PARTⅢの6(24) 体育館で八芒星
レストラン楽天人を包囲した機動隊の隊長は窓から草色の光が見え、そのあと中が静かになってしまったので、
どうしたんだ? と思って部下に偵察させた。
すぐに戻ってきた部下が、
「レストラン内で突入部隊が倒れていて、それ以外誰もいませんでした」と報告した。
隊長は自分の目で確かめようと店内に入った。部下の報告した通りだった。
――秘密の地下道でもあるのか。
と隊長も考え、部下に建物をくまなく調べさせた。
「二つの地下室が見つかった」という部下からの報告がすぐにあった。
隊長は自ら地下室を見聞した。二つ目の地下室の奥の、書棚と書棚の間の壁の前に立った時、頭の中にキンキンするような声が響いた。
「この向こうは地下道だったが、何者かによって少し前に完全にふさがれたようだ。そう遠くへ行ってはいないだろう。
この壁の方向を中心に、部下達に捜索させて、発見したらお前に報告し指示を仰がせるようにさせろ」
それは隊長の頭に取り憑いた金の指揮官コウモリの声だった。″マザー″がそれを使って壁の向こうをスキャンさせ、その結果を隊長に伝えさせたのだ。
そこへ、「突入部隊は眠っているだけでいのちに別状ありません」という報告が来た。
機動隊長は建物の外に出て部下達を集め、金のコウモリから言われた通りのことを指示した。
眠っている突入部隊はとりあえず放置しておくこととし、金のコウモリに憑かれた機動隊員達は周囲の捜索を開始した。
秘密の地下通路を抜けた一行は直線距離で三百メートルほど離れた場所にある神社の、かつて大崎理一郎が
その隣にある古い小学校の講堂兼体育館に入った。
そこのドアは施錠してあったが、岩彦が難なくあけた。
目立たぬように、電気は消したまま、ここでも携帯の灯りを頼りにみなで中に入った。
講堂兼体育館で岩彦は、ここに来るまでにヒカリと歩きながら話し合って決めたことをみなに伝えた。
「みなで東京を脱出します。田川さん、あなたは観光バスの運転手だったね」
岩彦に名指しされた田川は、
「はい」
と答えた。
「これだけの人数を運ぶのにバスを利用できないかね?」
「可能ですよ。恵比寿に私の会社があって、バスも四台はあると思います。まだ誰かいる時間ですから、玄関もあいているでしょうし、
中に入って鍵を取ってくることはできると思います」
一徹が、
「恵比寿の観光バス会社とは、もしかして、TS観光かな?」
と尋ねた。
「そうです」
「君の会社の社長の聖川武君なら知り合いだよ。
奥さんの元歌手の
よし、わしが今聖川君に電話をかけて交渉しよう」
一徹は自分の携帯で早速聖川に電話し、バスを借してもらうことになった。
「一台は私が運転するとして、あとの一台はどうしますかね?」
田川が言うと、スポーツ刈りの若い男性が手を挙(あ)げた。
「俺が運転しましょう。仕事で大型トラックを運転してますから、大丈夫だと思います」
「お願いしましょう」
岩彦は神通力で学校の校舎をサーチし、ヒカリと何事か相談してから言った。
「それで、
誰かそういうことが得意な人はいませんか?」
森野泉が手を挙げた。
「私、子供のころからそういうの、得意なんです」
大浜も、
「あたしもそういうの得意なんで、一緒にやらせて下さい」
「じゃ、ほら、そこの倉庫の中にラインマーカーがあると思うので、それを使って速やかに書いて下さい。
床いっぱいに描いて下さいと言いましたけど、八芒星の
岩彦は講堂兼体育館の中にある倉庫を指さした。
倉庫の側にいる女性が、
「ラインマーカーは私が取ってきましょう」
と言って走って行って、
すぐにラインマーカーを持って、大浜と森野のところに持って行った。銀金レイ子だった。
森野と大浜は協力して、目測で講堂兼体育館の床いっぱいに大きな八芒星を描きあげた。
「よし、じゃ ・・・」
岩彦はまず大浜と山岡を八芒星の向かい合う二つの頂点の上に立たせ、
以下同様に、田川浩一郎と小枝子、森野春樹と泉、それから謡と奏のカップルを順次向かい合う二つの頂点の上に立たせ、
残りの者達を八芒星の周囲を円形に囲むように配置した。
「何をするんだね?」一徹が尋ねた。
岩彦は、
「まあ見てて下さい」
と答え、印を結びながら念じた。
八芒星の中心に一定の間隔を取りながら
「これはこの学校の六年生が作った埴輪です。みなさんの人数と同じ数だけあります。
作った子供たちには申し訳ないけれど、みんなの命がかかっているので、使わせてもらうことにしました。
では、みんなで眼を閉じて、俺の呪文が
岩彦は埴輪の間を通って八芒星の中心点に移動し、その場で眼を閉じ印を結んで別の呪文を唱え始めた。
「カムナ カタカムナ カンナ カムナガラ カムナ カタカムナ カンナ カムナガラ
ハニワヲシテ コノモノタチノスガタヲ ウツサシメ ウゴキダサシメタマヘ カムナ カタカムナ カンナ カムナガラ ・・・」
三十秒ほどして呪文を唱え終えた岩彦は、
「さあ、静かに目をあけて下さい」
とみなに言った。
みなは目をあけてびっくりした。内側に、自分達一人一人のそっくりさんが勢揃いして立っていた。
何が起こったのか?
岩彦が呪文を唱え始めた時、眼を閉じ八つの頂点に立っていた四組のカップルの頭頂部から白いオーラが溢れ出て岩彦の頭頂に向かって伸びて行った。
それらは全て一つの塊になって
今度はその場にいる人間の数の透き通ったチャコールグレーのオーラの塊に分割されて一人一人に向かって飛んで行き、
それぞれをすっぽり包み込んで各々の姿形や服装などの外見をそっくりコピーし、
その透き通ったコピーの姿のままで飛んで行って次々と埴輪の中に入って行った。
すると埴輪は大きくなりながらそのコピーされた姿形の人間になった。かくして自分達一人一人のそっくりさんが勢揃いしたのだった。
「先に彼らをおとりとして出て行ってもらって、機動隊が彼らにかかりきりになっているうちに、田川さんの会社に行こうというわけです」
岩彦はみんなに説明した。
ヒカリは確認のため、みんなに向かって叫んだ。
「すみませ~ん、今ぼくの姿が見え、声が聞こえる人はちょっと手を挙げてみて下さい」
全員が手を挙げた。ヒカリは謡に向かって言った。
「今、ぼくは『見える人にしか見えない、聞こえる人にしか聞こえない』モードなんだよ。それが、今ここにいる人達全員が見えたし、聞こえた。だから殺されそうになった ・・・」
「そう。あ、おとうさんは大丈夫かな?」
謡はヒカルに言った。『ヒカルの姿が見えた人間で何故かこの場にいないのはおとうさんだけだ』と思って、心配になったのだ。
「ぼくが今確かめてみるよ」
ヒカリはそう言って目を閉じ、意識を集中した。
「ああ、おとうさんは無事のようだ。ねえ、おとうさんにも合流してもらった方がいいと思う。
彼も、ぼくが見える人間だから、この先独りでいるのは危険だと思う」
「わかった」
謡は携帯で父親の高志に電話して、事情を話し、途中でヒカリに尋ねた。
「おとうさん、今仕事で関西にいるって。どうしたらいいかな?」
「だったら、ぼくたちも関西方面に行くから、向こうで合流しようって言って」
「わかった」
謡はヒカリに指示された通りに言った。高志は電話の向こうから、
「了解」
と答えた。
神戸岩彦はみんなに「ちょっと待っててくれ」と言って校庭に出て、隣の神社の杜に向かって
杜の中から、こちらは本物の鴉の声が戻ってきて、一羽の鴉が夜にもかかわらず西の方向へ飛び立った。
戻ってきた岩彦に、一徹は尋ねた。
「鴉が鳴いていたようだが、何をしたてんだね?」
「弟に伝言を頼んだんですよ。さて、では、作戦開始と行きましょうか」
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