奇跡の法則 1
闇がまだ深い夜の中。男二人は苛立ちを露わにしながら道を歩いていた。
暴行・傷害の容疑で警察からの補導を受けた二人。そう、彼らは相沢タクヤによって警察へと連行された男達だった。
解放された翌日、結局彼らに正義の名の下の指導も意味をなさず、ただただ自分たちを「狩った」あの少年に対して憤怒をあらわにしているだけである。
「本当にむしゃくしゃするぜ……! あのクソガキ!」
「絶対次にあったらボコしてやる……!」
やはり歩くのは裏道で、そこらじゅうに置いてあるゴミ箱や段ボールなどを蹴飛ばしながら練り歩く。表立って歩くとやたら構わず暴れてしまいそうだったので、それをこのような人目のつかない場所で発散しているというわけだ。
そもそも彼らは落ちこぼれであった。学校での成績は振るわず、周りから外れていった。
魔法は万人に使えるが、国が欲しがる人材は魔法といっても応用的な代替エネルギーを作ることのできる理系の研究員や、そのような魔法を規制するための法整備をする文系の者たちだ。だから結局、数百年前、近代化が推し進められた時と根本は変わらない。学校ではそのような知識を教えていく。万人に与えられる力は畢竟そのようなシステムにのみこまれていく。
だから彼らは挫折をした。多くの優秀な者たちに差をつけられ、最終的にたどり着いた結論がその力を使って他の優秀な者を力でねじ伏せ金銭を奪うことだったのだ。
「くそっ……何もかもムカつくぜ……」
「そう、この世界はおかしいことだらけだ。おまえたちが苛立つように」
唐突な声にびくりとする。目の前には男が二人。全身黒のスーツ姿。そして、このような薄暗い路地裏にもかかわらず、目にはサングラスをかけている。片割れは無表情で銀色のアタッシュケースを持ち、もう一人は特に何も持たずヘラヘラと口の端を釣り上げ片手をポケットの中に入れて立っていた。
人気を避けてこのような場所に来ているのに、なぜかここ数日奇妙な人間に会ってしまうことに補導された二人は辟易とした。
「……なんだ、てめぇら」
その人をバカにしたような表情に少し苛立ちを覚え、にらみつける。
「そんなに警戒しないでください。ぼくたちは君たちと別に喧嘩しに来たんじゃないんですよ」
先ほどから笑みを絶やさない男の方が軽やかにそう答える。
「じゃあなんなだよ」
「——おかしいと思わないのか」
なんの脈絡もなく、今度は表情を崩さない男の方がそう発する。突然の言葉とそんな彼の威圧に、言われた二人は一瞬戸惑ってしまう。
「人々は魔法ができて、これから様々なものが変わると思っていた。かつてあった工業化、情報化の資本主義社会は格差の二極化が進み、持つものと持たざるものの差が激しかった。だが、魔法が出てきて新しいパラダイムが開けると思ったんだ。……だが、結局構図はかつてあった社会と変わってない。国と大企業が全てを整備し、持つものと持たざるものの差ができてしまう。そのような仕組みを独占したものが勝利する。本来そんな社会おかしいわけだ。なぜ、このような格差が生まれてしまう?」
突然の饒舌にただただ二人は押し黙る。それを見かねたにこやかなスーツ姿の一人は、彼の弁を手で制す。
「ほらほら、熱くなりすぎですよ。あなたの悪い癖だ。こう気持ちが高ぶったときに高説垂れてしまうのが。見てください、あの子たち混乱してますよ」
「すまない」
「ま、ぼくは嫌いじゃないんですけどね。そういうの」
彼らには全くなんのことか分からなかった。だが、やはり並みの者ではないということだけははっきりわかる。逃げたり、何かをしようとしたりするものなら、やられる。そのような直感を覚えていた。
「とまぁ難しい話は置いておきましょう。ただ、見返したいと思いませんか。君たちをはめたエリートたちを。そして出し抜きたいと思いませんか」
そう言われて昨日の光景が思い出され、同時にかつての学校で落ちこぼれていった自分たちのことがフラッシュバックされる。そして徐々に混乱とともに再び苛立ちを思い出していた。
「そう。いい表情ですね」
くすりとスーツの男が笑いながら、ポケットから数センチの平べったい正方形の箱を取り出す。そして彼らに投げて渡した。
「それが君たちの反撃のカードです。親睦の印にぼくたちからのプレゼントです。そして、それを使ってまずは、一つ、この世界に不意打ちを与えようじゃありませんか」
高らかに宣言する、スーツ姿の男。片方の人物は依然として無言で表情を変えずに立っている。
未だに話が飲み込めない二人。だがただなぜか妙な期待が胸の中に浮かび始めているのを感じ取っていた。
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