「こころ」をなくしたひとたちのものがたり
鷹谷司
「こころ」をなくしたひとたちのものがたり
とおいむかし、おおきな海のまんなかに、ちいさな島国がありました。
ちいさいながらも、この国のひとびとはりっぱな文明をきずいていました。お城を中心にたくさんの家がたちならび、森をきりひらいて畑をたがやすものや、海で漁をするもの、いろいろなひとびとが毎日笑顔でくらしていました。
ある日、王さまがお亡くなりになり、王子さまが新しい王として即位することとなりました。
王子さまだった新しい王さまは、ぜいたくなくらしをあたりまえだと思っていたので、どれだけぜいたくをしても、満足することができませんでした。
そこで、王さまは自分に従わないものをころし、国民からたくさん税をうばって、いっそうぜいたくにくらしはじめました。
すべてが自分の思い通りになることになれた王さまは、『こころ』をなくしてしまいました。ひとをころしても、ぜいたくをしても、なんとも思わなくなったのです。
一方で、王さまにさんざんつらいしうちを受けることになったひとびとも、つらさのあまりに『こころ』をなくしてしまいました。かつて国中にあふれていた笑顔はうしなわれ、ひとびとは、家族や友人や恋人をころされても、どれほどまずしくてもなにも感じないようになりました。
そうして、このちいさな島国には『こころ』をもつひとがひとりもいなくなったのです。
『こころ』をもたないひとたちは、どれほどはたらいてもつらくはありません。王さまにいわれるがまま、この国のひとびとは、朝も昼も夜もはたらきつづけました。食べることも寝ることもわすれ、そのうちにからだが限界をむかえて、ひとりまたひとりとしんでゆきました。
『こころ』をもたないひとたちは、だれかを愛することもありません。しだいに、この国では子どもが生まれなくなりました。
そして、『こころ』をなくした王さまは、なにも考えずに税をとり、理由もなくひとをころすようになりました。お妃さまも、王子さまも、お姫さまも、家来たちも、みんな王さまがころしてしまいました。国民もたくさんころしました。
島国に暮らすひとびとはこうしてどんどんへっていきました。
ひとびとははたらきつづけ、王さまはころしつづけました。
そうして長い年月がたち、王さまが亡くなっても、ひとびとははたらきつづけました。
それからさらに長い年月がたったある日、海のむこうの大陸から、おおきくてゆたかな国のひとびとがやってきました。食料や資源をさがしにきたのです。
そのひとたちが上陸すると、目の前にはいまにもくずれそうな建物のあとと、骨のかけらだけが、いちめんにひろがっていました。
「こころ」をなくしたひとたちのものがたり 鷹谷司 @momizi908
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