第六刀 礼儀ノ意

「勇者様のお見えでございます!!」


扉を抜けた先で甲冑を身にまとった騎士が声を張り上げる。

その部屋中に響き渡る大声に中にいた人間の目が俺達に注がれる。

一斉にこちらを見る視線に一瞬怯むが前を進むアミアリア様に付いていかなければ後がつかえるため恐る恐る足を進める。

謁見の間と言うだけあり、床の真ん中には廊下にもあった赤いカーペットが引かれ、その先には大きな椅子に腰掛ける王冠を被った初老の男性が座っていた。


「あそこに座って居られるのがリベリオン王国の国王であり私の父上でございます」


アミアリア様が俺達だけに聴かせるようにして男性のことを教えてくれる。


「ここから先は先程教えました作法でよろしくお願い致します」


国王が座る王座までもう少しというところで話を切り上げるアミアリア様。

むやみに喋っているところを見られるのは礼儀としてバツであるため喋るのを控えたのだ。

まもなくすると国王の居る王座まで辿り着く。

その際俺を除く他の四人は王女様に教えられた略式の礼法をした。

片膝をつき顔を下げると言ったものだ。

対して俺は日本古来から正式な場で使われる正座をした。

その途端ざわりとした喧騒が生まれる。

それもそのはず、この国での礼儀作法と日本とでは礼儀の価値観が違う、いきなり自身たちの知らない事をされれば戸惑いが起きるのは当然。

そして想定していたことも起こった。


「勇者様、その姿勢はどのような意図で行われているのでしょうか?」


アミアリア様がこの姿勢の意味を、俺の意思を国王に変わり聞いてくる。


「私達の国、日本にはこのような規範理念がありました『己を克めて礼を復むを仁となす』これは私たちの世界では儒教と呼ばれる教えでありこの意味は自身の欲を抑え、慎みの心を持ち、相手に礼を尽くすということとなります」

「…それは素晴らしい理念だ」


俺の目線の先、国王がその驚くほど練れた声で返答をする。

圧倒的な存在感、これが一国の主という事なのか。

その行動に一部の人間がざわつくのを「よい」の一言で制すると言葉を続けた。


「して、その姿勢との関係性はいかに」

「この姿勢は正座というものです、私達の国ではこの姿勢が目上の御仁、この場では国王様のことで御座いますが、と一つの場で対する場合、自分と同等の地位の者と対する場合、自分より地位が低い者と対する場合にも必ず使われます」

「何?同等の地位の人間にするというのは私にも多少は解る…が、地位が低い者にもその作法をするというのはどういう事か」

「これこそ先ほど申し上げました教えの理念が正にそうでございます」

「己を克めて礼を復むを仁となす…」

「そうです、それこそがこの場でのこの姿勢、正座の意味の最たる物と言って良いでしょう。」


そこまで言うと国王様は少し考える素振りをし、直ぐに言葉を続けたのである。


「相分かった、そなたの儂に対する心意気や良し、そこまでの礼を尽くされれば儂も気分がいいという物よ」

「有り難き幸せ」

「よいよい」


その言葉に今度は俺と国王様を除くすべての人間が目を剥いた。

周りの重役の地位と思わしき人間が言葉を発するのを右手で制すると同時に俺に声を投げかけてきた。


「そなた、名をなんと申す」

「最上、いえこの国の形式に乗っ取るのならばソータ・モガミと申します、国王様」

「そうか、ソータ殿よ」

「はい」

「儂はこのリベリオン王国の国王グラヌント=リベリオン=フォルストイである。そなたに会えて儂は嬉しく思うぞ」

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