第2話

ー1ー


そして日曜日。太陽が光輝いて私達を照らし、夏はもう過ぎ去ったというのに真夏のように暑い。今日は絶好のスポーツ日和だ。今日は先輩の試合だ。私達の学校、私立轟高校とライバル校であるという私立山吹高校との試合をアキと見に来た。青のユニフォームが味方、轟高校。黄色のユニフォームが敵、山吹高校。実力はどちらも同じくらい……らしい。


ー2ー


いつもoffの日は自主トレをしているんだけど、今日は先輩からのアドバイスに則って陸上のことは考えないし、やらない。先輩を応援して今日を終えよう。そういえば、先輩ってBチームじゃなかったっけ? 試合ってAチームがやるって同じクラスの武井くんが言ってたような……Bチームの人は余程のことがないと出れないとも言ってた気がする。


「ねぇねぇ。高城先輩が出てきたよ‼︎ キャプテンマークつけてる‼︎ 」


アキが私の肩を掴んで思いっきり揺さぶった。高城先輩は3年生が引退してから、サッカー部の部長をやっている。サッカー部の部長はキャプテンとほぼ同義だ。


「痛いよ。三枝先輩は……やっぱり出てないか……」


三枝先輩はベンチに座っていた。黒色のビブスを付けている。やはりBチームの選手は出ることができないのだろうか。


私達の隣では2年生の女子が3人ほどキャーキャーと騒いでる。高城先輩のファンかなにかだろうか。アキと同じ匂いがプンプンする。


そして試合開始。


はっきり言ってサッカーのルールはよくわからない。所詮体育でちょっとやった程度。ほんの少しの知識しかない。反対のゴールにボールを入れればいいってことはわかる。オフサイドとかいうものもあるらしいけど、いまいちわからない。自分がやってるわけではないけど、独特の緊張感がそこにはある。


そうこうしてるうちに高城先輩が相手陣地ペナルティーエリアに入っていた。


1人、2人とかわしてシュート!


『キャーーー』


アキと隣の先輩達との声が重なった。


ボールはネットへと吸い込まれて行った。ゴールだ。これで1対0。高城先輩はチームメイトとハイタッチをしている。三枝先輩もベンチでチームメイトと共に喜んでいる。私達もハイタッチした。まるで自分が決めたかのように嬉しかった。


再びキックオフ。


「いやー高城先輩かっこいいね。唯もそう思うでしょ? 」


アキは本当に上機嫌だった。ここは素直に乗っておくべきだろう。


「そうだね。今のシュートはすごくかっこよかった」


「でしょでしょ」


アキはまるで自分のことのようにえっへんと胸を張った。




最初はワイワイと盛り上がっていたけれど、サッカーってどうしてこんなに長いんだろう。前半の30分したあたりから皆から会話が消えた。 “暇” この一言に尽きる。ゴールが決まればいいけど最初の1点からもう入らない。互いにシュートはうつが、全く入らない。


そして前半が終わった。私は飲み物を買いに自販機へ向かった。


「やあ」


そこで三枝先輩と会った。先輩はまだ黒色のビブスを付けていて、バケツを持っていた。隣にはマネージャーさんがいた。水を替えに来たのだろう。それにしてもマネージャーさんを手伝うなんてどこまで優しいのだろうか。確か、このマネージャーさんは田村さんといっただろうか。


「なんかごめんね。まだ出れないみたいだ。せっかく来てもらったのに」


「い、いやいや。とんでもないです。よ、呼んでもらっただけで嬉しかったですから。実際悩みを聞いてもらっただけでだいぶ気が楽になりましたから。そ、それにまだ後半があるじゃないですか。諦めずに頑張ってください」


「うん。後半はきっと出るから。頑張ってくるよ」


「は、はい。応援してます」


私は飲み物を買いに戻った。


水を汲んでいる田村先輩は三枝先輩に「彼女? 」と聞いていたが、三枝先輩はそれを首を横に振ることで否定していた。その行動にちょっと胸が痛んだ。


私はアキの元へ帰った。アキは隣の先輩達と高城先輩についての話で盛り上がっていた。よくもまぁ初対面の人とあんなに話せるものだ。あの性格は少し羨ましい。


「ただいま。もうそろそろ後半始まるよ」


「あぁ唯。おかえり。じゃあ先輩達。後半も頑張って応援しましょう‼︎ 」


先輩達と結構仲良くなったみたいだ。


そして後半が始まった。後半と雖も前半と同じようにそうそう点は入らない。試合の空気が変わったのは後半10分が過ぎた頃だった。


「あっ」


アキが立ち上がった。


相手の陣地内ペナルティーエリアで高城先輩が倒されたのだ。


「大丈夫かな? 」


アキも隣の先輩達も動揺を隠しきれないようだ。アキなんか立ち上がって叫んだ。


「ちょっと山吹の10番あれわざとでしょ‼︎ 」


「ちょっとアキ。落ち着いて」


私は怒りに満ちているアキをおさえながら試合の方へ目を移した。そこにはまだ高城先輩が倒れていて、チームメイトが手当をしていた。しかし、そこに三枝先輩の姿は無かった。しばらくして、高城先輩はベンチへ戻った。


「いくら高城先輩が強いからって…… 山吹の10番…… 許せない…… 」


もうアキを止めることはできないかもしれない。隣の先輩達は…… あれ? いない。


『ちょっと山吹の10番‼︎ 何してくれてるのよ‼︎ 』


ちょっと目を離したすきに先輩達はコートの横に立って山吹の10番に罵倒を浴びせていた。あぁいった人にはなりたくない。


「私も行ってくる」


アキも怒りで頭がおかしくなってるようだ。


「落ち着いてよ。そんなことして高城先輩が迷惑がるとは思わないの? 一ファンとして見守ることは出来ないの? 」


「ごめん」


アキはわかってくれたようだ。よかった。アキまであの人たちのようになっていたら私はどうしたらいいかわからなくなっていただろう。


こんなんなら家で自主トレしてたほうがよかったかな。三枝先輩は私に何を伝えたかったのだろうか。


「ねぇ。唯」


アキがトントンと私の肩を叩いた。


私はすぐにアキの言わんとしてることを理解した。三枝先輩がコートの端に立っていた。ビブスを着ていない。三枝先輩は私達の轟高校の青色のユニフォームに身を包んでいた。


ー頑張れー


心の中で叫んだ。


とその時三枝先輩がこちらを向き、右手を高々にあげた。


先輩はコートの中へ走って行った。


そして再び試合は再開した。相手陣地内ペナルティーエリアで高城先輩が倒されたのでPKから再開する。キッカーは高城先輩からキャプテンマークを受け継いだ副部長である山森先輩だ。笛の音が鳴り響く。山森先輩はその場で数回ジャンプして助走を始めた。山森先輩の足から放たれた弾道は誰の手にも触れることなく、静かにネットにあたった。


ゴールだ。


『やったー‼︎ 』


2点目。これで点差は2点に開いた。私達は久しぶりに立ち上がって喜んだ。


試合再開。


もう後がなくなった山吹高校はキックオフと同時に轟陣地に攻め込んできた。相手はもうシュート体制に入っている。これは決められちゃう。そう思った。


『おぉ』


コート中に歓声が響きわたった。三枝先輩がスライディングでそのシュートを止めたのだ。


「やったよ‼︎ アキ‼︎ ついに三枝先輩が活躍したよ‼︎ 」


私は興奮を抑えきれなかった。さっきのアキ達もこんな気持ちだったのだろうか。


「うん。結構かっこよかったね。ま、まぁ高城先輩には敵わないけどね」


「三枝先輩だってかっこいいもん。高城先輩にだって負けてないもん」


「なにを〜 」


とアキが言った直後私達はププッと吹き出して笑った。久しぶりに心の底から笑ったかもしれない。久しぶりに笑えた。多分これは三枝先輩のおかげではないだろう。でも、こういう機会を与えてくれた三枝先輩には感謝をしないといけないだろう。


その後は試合は動かず、2対0で轟高校が勝った。私とアキは喜びと安堵で抱き合った。自分がやっているわけではないのに、どうしてここまで楽しかったのだろう。スポーツってやることがすべてだと思っていた。でも、きっと応援することもまたスポーツなのだろう。


帰り道。私とアキは先輩達に挨拶をして帰ることにした。


「いやー高城先輩。めちゃめちゃかっこよかったです」


アキは高城先輩を見つけると開口一番にそう言った。高城先輩も少し照れているようだ。


「あ、あの三枝先輩。お疲れ様でした。あの相手のシュートを止めたところかっこよかったです。それと、私に気分転換する機会を与えてくれてありがとうございました。また部活頑張れそうです」


私は屈託のない笑顔を先輩に見せた。先輩もそれを見て少しほっとしたような顔をしていた。


「ほんと。今日出れてよかったよ。途中までハラハラしてたんだ。このまま出れなかったら笠間さんに顔向けできないって思ってね。試合に出れて、ちょっと活躍できて本当によかった。あ、そうだ。今日来てくれたお礼と言っちゃなんだけど、今度笠間さんの試合も見に行くよ」


「え? ほ、本当ですか⁉︎ ありがとうございます。わ、私も精一杯頑張ります‼︎ 」


「うん。楽しみにしてるね」


こうして私達は家路に着いた。










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無題 橘 叶 @kyosuke-0407

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