6.六点
「ブランカ、まだ起きてんのか? もう十二時過ぎてんぞ」
その夜。ヴォルフの部屋で考え事をしていると、部屋の前を通ったヤーツェクが顔を覗かせてきた。呆れた様子で部屋に入ってくる。
ブランカは曖昧に笑って肩を竦めた。
「なんだか目が冴えてしまって……」
「それでも限度ってもんがあんだろ。目の下かなり黒くなってんぜ。ちょっと待ってな。いいもの持ってきてやっからよ」
そう言うとヤーツェクは一旦その場を離れ、五分ほどしてから湯気の立ったマグカップとビスケットを抱えて戻ってきた。
「寝れない夜と言えば、じゃん! ホットミルク!」
ヤーツェクは大げさな手振りを加えながら、カップをブランカに差し出した。ブランカはどう反応すればいいのか分からなくて、ぱちくりと瞬きする。この反応の薄さに、彼はやれやれとばつが悪そうにした。
「ほら、とりあえずこれ飲んで気持ちを落ち着けな」
「あの、ありがとうございます……」
マグカップに口を付けてブランカがゆっくり息を吹きかけていると、ヤーツェクは満足げに頷いて、
一昨日の晩はブランカをかなり警戒していたヤーツェクだが、この二日で彼の雰囲気はかなり親しみやすくなった。それにはアロイスのフォローによるものが大きいだろうが、ろくに休まずにずっとヴォルフの看病をしているところが、どうやら彼の琴線に触れたらしい。度々顔を覗かせては、ブランカの心配をしてくれた。
また、オプシルナーヤ軍帽を被らなくなったのも、彼の警戒心を削いでくれたのだろう。代わりにブランカの髪は真っ黒へと変わっていた。アロイスの勧め通り、黒く染めたのだ。お陰で目立つ白髪を隠す必要はなくなり、ヤーツェクは警戒を解くようになってくれた。
とは言え、本来の髪色を彼に見られる前に染めたため、結局はヤーツェクを欺いていることには変わりないが、こればかりは仕方がない。
ブランカはサイドテーブルに置いたままの今朝の朝刊を眺めて、小さくため息を吐いた。
「相変わらず暗い顔してんな。こいつの具合は回復してきてんだろ? それとも他に何か気がかりなことでもあるのか?」
「いえ……そんなことは」
「あ、もしかして、アロイスに何か小言でも言われたか? あいつたまにすげー嫌味くせーもんなっ」
などと冗談交じりでヤーツェクは言ってくるが、あながち嘘ではないので、ブランカは思わずホットミルクをこぼしそうになってしまった。
――アロイスさんが必要としていて、私に用意できるもの。
それがヴォルフを西へ逃すためにブランカに与えられた条件だ。あの状況で言われたのだから、やはり反オプシルナーヤに関わるものなのだろう。
しかし、いくら考えてもそれが何なのか全く分からなかった。
そもそもそんなものを用意できるなら、とっくに自分は進んでそれを差し出している。それとも彼はブランカに人質的な役割を求めているのかもしれないと考えたが、この話はブランカがここを出て行くことを前提としているため、それはあり得ない。
それならアロイスは一体何を指しているのか。
必死に寝不足の頭を働かせるが、去り際に見たアロイスの嫌味っぽい顔ばかりが頭に浮かんで、それらしいことが全く思い浮かばない。
「アロイスさんが何を考えているのか全く分からないです……」
気が付いたらブランカはそんなことを呟いていた。言ってからハッと口を噤む。案の定、ヤーツェクはヘーゼルグリーン色の目を丸くしていた。
「まさか本当にあいつに何か言われたのか?」
「いえ、すみません。今のは忘れて下さい。何もないです」
「何もないっつっても……はぁ。あいつはこんな二回りも年下相手に」
「いや、だからあの、本当に違うんです。私が失礼なことを言ってしまって……」
ブランカは必死に否定するが、呆れたようにため息を吐く様子を見ると、ヤーツェクの頭の中では完全にアロイスは悪者になってしまったようだ。あの件については本当にブランカに非があるというのに、こんな誤解まで与えてしまって情けなくなる。
困ったように肩を落としていると、横からビスケットが差し出された。
「どんなきついこと言われたのか知らないけど、あいつはそれで引き摺るタイプじゃないし、あんたたのことを途中で投げ出そうなんてしないから、あんまり気負うなよ」
ヤーツェクはブランカの肩を叩きながら励ましてくれるが、昼間のやりとりをした後では、何とも複雑な心境になる。
そこでふとブランカは疑問に思った。
ヤーツェクもアロイスたちの計画に関わっているのだろうか?
どうやらここに居候しているらしい彼だ。詳しい事情までは知らないが、オプシルナーヤに怒りを示す彼ならあり得ない話ではないし、そうでないとしても、アロイスの活動のことは知っていても不思議ではない。いや、それどころか、アロイスが何を望んでいるのかまで知っている可能性だってある。
そこまで考えてブランカは心の中で首を横に振った。
――迂闊に聞いてはいけないわ。
これはかなり慎重な話だ。そう簡単に尋ねられる話ではないし、今の状態で話題に出せば、確実に自分はボロを出す。ちゃんと作戦を練り直さなければいけないのだ。
それに、流石に身体の限界が近付いてきた。瞼が少しずつ重くなり始める。
「――にしても、あんたもずっと籠もりっぱなしで色々良くないぞ。明日は少し外に出て気分転換でもしたらどうだ?」
「そんなわけには……彼もまだ起きませんし……」
「まったく真面目だよな。献身的なのは良いことだけどさ。じゃあ明日帰りに何か美味いものでも買ってきてやるよ。何がいい? あんまり高いのは無理だけど……って、おい、ブランカ?」
ヤーツェクの声が段々遠ざかり、彼が言っていることを理解しようにも、思考が回らなくなってくる。
横から身体を揺すられるのを感じながら、ブランカは睡魔に飲み込まれていった。
***
つんと鼻に触る薬の匂い。久々に感じる安っぽい枕の固さ――それでもこうして横になれているのは、かなりありがたいと思ってしまう。
僅かに身じろぎすれば、左肩が鋭く痛んだ。その反動で思わずぐっと身体に力を入れるが、同時に全身がやけに重く感じた。独特の関節痛と暑苦しさがある。
――俺はどうしていたんだっけ?
ひどく靄の掛かる思考の中、ヴォルフはぼんやりと自分の記憶を遡る。
確か自分は何かを追い掛け、そして追われていたはずだ。
果たしてそれは一体――。
するとすぐに二人の人物が頭に浮かんだ。
一人はプラチナブロンドの髪に薄萌葱色の瞳の子ども。
そしてもう一人は真っ白なおかっぱ頭の少女。
なんだかヴォルフは急激に苛立ってきた。
――そうだ、あいつ! あいつだけはタダじゃ済まさない。
憎くて憎くて堪らない彼女。
その名前こそ――。
「おーい、ブランカ? こりゃあ完全に寝ちまったな」
知らない男の声が、耳に飛び込んできた。しかしそいつが呼んだ名を、ヴォルフはよく知っている。どうやらすぐそこに彼女がいるのだろう。段々頭が冴えてきた。同時に頭の中の苛々が募っていく。
とにかく一言何か彼女に言ってやりたくてたまらない。
未だ重く感じられる瞼を、ヴォルフは無理矢理こじ開けた。
見たことのない天井が、真っ先に視界に飛び込んでくる。
思わず息を飲み視線を彷徨わせると、ベッドのすぐ傍にあるヘーゼルグリーン色の瞳と目が合った。
「うお、あんたすごいタイミングで起きたな。おいブランカ、もう少し頑張れ。ようやく起きたんだぞー……ってダメだな。あんたももう五分くらい早く起きれば良かったのにさ」
男――ヤーツェクは苦笑混じりにそう言うが、彼に揺すられもたれ掛かる少女の姿に、ヴォルフは瞠目した。
――これは、ブランカか……?
見たことのない黒髪のおかっぱ頭。しかし、その顔立ちも小柄な体つきも、右半身に走る赤い火傷の痕も、紛れもなく全て彼女のものだ。
――どういうことだ?
「状況が意味不明、って顔だな。簡単に説明すると、あんたが銃弾受けて今にも死にかけていたところを、その子に頼まれてうちで面倒見てたってわけだ。まぁ、俺は何もしてないけどさ」
「そうか……銃に撃たれて……」
言われて段々思い出してきた。
確か自分はブランカを連れて西へ逃げようとしていたはずだ。その途中進路変更して目の前に停まったトラックに乗り込んだところまでは覚えている。おそらくそこで倒れたのだろう。
しかし、そんな状況でどうしたらここまで辿り着ける?
ブランカたちと反対側のベッドサイドに点滴が立っているところを見ると、この男の言うとおり、自分はこの男とその関係者に助けられたのだろう。左肩の痛みも倒れる前より格段にマシになっている。何となく現状は把握してきたが、全く経緯が見えない。
ヴォルフは眉をひそめてブランカを眺めるが、いや、と思い直した。
今はそれどころではないはずだ。
「それでここは?」
上体を起こしながら尋ねると、ヤーツェクはさらりと答えを返した。
「ヘルネーだよ」
「は? ヘルネー?」
「そうだ。その下町な」
――マジかよ。
確かにヴォルフ達の目的地はヘルネーだったが、まさかあんな状況で無事に辿り着いているとは思わなかった。それとも自分は倒れる間際にブランカに行き先を伝えていたのだろうか? まったく思い出せない。
「あんたもう少し寝といたらどうだ? まだ顔色悪いし、頭も混乱してんだろ?」
「いや、大丈夫だ。とにかく世話になったようですまない。えっと……」
「ああ、俺か? ヤーツェク・ルトワフスキだ」
「感謝する、ヤーツェク。ついでに一つ聞きたいことがあるんだが――」
「お、ようやくお目覚めか? 気分はどうや?」
やや高めな男の声が、二人の会話に割り込んできた。背が低く幼い顔つきのその男に、ヴォルフは自分と同年代か年下のような印象を抱いたが、それにしては妙な落ち着きがあると思った。
「ヤーツェク、彼は?」
「ああ、こいつがあんたの怪我を治したんだよ」
「アロイス・テールマンや。よろしく」
「アロイス、テールマン……?」
ヴォルフはあからさまに驚いた表情を見せた。
その名前をヴォルフは知っている。
『ヴァルツハーゲンを北に抜けたら、ヘルネーへ向かえ。ヘルネー北部の下町にあるテールマン保険事務所で、君を待っている奴がいる』
列車でヴォルフを逃したあの男は確かにそう言っていた。そこまで行けばヴォルフ達の安全は守られると。
だが、流石にヴォルフはそこまでブランカに伝えていないはずだし、偶然にも程がある。慎重に二人に視線を向ければ、案の定、ヤーツェクはヴォルフの反応に目を丸くしているし、肝心のアロイスも僅かに目を見開き疑問符を浮かべている様子だ。
――流石にそれはないよな……。
しかし、ヴォルフがそう結論づけたその瞬間。
アロイスの口角が、ゆっくりと持ち上げられる。
細められた青灰色の瞳は、明らかに事情を知っているかのようだ。
「ヤーツェク。これからこの兄さんの検査するから出てってくれやん? ああ、ちゃんとその子も寝かしたって」
「はいはい。ほらよっと」
ヤーツェクは言われたとおり寝落ちたブランカを抱え上げると、部屋から出て行った。
代わりにアロイスがベッドサイドの椅子に腰掛ける。
「それで? 何か聞きたそうやな。何?」
ヴォルフはごくりと唾を飲み込んだ。
まさか起きたらこんな状況になっているとは思わなかったので、未だに頭が混乱している。聞きたいことも山積みだ。
しかし、ここは冷静にならなければならない。
目の前の相手は命の恩人でもあるが、無目的でヴォルフを助けたわけではない。
ヴォルフは慎重にアロイスを見据えながら、切り出した。
「それで、あいつからどこまで聞いている?」
「どこまでって?」
「……俺たちの事情について」
「そうやなあ。二人の名前と君がどっか撃たれて死にそうや、くらいしか僕は聞いとらんよ」
――本当かよ。
ヴォルフは内心で悪態吐いた。
アロイスは先程の意味ありげな表情から一転、再び目を丸くして素知らぬ様子を見せる。どうにも胡散臭いが、自分からボロを出すわけにもいかない。
とにかくこの男が何か突きつけてくる前に、有益な情報を引き出して、ここを立ち去った方が良いだろう。
「そうなんだ。俺と彼女は厄介事に巻き込まれていて、逃げている途中で倒れてしまったようだ。助けてくれたあんたには、心から礼を言う。ありがとう」
「どういたしまして」
「しかし、俺たちはあまりここに長居するわけにはいかない。明日にでもここを出発したいんだが、俺たちはヘルネーのことをよく知らない。危険な区域とか街の情報とか教えてくれないか?」
ヴォルフは一気に畳み掛けた。苦しい気もするが、何か言われたらかわせば良いだけだ。
アロイスは、驚いたように瞠目している。
「明日って、えらい急やな。自分まだそこまで動けやんやろ? っていうかしばらく安静にしとくべきやで」
「そういうわけにもいかない。少し、複雑なんだ。下手するとあんたたちまで巻き込みかねない。その前に俺たちはここを出て行く」
「何やそれ。よう分からんけど、めっちゃ怖いこと言うやん。それ、自分らが出て行っても、結局僕らも危ななるんちゃうん?」
アロイスは怪訝な表情を浮かべた。
ヴォルフはすぐに否定を重ねようとするが、僅かに与えてしまった隙を、彼は見逃さなかった。
「大体何? 急いどるから起きたらすぐに出てくって、なんかめっちゃ恩知らず過ぎやん。ずっと寝とったから知らんやろけど、自分の怪我治すのにこっちは色々かなり掛かってるんやけど」
「それは……その通りだ。あんたには感謝している。しかし俺たちは先を急ぐ必要があって――」
「――もうええわ、兄さん六点」
「は?」
――六点?
盛大にため息を吐いてがっかりした様子を見せるアロイスに、ヴォルフは息を飲んだ。いきなり現れた点数に、疑問符を浮かべるほかない。
「兄さんの言い方はせこいな。情報を掠め取ろう感が滲み出すぎ。これはまだあの子の方がずっとかマシやわ。潔さがあった」
「どういうことだ……?」
「とにかくもうええわ。こっちもとぼけて悪かった。いちいち探り合うのは疲れるからな。腹割って話そや、ブラッドローの軍人さん」
ヴォルフはまたもや息を飲んだ。
アロイスの口角が、再び持ち上げられる。
「言うとくけどこれ以上とぼけるのは無しや。こっちは君の軍手帳見てしまっとるからな。証拠に写真も撮っといたわ」
「何だと?」
「ああ、別にそれ使ってどうこうしようなんて思っとらんよ。そんなんに利用価値ないし、
アロイスは椅子の背にもたれ掛かり、高慢そうに顎をしゃくった。思わずヴォルフは彼を睨み付ける。
脅しにも似た彼の言葉は、下手な誤魔化しを許さないだろう。
「……一つ確認だが、お前もあの列車の爆発に関わっていた一人か?」
「『あの』がどれを指してるんか分からんけど、この件やったら兄さんの言うとおりやで」
言いながら、彼は傍らに置いてあった新聞をヴォルフに見せた。『ヴァルツハーゲン列車爆発 犯行グループ八人の死刑執行』と大きく見出しの走ったそれは、確実にヴォルフとブランカが乗っていた列車のことだ。
また、それは同時に、アロイスが予想通りの人物であるということだ。
ヴォルフはしばしの逡巡の後、話し始めた。
「……俺たちはオプシルナーヤ軍に追われている。理由は察しているはずだ。東側に長居するわけにはいかない。とにかく奴らに見つかる前に西ヘルデンズへ逃れたい」
「そうやろな。そやけどさっきも言うたとおり、兄さんは僕らに大きな借りがある。当然僕らはタダで逃すつもりはないし、兄さんも僕らが何を望んどるんか知っとるやろ?」
アロイスは語尾に含みを持たせて言う。予想通りやって来た話の流れに、ヴォルフは歯噛みした。
アロイスたちが望んでいるもの――それはヴォルフ達ブラッドロー軍が探し続け、オプシルナーヤ軍が狙っているもの。
クラウディア・ダールベルクだ。
正確には彼女が握っているはずの情報なのだが、そのためには彼女の身柄も不可欠だ。
当然飲めるはずがない。
「悪いがそれは譲るわけにはいかない」
「何で?」
「何でって、俺も任務が掛かっているし……いや、それにブラッドローが手にすることでオプシルナーヤを牽制出来る。ヘルデンズにとっても悪くないはずだ」
「ほんまにそう思うか?」
アロイスは声のトーンを落として前屈みになった。
「それでブラッドローがオプシルナーヤを牽制したとして、西ヘルデンズは安心するやろな。でも東ヘルデンズは? 結局オプシルナーヤの一部として見られて終わりなんちゃうの?」
「……それを俺に言われても、一介の兵士にどうすることも出来ない」
「そうやな。僕の愚痴やったわ。やけど、君が今ぽろっとうっかり言うた『任務』には、僕らの明日の生活が掛かっとることは、分かって欲しいけどな」
先程までは高圧的ながらも落ち着いた物言いだったアロイスは、途中から明らかに苛立ちを含めた物言いでまくし立てた。思いの外熱の入った彼の言葉に、ヴォルフは上手くかわすことが出来なかった。自分の失言にも口を噤む。
アロイスは自身を落ち着けるかのようにゆっくり息を吐き出した。
「ま、いずれにしても、しばらくの間自分らは動けやんやろうけどな」
「……というと?」
「列車爆発の件以降、東西境界の警備が強化されとるらしい。少なくとも一週間は厳しいやろな。怪我のこともあるし、当分ここで大人ししといた方がいい」
そこでアロイスは椅子から立ち上がると、カーテンの隙間から外を眺めてぽつりと言った。
「そういや兄さんは元はヘルデンズに住んどったんやって? この近所に兄さんの幼馴染みが住んどって、まぁそれでここに運ばれてきたわけやけど――兄さんは、ヘルデンズは好きか?」
改めて落ち着けた声で、彼は尋ねてきた。こちらに向けられたあまり大きくない背中には、いくつもの複雑なものが積み重なっているように見えた。
「……生まれ育った国だ。俺にとってはずっと特別だ」
だからさっきのアロイスの発言に、上手い言葉を返せなかった。任務に関しては私情を挟むわけにもいかないのに、祖国に住んでいる者の言葉は生々し過ぎた。
「そうか。それならここにおる間、この国の現状をちゃんと見て欲しい。その上で、さっきの件を考えてくれ。今言えることはそれくらいや」
そう言い切ると、アロイスはこれで話は仕舞とばかりに入り口の方へ向かった。ヴォルフはじっと彼の背中を見据える。
すると、退室する直前、アロイスは「あ」とヴォルフを振り返った。
「こんな話しといて言うのもあれやけど、兄さんあの子のことちゃんと大事にしたり」
「は?」
突然変わった話題に、ヴォルフはきょとんと目を丸くする。
「見てたらあの子、あまりに自分のこと粗末にしすぎや。まぁ、そのお陰で兄さん助かったわけやけど。朝になったらちゃんと礼言うたりや」
苦笑混じりにそう言い残すと、アロイスは完全に部屋から出て行った。
彼に言われたことをじっくり考えるが、ブランカのことを頭に浮かべると、あまりに色々なことを検討しなくてはいけない上に、無性に苛立ちが湧いてきて、頭が痛くなってくる。
ヴォルフはゆっくりと息を吐き出し、無理矢理彼女のことを頭から追い出した。
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