第3話
「他のヤツもそうだった。いきなりあんな無惨な死体になって、煙のように消えていったんだ……!」
「〈探求者十戒・その四〉。『真たる理を識らんとする者は、死して骸遺さず、全てを失われるべき』……人ならぬ力を揮う代償だ」
「?!」
醍羽が洩らした言葉に、納は思わず瞠った。
「知っているの、あのバケモノを?」
「話を戻す、っていったろ?」
そう答えて、醍羽は窓を開けて庭へ出た。
「もう大丈夫だ」
庭に降りて振り向いた醍羽は、どうやら納も来いと言っているらしい。
納は迷いつつ、大窓の直ぐ下にあるサンダルを履いてその後を追った。
「……いったい、なんなの?」
「人だ。これでも」
「でも……!」
「〈英知〉を求めるためには、人を捨てなければならない。それが〈探求者〉の掟だ」
戸惑う納に、醍羽は冷淡に言い放った。
「掟……〈探求者〉? まさか、それじゃキミもあの怪物と同じ――」
「ちっちっちっ。確かに〈探求者〉は超能力を持っているが、皆が皆、あんな怪物に変身するワケじゃない。
恐らくこいつは、代謝能力を特化した能力者だ。斬られた傷を瞬時に再生したり、細胞を増幅させて戦闘体型に変化したりする」
「でも、これ……」
獣人の死因が刃物らしきモノで分断されたコトは、納にも判った。
「細胞が再生する速度を上回った速度で斬れば出来る。おたくを守っているヤツ、なかなか腕の立つヤツだな」
「守る? 誰が、こんなコトを?僕を守っている、って――」
「〈英知〉は常に、〈守護者〉に護られている。そう言うことだ」
「〈英知〉? 〈守護者〉?」
「ああ。もっとも、これは――」
そう言いかけた時だった。
醍羽たちの直ぐ背後から聞こえた、突然の、杜恵の悲鳴。
納の部屋に戻ってきた杜恵は、庭に二人を見つけ、その後を追って、二人の足元にある奇怪な遺骸を見つけてしまったらしい。
「お、おい、杜恵?!」
「……な、なによ、その怪物! お父さん、お父さん来て! この子が――」
どうやらパニックを起こした杜恵は、錯乱してこの仕業を醍羽になすりつけてしまったようである。
醍羽は戸惑ったが、直ぐに狼狽える杜恵を睨んで肩を竦めた。
「お、おい、杜恵、違うよ! ――あ!」
杜恵を落ち着かせようとした納だったが、突然、隣にいた醍羽が、その場から飛び出して逃げ出したのを知って驚いた。
「ちょ、ちょっと待ってよ、醍羽くん!」
納は呼び止めるが、醍羽は子供とは思えぬ、いや、大人だったとしてもあまりにも常人離れした跳躍力であっという間に塀を飛び越えて外へ去っていってしまった。
やがて、家の者がそぞろやってきて騒がしくなるが、納は醍羽の消えていったほうを見て呆気にとられたままであった。
翌朝
納は、街路樹が道なりに植えられている、学校へ向かう歩道を、杜恵と並んで一緒に歩いていた。
「結局、あいつ、どこかへいっちゃったわね。怪物も消えちゃったし、おかげで警察にも信じて貰えなかった」
「……杜恵、そんなに毛嫌いしなくても」
納が呆れ気味に言った途端、杜恵は納を睨み付けた。
「納!あんたこそ変よ! なんであんな目つきの悪い子供のことをかばうのよ?」
「……ぼ、僕だって、変だとは思っているけどさ。
でも、悪い子じゃないよ。昨日のだって、錯乱した杜恵があんなコトを言ったから仕方なく……」
納はそこまで言うと、妙に神妙な面もちになり、
「……それになんとなく、あの子とは昔、どこかであった気がして、ね。杜恵は知らない?」
「忘れたわ」
そう答えると杜恵は、足を早めてひとりでさっさと歩いていった。
「そうだよなぁ………、って? へ? 『忘れた』?」
間をおいて納は、杜恵の返答が少しおかしいコトに気付いた。
「お、おい、ちょっと、ちょっと――」
納は慌てて杜恵の後を追って行った。
そんな二人を、二人が歩いていた歩道の街路樹の上から、醍羽が様子を伺っていたのだが、二人とも気付いていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます