互助 2

 タクヤとキヅキは模擬戦が終了してからというもの、彼との接触は特になかった。同じ教室にいて、互いに顔は見えるものの、特に何かをするわけでもなく淡々と日々の授業をこなしていた。

 もちろん、タクヤの中には胸のつっかかりはあった。あの時に言われた「弱いことは罪」という言葉。なぜ彼はかくも強さにこだわっているのか。タクヤは今でもぼんやりと考える。確かに強いことは重要だと思うが、そこまで固執する必要はあるのか。ただ結局、キヅキの真意にはたどり着けずにその思考は終わってしまうのだ。そして時間は経ち、タクヤは特にそのことを気にしなくなっていった。

 そして、学校が始まって一週間が経とうとしていた。

 張り詰めた緊張感も徐々にほぐれ、新入生たちは生活に慣れ始めているころ。それぞれの学生たちは部活動を考えたり、はたまたバイトをしてお金を貯めようかと画策したりと自分たちなりの学校生活を思案し始めている。周囲の例にもれず、タクヤもそのリズムにようやく慣れ始めていた。ただ周りとは違い、部活やバイトについてあれこれと考えることはしなかった。

「また、飛び降り自殺か……」

 彼の今の興味関心は社会で起きる事件に向けられていた。そして目下はやはり以前から自宅でもカナエと話していた連続飛び降り自殺についてである。昼休みの教室の隅にて購買で買ったパンを咀嚼し、デバイスをいじりながらその事件の動向をチェックしていた。

 今度の自殺者は30代の男性会社員。夕方ごろ、自分の職場の屋上から落下したらしい。

 以前の事件との共通性は今のところ皆無だ。しかしながら16件も同様の事件が起きているのにもかかわらず、自分や警察を含め、なぜ共通性が見つけられていない。

 この事件には何かがある。直感的に、彼の中にある好奇と正義の心が反応している。

「カナエくん、その事件に興味あるの?」

 タクヤの横に座り、デバイスを覗き込むのは仲本ケイだった。学校生活に慣れたとはいえ、未だにタクヤがうまくコミュニケーション取れる相手はケイぐらいである。どうも周囲はあの一件以来、タクヤが懸念していたように彼のことを敬遠しているようである。やはりどこか近寄りがたい部分があるのだろう。加えてタクヤ自身も自ら積極的に話をするタイプでもないので、なおさら他人との接触がないのである。

「結構大きな事件だから気になってね。前言った警察の親戚とも、少し話をしたりしてるんだ。詳しいことは教えてくれないけど」

「あー。やっぱり部外秘ってやつなのかな?」

「まぁ個人的な私情もあるみたい。なんか俺には聞かせたくないらしいし」

 この事件に限らず、他の事件に関しても、叔父のカナエは俺に何も教えてくれない。それはこちらから聞いてもだ。もちろん、職業上部外者にそのような話をすることはよろしくないのだろうが、ただちょっとしたことは家族なのだから漏らしてもおかしくはない。だがどうやらそれすらも意図的に避けていた。またはっきりとカナエ自身もタクヤに「お前には教えたくない」と断言している。

「あんまり気持ちのいい話じゃないし、聞かせたくないんじゃないの?」

「でも、俺も警察官志望だぞ? それなのに、自分が関わっている事件のことを少しも聞かせないのは変だろ」

 タクヤはそんなカナエの態度に苛ついていた。だからこそ、こうなったら自分の力でどうにか様々な事件を解決してやろうとも考えているのである。以前のカツアゲの一件も、カナエやその他の警察よりも早くに加害者を捕まえたのはそのためであった。

「この事件もどうにか手がかりを探してるんだけど、どうにも全容がつかめなくてね。年齢も職業も性別もバラバラ。それこそ共通点としては誰も何者かに魔法が行使された形跡がないということ」

「ということは、やっぱり単純に自殺ってこと?」

「いや、それが逆におかしい。このご時世、全くもって魔法の使用形跡が見られないというのも不自然だ。ここがひっかかるんだよ」

「洗脳系の魔法っていう線はないのかな。そしたら魔法行使された形跡も残らなそうだし」

「それも考えたが、そもそもマンションの自室から密室の中で飛び降りを行なっている人もいるんだ。だから、もし犯人がいたとしてもそれを実行した本人と接触すら困難きわまりないんだよ」

「つまり自分の意志で行なっているってこと?」

「そう。だけどそれにしては人数が多すぎる。一体何をしたんだ……」

 うーんとケイはうなるが、結局わからなくなり、頭をかきむしる。

「あーもう! 考えてもわからない! というか、プロにもわからないことなんだから、私が考えても絶対無理だよー」

「まぁそうだな。実際、誰もわかってないわけだし。ネットにもさまざまな噂が飛び交ってるけど、結局どれも一周回って信憑性に欠けるものばかりだよ」

 しかし、それでもタクヤはその謎を解明したいと思っていた。

「ひとまず、それは置いといて! タクヤくんは部活は決めたの?」

「へ、部活?」

 唐突な話題の切り替えぽかんとしてしまう。そういえば、そんなものもあったなぁと思い出す。

「だから、部活動は青春の象徴だって前言ったじゃない! タクヤくんもう忘れたの? タクヤくんはあれだ、将来お嫁さんをもらった時、私と仕事どっちが大事なのって聞かれて迷わず仕事をとる甲斐性しかない人間になってしまうね」

 ケイはぷんすかと怒っている。ただ、タクヤは自分がどうして怒られているか、よくわかっていなかった。

「部活は、ほら、まだ入部期間はあるから、それまで時間があるかと……」

「ナマ言ってんじゃないよ!」 

 怒鳴られた。

「時間は待ってくれないの……たいむうぇいつふぉーのーわん……」

「はぁ……」

「気合が足りない!」

「は、はい!」

「とにかく、うじうじぶつぶつ考えてないで……うじうじ、ぶつぶつってなんかちょっと気持ち悪いね……いや、ともかく……! 学校生活をより充実させるために、そのところはちゃんと考えなきゃいけないの! というわけで、今日、本日、この日から! 部活を見に行くよ!」

 気合の入れ方に背筋が伸びる。しかし、やはりなぜ怒られているか、タクヤはわからなかった。

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コンフリクト・イデア 〜機械仕掛けの魔法使い〜 都篭密 @mtsugomori

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