PARTⅢの15(33) 妖怪ガメツカメ3
役人は配下の者に大判小判を持たせて江戸から愛人と一緒に姿をくらまし、遠い地方のある藩まで行って、
そこで殿様に多額の大判小判を
彼は城の改築のために殿様に
ところがそれからしばらくして、役人はいきなり
「お前はわしに献上した大判小判が惜しくなって全て取っただろう」と言われた。
役人は身に覚えがないと答えた。
実際は、大きな甕の姿をした妖怪が深夜、城に現れて献上した大判・小判を全て吸い上げてしまったんだ。
それは、死んだ貞と
殿様は
「お前がわしの寝首を
殿様は心をガメツカメに操られていたんだ。もう何を言っても無駄だった。役人は城下の広場で公開の
殿様が役人の大判小判全てを没収するために藩士を差し向けると、役人の金蔵はカラッポだった。ガメツカメが全てを吸い取ったあとだったのさ。
ガメツカメはその後しばしば沢山の政治家や役人や金貸しや相場師などを操って人々から金を
そして妖怪の世界にも
彼女、つまりガメツカメはその妖力で妖怪たちをも金の魔力に狂わせ、
妖怪達にお金を広めたうえで高利のお金を貸して起業させ、その上がりで利息と元本を返済させるように操った。
ガメツカメはまず、妖怪の総大将のぬらりひょんに「お金を使うようになれば妖怪の世界は必ずもっと豊かで便利になる」と説いてこれを説得した。
そのぬらりひょんが説いてまわった結果、妖怪たちは、ガメツカメがぬらりひょんののバックアップのもとに作った妖怪銀行の発行するお金を使い、
その銀行から利息のついたお金を借りて事業を拡大するようになったのさ。
たとえばかっぱやかわうそは借りたお金で網を買い、一時は以前よりも沢山川魚を取って儲けた。
が、高い利息と元本を返すために彼等同志争い合いながらどんどん魚を捕っていき、ついには捕りすぎて川に魚がいなくなってお金を返せなくなった。
それだけはなく、自分たちの食べる分さえ確保できずに、ひどい取り立てに晒されながら
彼らは家も網も取られ、家族や友人同士は仲たがいしてバラバラになり、
中には妖怪としての誇りを捨ててガメツカメの命じるままに仲間の妖怪から借金を取り立てる取り立て人になることによってわずかな糧を得て、
奴隷のように生きながら得るかっぱやかわうそも出てきた。
かっぱやかわうそだけではなく、あらゆる妖怪が同じような目に合った。
妖怪の世界は資源が
そんな中で、
ガメツカメは妖怪の世界に株式会社制度も
木霊は百年を経た木の精霊が人の形となって現れた妖怪なんだ。
彼は森林の樹木をとりしきっており、もともと樹木木材や紙の材料などとして利用しようと思った妖怪は木霊に相談して、
その了解のもとに必要な樹木を手に入れていたんだ。
妖怪銀行の発行する紙幣の材料を調達するためにぬらりひょんは木霊を説得し、
妖怪銀行から融資を受けさせて株式会社コダマを設立させ、必要な原材料を供給させた。
更に株式会社木霊に
土地購入・設計・資材調達・建設といった住宅建設の全てのプロセスの
こういう動きを裏で操っていたのもガメツカメで、お陰で株式会社コダマは大儲けし、そこから支払われる利息でガメツカメも濡れ手で
しかし、突然、株式会社コダマの支配する森林が次々と山火事になって、同社は契約していた原材料の納入ができなくなって倒産寸前までに追いやられた。
当然、株式会社コダマの株も二束三文に暴落して行き、株主の妖怪たちは最悪の事態を避けるために争うようにして株を手放したんだ。
ガメツカメはぬらりひょんに提案した。
「もしもこのまま倒産ということになると、その下請けの妖怪たちの企業も
それを助けるためには株式会社コダマに税金を注入してその倒産を回避するしかない」と。
貨幣経済をはじめるようになってから徴収されていた税金はぬらりひょんが管理していた。
彼はガメツカメの提案を採用して、集まっていた税金の大半を株式会社木霊に注入し、
お陰で同社は再建への道を歩み出すことができ、底値にまでなっていた株価も持ち直し始めた。
しかし、その時、株式会社コダマの株の大半はガメツカメのものとなっており、オーナー社長だった木霊は単なる雇われ社長になってしまっていた。
ガメツカメは混乱に乗じてわずかの資金でこの会社を手に入れたのさ。
そして、「一連の山火事の黒幕は、実はガメツカメだった」という噂が流れ、ぬらりひょんが調べてみたところ、どうやらそれは事実のようだったんだ。
「しまった、自分はガメツカメに利用されてたんだ。あいつをやっつけて、貨幣経済に毒されてすっかり疲弊した妖怪社会を健全化しなければ ・・・」
ぬらりひょんはそう考えた。しかし、ガメツカメは妖力が
そう簡単にやっつけることはできそうにもなかった。
考えた末、ぬらりひょんは天狗の長の神戸岩彦さんに相談に行ったのさ。
修行一筋のストイックな生活をしてきている天狗族は貨幣経済に染まることなく自給自足生活を続けており
なので、相談するとしたら天狗しかないと思ったからだったんだ。
相談を受けた岩彦さんはガメツカメ退治を引き受けたが、「さて、どうしたものか?」と
岩彦さんには強力な霊力があったが、
それをもってしてもそう簡単には退治できないほどの妖力を、しこたまお金を集めて強力化したガメツカメは持っていたからね。
思案の末、岩彦さんは一計を案じてガメツカメのところに行って、こう持ちかけたのさ。
「ガメツカメさん、あんたの金の稼ぎ方はまだるっこしくて見てられないなあ。よし、俺がもっともっと稼げるように力を貸してあげてもいいよ。
それで稼いだ中からほんのちょっぴりだけ分け前をくれると約束してくれたら、それで死ぬほど大儲けさせてあげるよ」
欲にとりつかれたガメツカメは「約束するから、力を貸して」と答えた。
「あんたに俺の霊エネルギーの全てを注ぎ込むから、あんたは壁を作らないでそれを受け入れてくれるだけでいいんだ。
そしたら、あんたは何にもしなくても無限にお金を貯め込むことができるようになる」
「危険はないのかい?」
「心配なら、あんたの部下に言って、俺の首に強い力のある霊剣を突き付けさせておけばいい。
危険だと思ったら部下に俺の首を斬らせれば俺はチリになって消え、同時にあんたの中に注いだ霊エネルギーも消え去るから」
「わかったわ」
という具合に話がついた。
ガメツカメは部下の
岩彦さんが、黄金のカメの姿をしたガメツカメに霊エネルギーを注ぎ込むとたちまちのうちにカメの中の大判・小判は増えはじめた。
ガメツカメは、
「すごい、すごい、どんどん増えるわ。嬉しい、ありがとう」
と最初ははしゃいでいたが、体の中の大判・小判はどんどん増え続け、目いっぱいになってもまだ増え続け、
ガメツカメは口から吐き出そうとしたが、できなかった。
実は岩彦さんは霊エネルギーの九十五パーセントはガメツカメの中に注ぎ込んだものの、残り五パーセントは取っておいて、
それでガメツカメが大判・小判を吐きだせないように、口にバリアを張っておいたのさ。
ガメツカメは苦しくて、壁を作って岩彦の霊エネルギーをはねのけるために必要な集中ができなかった。苦しみながら、
「牛鬼、刺せ」
と叫んだが、手遅れだった。
あらかじめ岩彦さんによってガメツカメの妖力の影響を解いてもらっていた
苦しんでいるガメツカメに気を奪われていた牛鬼に背後から忍び寄んで
ガメツカメは大判・小判が増え続けるのを止めさせることはできず、ついに増え続ける大判・小判の内圧に耐えきれずに空に向かって砕け散り、
操られていた妖怪達は我に帰ったのさ。
砕け散ったあと、輪のような口の部分が残った。それは岩彦さんが日本から遠く離れた南の海に運んで行って封印した。
今後のことを話し合った妖怪達は、お金が妖怪化する原因は利息にあると考え、でもお金の便利さは活用しようということになった。
自分がガメツカメの口車に乗ったために妖怪達みんなに大きな迷惑をかけてしまったことに責任を感じ、反省もし、
ぬらりひょんのリーダーシップのもと、妖怪たちはいろいろ調べて検討し話し合った結果、今のようなお金のシステムを採用したのさ。
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