PARTⅠの4 何とかぎこちない笑いを作りながら
その日のイブニングニュースの中でスタジオのメインキャスター、大浜キャロラインが前振りをした。
「きょうの朝から都内各所のパチンコパーラーが、殺到したパチンコ諸体験の主婦たちによって満員御礼状態になっています。天波謡レポーターのレポートでお伝えします」
謡の顔がアップでテレビ画面に映って、レポートが始まった。
「はい、今私は山の手の私鉄沿線の高級住宅街に近い幹線道路沿いのパチンコパーラーの前に来ています。早速店内に入ってみましょう」
謡が店内に入り、それをカメラが追い、ゲーム中の主婦達でごったがえす店内が映し出された。そのあと、画面は、店長とおぼしき男性と並ぶ謡の映像に切り替わった。
「ご覧のように、この満員の店内で今プレー中の人達のほとんどが主婦と思われる人達です。店長さんにお話をうかがってみましょう。店長さん、よろしくお願いします」
「はい、どうぞよろしく」
謡と店長との一問一答が始まった。
「本当に主婦の方がほとんどのようですが、こんなことは今までにあったんでしょうか?」
「いいえ。開店以来のことです。私はこの業界、結構長いんですが、こういう状況は見たことも聞いたこともありません」
「さっきこちらのお店の駐車場を見させていただきましたら、外車や高級車が多かったんですが?」
画面には駐車場いっぱいに停まっている車が次々に映し出された。確かにほとんどが外車や高級車だった。
「そうなんです。きょうのお客様層の特色を言えば、みなさんセレブというかハイソというか、そういった類の奥様といった雰囲気の人達で、それであんなにいい車ばかり並んでいるんです」
「なるほど」
「この辺りは他に競争店さんがあまりないこともあって、朝十時の開店時間には既に駐車場は今の状態になってしまっていて、あとから来たお客様は路上に駐車していたんですが、昼前に駐車違反の取り締まりがありまして。そのことを場内アナウンスもしたんですが、どなたも席を立って車を移動しようとせず、結局すべてレッカー移動されてしまいました」
「本当ですか?」
「ええ、みなさん、朝から今までゲームをされっぱなしで、時折トイレに立ったり自販機で飲みものや煙草などを買ったり、お金を出しに隣のコンビニに行ったりする時以外は、ずっとゲームをされています」
「売り上げはすごいんじゃあないですか?」
「はい。お陰さまで。そういう外車や高級車でいらっしゃったお客様はみな初体験の方ばかりのようですし」
謡はゲーム中の主婦の一人にインタビューを試みた。
「あなたもきょうが初めてなんですか?」
相手はゲームを続けながら答えた。
「そうよ」
「面白いですか?」
「ええ、もうハマっちゃって。こんな面白いもんだったら、もっと前からやっていればよかったわよ。悪いけど、気が散るから別の人に聞いて」
「あ、すみません」
謡は別のゲーム中の主婦にインタビューした。
「車でいらして、早くから並んでらしたんですか?」
「そうよ、旦那と子供たちを送りだしてからコンビニのATMでお金おろして、私がきょうこの店に一番乗りだったんだから」
「失礼ですが、お金、相当使ってらっしゃいますか?」
「それは企業ヒミツ。授業料だと思ってじゃんじゃん使ってるけど、そのうちプロになっちゃうかもね ・・・ うちの旦那、稼ぎいいし ・・・」
「楽しいですか」
「もちろん。主婦って結構寂しくて空しいのよね。でもこれやってるとアドレナリンがガンガン上がるっていうか、ハイになれるのよね」
「ご主人やお子さん達の夕食っていうか、そろそろ帰らなくていいんでしょうか?」
「ああ、旦那はどうせ外で食べて遅く帰ってくると思うし、子供にはお金おいて来たから。でも、一応、子供にメールを入れておこうかな ・・・」
「はあ ・・・ ありがとうございました」
すると、その奥様はいきなりカメラに顔を向けて「主婦のみなさ~ん、パチスロ、サイコー。みんなでハマりましょう!」と叫んだあと、またゲームに没頭した。
口調はハイでも、彼女達はみな目がうつろだった。
謡は何とかぎこちない笑いを作りながら、〆めの言葉を口にした。
「このような現象はこの店だけではありません。私どもイブニングニュースの調べでは、主婦がこのようにパチンコパーラーに殺到する現象は都内の全域に広がっているようです。
みなさんはこのニュースをどのようにご覧になったでしょうか?
今後とも、この現象に注目していきたいと思います。以上、天波謡がお送りしました」
この日はまだ、都内だけに見られる現象だった。しかし謡は、これからこの現象は徐々に広がって行くのではないかと直感的に思った。
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