PARTⅢの7(25) 天狗V.S.コウモリ
機動隊は楽天人を中心とする地域一体の捜索をはじめていた。
機動隊長は
該当地域の人間達には「銃器を携行している可能性のある危険な集団が移動中なので道に出ないように」と、部下に触れまわらせた。
しばらくして「楽天人前」に停車中の機動隊の移動司令車に緊急連絡が入った。
「ただ今捜索対象と思われる一団が青山一丁目方面に向かって移動中。こちらは距離を保ちながら悟られないように追跡し、監視中」
それを聞いた隊長は連絡してきた部下の位置をGPSで確認し、分散配置してあった機動隊員のほとんどを移動中の捜索対象の周囲に至急配置した。
彼は青山墓地の当たりで包囲銃撃してせん滅する作戦を立て、ただちに人員移動の指令を発して、自らも移動司令車で墓地方面に移動した。
少ししてまた監視中の隊員から緊急連絡が入った。
「捜索対象が西麻布交差点の手前で
これを聞いた隊長は、
「ただちに青山墓地周辺にいた機動隊員全員を十人ずつに編成しなおし、進路変更した捜索対象達の前後に向かわせ、遭遇したら容赦なく射殺せよ」
と指示した。
しばらくしてその方面のあちこちで銃声が響き始めた。
捜索対象達は逃走しようとしたが、金のコウモリに取り憑かれた機動隊員達の銃弾に次々と倒れ、
だが、運ばれていくうちにそれらの袋はどれもみな次々に軽くスカスカになった。開けて中を見ると遺体はなく、
代わりにあったのはいずれも銃弾の食い込んだ埴輪だった。
機動隊員達がおとりの埴輪たちを銃で撃つことにかかりきりになっていたころ、
謡達一行は無事に田川の勤める観光バス会社に辿り着き、
二台の観光バスに分乗した合計九十八人の人間プラスヒカリと岩彦は無事に出発した。
――こうしてみんなが一堂に会してバスに乗ったのも、何かの導きかも ・・・
謡はそんな風に思った。
二台の観光バスは東名高速に入って西に進んだ。
前を走るバスの運転手は田川浩一郎で、
こちらには謡、奏、ヒカリ、山岡、大浜、キャロライン、磐船一徹、神戸岩彦、
それから銀金レイ子、田川小枝子、森野夫妻、天波粟乃など五十人が乗っていた。
また、大型トラックの運転手の運転する後ろのバスには残りの五十人が乗っていた。
夜空には十四夜の円い月が出ていた。
前のバスの運転台のすぐ後ろの座席に一徹と一緒に座っている神戸岩彦は、通路を挟んだ反対側の座席に山岡と一緒に座っている大浜キャロラインに相談した。
「後ろのバスの運転手に、
『二台のバスの車間距離は五十メートル以上あけないようにして欲しい。それ以上開くとそちらのバスを守りきれなくなるから、必ずそうして欲しい』
と伝えたいんだけど、どうしたらいいかな?」
「運転手さんは『携帯用ヘッドセットをしながら運転しているから、何かあったら電話して』って言ってたから、あたしが今電話して伝えます」
大浜はすぐに電話してそれを伝えた。
「でも五十メートル以内の車間距離って、場合によってはかなり危ないんじゃ?」
大浜達のうしろの座席に、ヒカリと一緒に座っている謡は尋ねた。
「それはその通りだけど、でも、車間距離がそれ以上開いた状態であいつらに襲われたら比べ物にならない位危険だからね」岩彦は答えた。
「あいつら、襲ってくるかな?」
謡は斜め後ろの座席に一人で座っている奏に尋ねた。
「恐らくね。今までのことを考えると、あいつらは電脳空間を自由に行き来できるようだし、
一連のおかしな現象の結果、どんどんその力を強め、電脳空間の中であろうと外であろうとますますいろいろなことができるようになり、
この道路のあちこちに設置されている監視カメラの映像なんかも自由に見たりできるんじゃないかな。
そうだとしたら、ぼくたちの居場所を突き止めることなんかも簡単にできるだろうね」
奏はそう答えた。神戸岩彦は頷いた上で、
「そうだとしても、行った方がいい、いいや、是非行くべきなんだ」
と呟くように言った。
その直後、岩彦は右側方にいやな気配を感じてそちらに目をやり、
「来たぞ!」
と叫んで眼を閉じ印を結んで、呪文を唱え始めた。
バスの中の者達は何が来たのか知りたくて窓の外を見て凍りついた。
乗用車を満載した大型トレーラーが幅寄せしてきたのだった。それはあきらかにバスの脇に接触して横に押すつもりにちがいなかった。
頭に例のコウモリの憑いた大型トレーラーの運転手はぐんぐん間合いを詰めて行った。
が、バスの脇まであと十センチというところで見えない壁にぶつかり、それ以上幅寄せすることはできなかった。神戸岩彦が霊的シールドを張っていた。
だが攻撃はこれにとどまらなかった。続いてジャリを満載した大型トラックが後ろのバスのお尻にぶつかろうと勢いよく突っ込んできた。
これもあと十センチというところで見えないシールドにぶつかってそれ以上は進めなかった。
攻撃は更に続いた。いきなり右斜め後方の空から二台のヘリコプターがバスめがけて突っ込んできて自爆攻撃を敢行した。
それらは次々に上方のシールドにぶつかって大爆発した。
その衝撃で、シールドは激しく振動した。
火ダルマになったヘリの炎はシールドの表面を舐める以上のことはできなかったが、
それを張って防いでいる神戸岩彦は呪文を唱えながら額に脂汗をにじませ、歯をくいしばった。
「大丈夫か?」
と尋ねる一徹に、岩彦は呪文を唱え続けながらうなずいた。
しかし、謡の隣に座っているヒカリは、
――シールドは七十パーセントにダウンってところだな。
と思った。
間髪を入れずに、次の攻撃が来た。前方から石油を満載したタンクローリーが猛スピードで逆走しながら前のバスに向かって突っ込んできたのだ。
――よし、今度はぼくがやろう。2号、力を貸してくれ。
ヒカリは2号の入ったリュックを急いで膝の上に乗せて抱きしめながら目を閉じて念じた。
突進してきたタンクローリーの先端がシールドに到達した。
だがその瞬間、うつろな目をして機械的にタンクローリーを運転していた運転手の視界からバスが消え、
それまで二台のバスが走っていたスペースを猛スピードで通過し、後ろからくいついていた大型トラックに激突した。
それら二台はそれぞれの前方を滅茶苦茶に
タンクローリー車の壊れたタンクからこぼれ出たガソリンに引火して、大爆発した。
ヒカリは2号の力を借りてパワーアップして、二台のバス全体を「見えない・さわれない状態」にしてタンクローリーの攻撃を切りぬけたのだった。
大爆発の衝撃も全くバスに影響しなかった。うしろを見ると、遠ざかって行く後方の路上が炎で赤々と光っていた。
岩彦とヒカリの頭の中にキンキンするような声が響いて来た。
「姿を見せろ。さもないと、高速を走っている自動車を無差別攻撃するぞ」
そんなことをされたら大変なことになるので、岩彦は二台のバスを元の『見える・さわれる状態」に戻した。
すると、今度は夜空がにわかに明るくなりはじめた。
前のバスを運転する田川が見上げると、
斜め右前方にあるはずの十四夜の円い月の代わりに金色に輝く巨大な金のコウモリが羽ばたきながら近づいてくるのが見えた。
今のキンキン声はどうやらそれの声のようだった。
体長五十メートルはあると思われる巨大コウモリは左に旋回しながらバスの進行方向に頭を向けて、
上方十メートルほどの位置をキープして飛びながら二台のバスの上に強烈な破壊力を有する金のビームを放射しはじめた。
ヒカリは、
「まずい、シールド、急激にダウン ・・・」
と叫んだ。
あまりに急速にシールドパワーがダウンするので、2号の入ったリュックを岩彦に渡してパワーを補充することもできなかったのだ。
万事休す!
その時、突然金のビームの放射が停まった。何が起こったのか誰にもわからなかった。ただ一人、神戸岩彦を除いて。
呪文を唱える彼の頭に、自分とよく似た、しかし少しだけ高い声が響いていた。
「兄者、待たせたな。あとはわしらに任せてくれ」
窓の外を見ると、バスと同じかそれ以上の猛スピードで駆け抜ける天狗の姿が見えた。
――おお、助かった、頼むぞ!
岩彦は呪文を唱え続けながら心で応えた。そのやりとりはヒカリにも聞こえた。彼はバスの中のみんなに向かって叫んだ。
「もう大丈夫だよ、岩彦さんの弟の
バスの中に
「うしろのバスのみんなにも伝えてあげたいから、電話して教えてあげて」
「わかった」
空を飛んで駆け付けた五十人の天狗達のうちの先鋒隊二人が、
ビーム攻撃をしている金の巨大コウモリの目と鼻の先まで天狗の隠れ
いきなり姿を現して硬撲棍という棍棒でコウモリの両の目を突いたのだった。
コウモリは眼を突かれた痛みに思わずビーム攻撃を中断して眼をつぶりながらバスの上から退避した。
その巨大コウモリの上方にまわった天狗達がひと塊りになって一斉に
だが、コウモリはすぐに身を起して舞い上がり、天狗達に向かって飛んで行った。眼は使えなくても超音波で相手の位置を知ることができるのだ。
巨大コウモリはスピードを上げて最高速度でひと塊りになっている天狗達に殺到しながらビーム攻撃をしかけた。
天狗達は雲の子を散らすようにバラバラの方向へ逃げて難を逃れた。
巨大コウモリは高速を走って行くバスを空から追いかけはじめた。そのあとを一旦難を逃れた天狗達が追いかけはじめた。
コウモリは飛びながら次の作戦を考えついた。走っているバスの少し前方の道路をビームで破壊しようと考えたのだった。
――そうすればバスは転落して中の人間達は死ぬだろう。バスの中からシールドを作っていたのはあいつらの仲間の天狗に違いない。
でも、さきほどのビーム攻撃をふせぐためにほとんどの霊力を費やしてしまっただろうから、
奴にはもう転落からなんらかの方法で人間達を守る力は残っていないだろう。
そう巨大コウモリは踏んでいた。
だが、攻撃が途絶えている間に、走ってゆくバスの中ではヒカリと神戸岩彦がコウモリをやっつける積極的な作戦を考えついていた。
岩彦は九割方の霊力を使い果たしてしまっているものの、今考えついた作戦を実行するためには十分な力は残っていた。
彼はヒカリのリュックを手に取って、隠れ蓑で身を隠して、走ってゆくバスの天井を透過して空に舞い上がった。
金の巨大コウモリは天狗達に追いかけられながらバスを追い越してその先に出た。
あとはたとえ天狗達に
天狗達は巨大コウモリに追いすがって硬撲棍で滅多やたらにコウモリを打ちすえ始めた。
コウモリは痛みに耐えながらビームを発射するための集中を開始した。
突然、巨大コウモリの前方に水色のリュックを持った神戸岩彦が姿を現してコウモリめがけて
コウモリは集中を保ちながら口を大きく開いた。まっすぐ口に向かって飛び込んでくるのをかみ砕いてやろうと思ったのだ。
口まで来た時、神戸岩彦はスピードを上げ、コウモリの口の中に突っ込んだ。コウモリは慌てて口を閉じたが岩彦をかみ砕くことはできなかった。
岩彦はリュックを持ったままコウモリの食道を突き進み、胃に飛び込み、リュックの中からあの草色の光がほとばしり出た。
体の中心から熱を感じた巨大コウモリは、キィーッと甲高い異様な叫び声をあげた次の瞬間溶けて消えた。
水色のリュックを持った神戸岩彦がコウモリの胃のあったあたりの空間からバスに向かって飛んで帰って行った。
空の天狗達が一斉に勝鬨をあげ、バスの中の人間達も一斉に歓声を上げて、岩彦を迎えた。
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