああはははっはぁああああはっははははははははははははははは!」


 空気が、振動で打ち震えた。

 魔力強化を込めた笑い声はあまりにも大きく響いた。息を吸い込む肺が、音を鳴らす喉が強化され、本来なら不可能なはずの力が込められた笑い声は、この部屋を突き破り、国中に響き渡るかのように鳴り響いた。

 そうして息を吐ききるまで笑いきったウィー・ファンは、この世を祝福するかのように両手を広げて空を仰いだ。


「ああ! 今日ほどにこのクソみたいな世界に生まれたことが喜ばしかったことは、そっねぇ! サロメ様のお言葉を聞けた、あの時以来かもしれないっす!」


 あまりに強烈な感情の発露に打たれて、僕は体の芯から怯えてすくみあがる。

 そんな僕に、ウィー・ファンはずいっと顔を近づける。


「ねえっ。サロメ様はいまどんなことを話してるっすか!」

「な、泣いてます……」

「はぁ!?」


 目をむいた。殺意をむき出しに牙をむいて、噛み砕かんばかりの形相だ。

 やばい殺される。そんな勘違いをしてしまったとしても、仕方ないだろう。それほど恐ろしいほどむき出しの恐怖がそこにあったのだ。


「泣いてる!? なんでっすか!? 教えろっす! サロメ様を泣かせたクソ虫は残らずすりつぶしてやるっすから!」

「あ」

「『あ』!? 名前の頭文字が『あ』で始まるクソ野郎っすか! ああっ! そう言えばこの国の王さんの頭文字が『あ』だったっすねっ。ちょっと待ってくださいっす! いますぐそいつの首を持ってくるっす!」

「ああ、あああああなたに、怯えてます」

「……」


 ウィーファンが停止した。

 表情の一切が抜け落ちた。

 顔面から一瞬で激情を洗い流して漂白させたウィー・ファンが、自分の周囲を確認する。

 この揃馬には、クラスメイトの二十三人が倒れ伏している。王女様は目をつぶって裁きを待つ体勢で祈りを捧げていた。広場の一部は戦闘の余波で崩れており、あちらこちらにクラスメイトの血痕が飛び散っていた。

 この広場で倒れている中には貴樹ちゃんもいるし、委員長もいる。ほとんどが意識を手放しており、一部意識があるものもいるが動くことすらままならないほどのダメージを受けている。間違いなく手加減されていたのだろう。死んでいる者こそいないが、立ち上がれそうな人物は一人としていない。そういえば、再生能力持ちの小日向君はと思って見れば、あおむけになったまま薄目でこっちを見ていた。どうやら死んだふりをしているらしい。

 何にしても、小心なサロメ様が泣きだしてしまうには十分すぎるほど狂気が入った光景だった。


「……そっすね。確かに怖いっすね」


 ぽつりとこぼされた言葉。自分の非を認めたと同時に行使される、空恐ろしいほどの魔力強化。いままでの非ではない。そこに存在するだけで、息が詰まる。信仰のことなど何も知らない僕ですら、その強烈なまでの魔力が感じ取れた。

 たぶん、その鎖を本気で振るえばこの王城が全壊する。それほどの存在がウィー・ファンの持つ鎖に濃縮されていた。


「ぇ」

「それじゃあ、死ぬっす」


 あ、死んだ。

 サロメ様を怯えさせたこの光景を、王城ごとまとめて壊すつもりなんだ。ウィー・ファンの言葉をそう解釈した僕の思考とは裏腹に、彼女はその鎖を振るわなかった。

 見ているだけで押しつぶされそうなほどの魔力が込められた鎖を、なぜか自分の首に巻く。

 自分に鎖を巻いたウィー・ファンは、聖職者にふさわしく清らかに笑った。


「死んでわびるっす。サロメ様には、ウィー・ファンは信仰に殉じたと伝えてくださいっす」

 ――やめてやめてやめて!? お願い信一! あの子を止めて!

「ややややややめてください! サロメ様もそう言ってます!」


 それが、僕たちとウィー・ファンの出会い。

 あの最悪の枢機卿をぶっ殺せる唯一の好機を逃した、文字にも表せないほど最低な出会い。その彼女と出会ったことによって、僕は信仰を知ることになる。

 深く、深く、愚かしく。

 僕はこの世界の信仰に、身を捧げることになった。

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