奇跡の法則 2
タクヤは疲れた様子で大きなため息をつく。
登校日二日目。うなだれる影が一人。なぜ彼がここまで疲労困憊しているのか、大体は予想ができるだろう。昨日の事件を終えた後、職員室に呼び出されたタクヤと反町キヅキは担任のエドナにこっぴどく説教を受けたのだ。職員室で周りの先生たちが怪訝な顔をしながら彼らを見ていたのもいたく気まずかった。普段のタクヤは人との接することが苦手ないわゆる「コミュ障」なので、その説教に対して非常に精神的ダメージを受けていた。ちなみに反町キヅキはというと、厳格な顔をして、ただ「はい、すみません」と繰り返していただけだった。そして帰宅の際は特に何もタクヤには謝罪の一言もなく去っていき、タクヤはそれにまた腹をたてたのだった。
だが、タクヤの今の疲労はそれだけではなかった。今朝、登校の際、昨日のショックを引きずったまま歩いていたタクヤが校門をくぐろうとすると、急に警報が鳴り出したのだ。一体何が起きたのかタクヤはよくわからないまま警備員の人がやってくると、なぜか腕を掴まれてズルズルと事務室へと連行された。事態がつかめないまま十五分ほどあたふたしながら問答を繰り返していると、ようやく合点がいった。どうやら昨日、タクヤが学校にデバイスの生徒ナンバリングを行っていなかったために校門のセキュリティにひっかかったとのこと。もちろんデバイスを忘れたのは自分のため自業自得ではあるが、この精神コンボには流石に堪えたようだった。
「災難だったねー、色々と」
ホームルームが始まる数分前の教室内。生徒たちは昨日よりかは打ち解けて話しかけている様子が点々と伺える。その片隅の一席にて、相沢タクヤは机に突っ伏しており、仲本ケイは後ろに手を組み同情の苦笑いをしながら隣に立っている。
「俺って、この学校入っちゃダメだったのかな……」
「そ、そんなことないって!」
必死にフォローしようとするが、あまりの卑屈っぷりにどう声をかけていいかわからなかった。
「それにしても、昨日の事件で相沢くんと反町くん学校中の噂になってるよ。二人の戦いの様子とか動画でアップされたりして、上級生の間でも話題になってるらしいし。二人ともいろいろとチェックされてるかもしれないね」
声を潜めてある方をちらりと気にしてそんなことを言う。彼女が一瞥したのは昨日一悶着を起こした反町キヅキの方だった。昨日のこともあり、登校してきた教室で何かしてくるかと思ったが、タクヤに一瞥するだけ。タクヤは若干の緊張を伴って教室に入ったが肩透かしをくらった。その後、キヅキは誰とも話すことなくずっと本を読んでいるだけだ。特に周りとコミュニケーションを取ろうという気はないらしい。他の人もそれに気を使って話しかけようとはしなかった。
「っつても、あいつは特に気にもしなさそうだな」
タクヤはそんな彼の様子を見てため息をつく。彼にとってはこの学園生活、ただでさえ人と接するのが苦手なタクヤは、このような事件があったのではより一層その難易度が上がったと言える。
「……ああ……周りから変な目で見られたらどうしよう……」
「相沢くん、戦闘のときはあんなに生き生きとしてるのに、ホント別人かと思うぐらいメンタル弱いよね」
そうこうしているうちにチャイムが鳴り響く。そしてエドナが入ってホームルームを始める。
「さて、では今日から二日間、身体測定を行うことになる。それぞれの更衣室で着替えて体育館に集合するように」
そう。波乱万丈の入学式の翌日である本日は身体測定だった。
通常の学校は一日で全てを基本的に済ませるが、港川学園は身体測定とともに体力テストも並行して行うので二日間で行うことになっている。この学校は国が設立している魔法学校ということもあって、詳細な生徒のデータを取り、それ以降の動きを厳密に解析して今後の研究に活かしていこうとする動きがある。そのために生徒の健康データとともに魔法に関するデータも重要になってくる。それゆえ、身体測定の際に行ってしまおうとする動きがあるわけだ。
日程としてまずは視力、聴力、身長体重などなど、通常の学校でも行うような身体測定が基本としてあるが、その後特殊な装置を使って魔力を測定することになる。
「まぁ結局これもある程度は環境によって変わってくるけど、高校一年生ぐらいなら遺伝的なものになっちゃうよね。もちろん、魔力も今までの生物学的な環境と遺伝の輻輳説をとっててある程度は鍛えたりして増幅可能だけど、やっぱりどうしても遺伝の方にウエイトがよりやすいっていうのが実験結果として出てるよね」
一通りの測定が終わって魔力の検査を行う道すがら、これは別段男女分けなくてもいいので一斉に行われているため、ケイとタクヤはたまたま同じ場所に並ぶことになった。魔力測定器を見ながら魔力量の個人差についての見解をタクヤに話していた。
「仲本詳しいんだな」
「あ、いや、ちょっとそういうの一時期気になった時があってねー。興味があって調べてたから別に詳しいってわけじゃないんだよー」
ケイは、あははと作り笑いを漏らす。
「てーゆか、相沢くん全身ジャージで暑くないの?」
「……いやー、大丈夫大丈夫。俺、寒がりだから」
ぱたぱたとジャージの袖の余った部分を振ってそう応答した。タクヤは別段身長が高いわけではなく、どちらかというと小柄なほうと言える。ケイと同じぐらいの背の高さだ。そのためケイはタクヤのそのジャージの少し余らせてしまっているだぼだぼ具合や、今までの人と接することの不器用さに対して、小動物っぽい可愛らしさを覚えており、ここだけの話少しだけぐっと来ていた。
閑話休題。
「……ともかく! そうは言ってもある程度は鍛錬でカバー可能だから、みんな、魔法使い目指してる人は魔力量とか気にするけど、それが低くても特に気にする必要ナッシングってことだね!」
「なるほど。勉強になります」
そうこうしているうちにタクヤの順番が回ってくる。
最近巷で出回っている魔力計測アプリがあるが、あれは企業が開発しているものなのでその基準は厳密とは言えない代物だ。もちろん、ある程度は信憑性のあるものだが、基準は国が出しているものとは微妙に異なっている。ちなみに国が出している基準数値としては成人男性の平均は200z(ザック)、男子高校生は150zと言われている。
大きなカプセル状の箱の中に入る。一瞬光を当てられて、計測終了。簡単なものである。
その結果を測定員の人が記入係の人に読み上げる。並んでいる人たちはやはり他の人の検査結果が気になるらしく、聞き耳を立ててるものも少なくない。
そして、タクヤの数値が読み上げられる。
「魔力値……えっと……550z……!?」
その数値が発せられ、ざわざわとどよめき立つ。同様にケイも驚きを隠せない。タクヤはそのどよめきが自分に対してのだと知るや否や、照れたように苦笑いをする。
「いやー、なんか悪目立ちしちゃってる?」
「いやいや、魔力値550ってそりゃ誰でも驚くって! 相沢くん、どういうこと?」
単に驚きを隠せないだけではない。純粋に550zというのは数値上ほぼありえない数値として算出されるものだ。
「まぁ……たまたまじゃないかな?」
「いや、遺伝的なものにたまたまも何もないってば!」
そしてその後、行われたのは体力テスト。そこでもタクヤの存在感は一際目立ったものだった。
彼の運動神経は抜群だ。昨日の戦闘といい、彼は魔法も使わずあの大魔法の数々を結果的にすべて回避していた。それはなにより、彼の運動能力あってこその芸当だ。
今回の体力テストの種目である、100m走、ハンドボール投げ、サイドステップなどなど。すべて軽々と基準越えをしており、おそらく校内でも一位をとるほどのものだった。
「いやー、やっぱ体動かすのって楽しいなー」
当の本人は特にこれといって自分の特異性を意識することなく、ただのびのびとテストを受けているだけだった。
それを見て、ケイは昨日から思ってたことを改めて実感する。
やはり、相沢タクヤはすごい。いろいろとドジなところはあるけれど、やはり能力がある、優秀な魔法使いに近い人なんだ、と。
ケイは羨望と尊敬を相沢に注いでおり、周囲の人間もとんでもない化け物が入学してきたと思ったものであった。
そう、次の魔法運用テストまでは……。
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