奇跡の法則 4
魔法実践テスト。
天候はあいにくの雨。しかし、今回のテストも施設内で行われるので、特に問題はない。第一競技場。野球場一面分以上の敷地面積を有すその場所に生徒たちは集められる。全体はライブ会場を思わせる作りになっている。周りの観客席に中心には広い舞台のような場所が設置されていた。だが、そこは昨日に行われた魔法基礎テストと同様にガラス張りになっている。
全員がその施設に驚きながらあたりを見回す最中、天候とともに気持ちが沈んでいたタクヤは一人だけ地面を見ながらぶつぶつとつぶやいていた。
「だから嫌だったんだよ……」
「まぁまぁ、元気出していこうよ!」
ケイは昨日から励ましの言葉をかけているが一向に聞かない様子。そうこしてる間にエドナが前に出て全員に自分の方へ注意を向けるように促していた。
「今日は一日を使って魔法実践テストを行う。テスト方法は単純だ。一対一の魔法戦を互いに行ってもらう」
エドナはこの広い場所でもしっかりと全員に届くような声を響かせた。
最初は落ち着きのなかった生徒たちもエドナの声を聞くと引き締まった顔つきになった。
「武器の使用は禁止だが、素手での戦闘は許可をする。軽いスパーリングだと思ってくれればいいだろう。魔法は戦闘だけがすべてではないが、やはりそれ相応の力を持つわけだから、ある程度はやらねばならないということだな」
魔法を使った戦闘行為というのは今の時代、この社会においてはさして多くはない。魔法をスポーツに取り入れてゲームとして戦闘を取り入れるケースの方はよく散見される。それ以外といえば犯罪行為だが、今のご時世、監視や教育が行き届いている中でそんなたいそれたことをするものも少ない。そのような管理の届かないところで行う場合もあるが、——入学前、タクヤはカツ揚げグループをしょっ引いたが、まさにあの時のように——ただ、やはりそれも稀である。現在、この国では優秀な警察機構や企業が統治を行っているため、安心安全で暮らせている。エネクロジーの発達によって一時期いたるところで大戦が勃発していたが、この国に関してはかつて起きた敗戦の傷を引きずり、その流れに乗ることを極端に忌避した。そのため、この社会はまた新たなそれはいくら魔法ができたといってもここ二百年、本質的には変わっていない。
だが、そうはいっても魔法を使用するにあたって、戦闘は切っても切り離せない。いくら犯罪率が低いからと言っても、ゼロではないし、やはり数百年前よりは凶悪な犯罪が魔法によって増えた時期もあった。それに対処するにはやはり魔法しかない。テクノロジーは基本的に制御の手も効かず、どんどん進化をしていく。もちろん、それが社会の発展に繋がっているのは人類史を見ても明らかなことである。ゆえにテクノロジーの延長線上にある現代の魔法は規制では歯止めが効かない部分が多い。そのため、魔法学校ではそのような事態に対処するための戦闘訓練も行っている。
また、それらを行う裏向きの理由としては、すべての記録は登録したデバイスを介して学校側に保存される。そこから様々な数値を算出して今後の魔法研究のために使っていくというわけだ。
もちろん戦闘訓練は危険も伴うが、生徒たちはそれも織り込み済みで入学してくる。逆に
「今回の魔法実践テストを監督するのは、魔術実技担当の澁澤イツキ先生だ」
横から筋骨隆々、巨大な体躯の男性が現れる。
「担当の澁澤だ。これから君たちにはこの場所で魔法を用いた戦闘を行ってもらう」
魔術実技担当教員。いわゆる、魔法を実践的に戦闘で使うための訓練を指導する教官だ。図体の大きさは威圧的だが、それとは裏腹に彼の表情は
「この場所は普段は魔法を用いた新興スポーツを行うために設けられているが、基本的に実践的なテストを行うときにも用いている。……まぁ、単純に他の場所だと危険だからな。ここぐらいしかやる場所がないわけだ。間違っても人がたくさんいるような外の通路で戦闘を行うなど言語道断だな」
周りがくすくすと笑う。どうやらタクヤ、キヅキ二人のいざこざの噂は教師にとって周知の事実となっているようだった。キヅキは少し視線を逸らし、タクヤは苦虫をつぶしたような顔になっていた。それを見て澁澤イツキはにやりとする。
「さて、冗談はともかく、今回の訓練は訓練とはいえ危険が生じる。その上、君らもこの学校に入学したとはいえ、やはりまだ『ひよっこ』だ。自分で思っていても制御ができないこともたくさんあるだろう。だから、危険な魔法行使はその瞬間に戦闘中止にさせる。念のために魔法障壁を施してある道着を配布するが、それでも危険なことには変わりがないからな。双方ともに気をつけて行うように」
そう言って軽いメッシュの薄地のタンクトップ状になったものをそれぞれに渡した。一見すると全く防御性はなさそうだが、裏生地には様々な魔法陣が施されており魔法が当たると反応する仕組みになっている。
「では早速始めようか。そして、お待ちかね、君らが気になっているだろうペアについてだが、上部についているディスプレイに映し出される。これはリアルタイムでランダム選出しているから、完全に『運』ということになる。イカサマなしだ。人間的に苦手な相手だろうと、やりにくい相手だろうと、まぁそこは運命ということで驚かずに受け入れることだな」
現在、ここにいる生徒数は二クラスのため約50人。その中である一つの組み合わせになる確率はさして高くはない。まだ入学して数日しか日が経っていないから誰が誰と認識している人数は少ないため、誰に当たってもさして変わらないだろう。
だがそれでいても、やはり生徒たちの緊張と興奮は起きないはずがなかった。
「ほら、ディスプレイに対戦相手映るよ」
あたりがガヤガヤと騒がしい中、ケイはタクヤに耳打ちをする。全員が頭上のディスプレイに注目するために顔を上げている中、タクヤはまだ下を向いてぶつぶつとつぶやいている。ケイはその顔を無理やり掴んで上空へと向けさせた。
画面上にはそれぞれ学生の顔と名前が横並びに二つランダムに高速で点滅している。その出て来た二人が対戦相手になる。
「では、最初の対戦相手だ」
画面のそれぞれの顔写真の入れ替わりが徐々にゆっくりとなっていく。
そして映像が止まる。
その結果、あたりは一瞬しんと静まったあと、騒然となる。このくじ引き結果にはエドナ、澁澤双方ともに顔をしかめている。
「こりゃあ、
相沢タクヤ 対 反町キヅキ
その最悪のカードに誰しもが驚きを隠せなかった。
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