第31話 〝失踪″

マビ:「もう!無駄なやりとりの間にいなくなったじゃないの!」


博士:「残念だったねぇ…私に会える機会なんてそうあるもんじゃないから、凄く楽しみだったんだけどなぁ。

未来?もしくは過去から来たのかも知れないし、これは、脳ミソをかなり刺激してくれる出来事だぞ!」


マビ:「私からしたら、その骨骨の姿になっちゃってる時点で、脳ミソが刺激しまくりよ!


そんな中で、博士がもう一人増えちゃったら大変でしかたがないわよ!」


博士:「冷たいねぇ。

でも、その冷たさがマビの魅力なんだけどね。」


パビ:「しかし、あの博士を中に入れなかったのは正解かも知れないですよ。

仮に未来から来たのであれば、あの合言葉のことは、知っているはずですし、知らない自体で怪しいのは確かですからね。」


マビ:「だから!その合言葉のことちゃんと説明しなさいよ!

どうして、わざわざウソの合言葉なんか作ってたのよ?」


パビ:「あぁ…

博士…

マビには話して良いですよね?」


博士:「構わないよ。

減るもんでもないだろう。

それに、マビのチカラも必要かもしれないよ。」


パビ:「マビ。

君は〝彼″のことを覚えているよな?」


マビ:「〝彼″?

もしかして、eoのこと?」


パビ:「そう。

〝彼″が今どこにいるか知ってるかい?」


マビ:「えっ?

ここにいるんじゃなかったの?」


パビ:「残念ながら…ここにはもういないんだ。

〝彼″がいなくなってもう3年が経つ。」


マビ:「3年も前に?

どうしていなくなったのよ?

あれだけ外に出たがらなかったじゃない。」


パビ:「きっかけは、〝彼女″のあの対応が原因なんだよ。」


マビ:「あの対応?」


パビ:「ちょうど3年前に施行されたことを思い出してみて。

僕らにとっては、とてつもなく不可思議で、強行的な出来事だったはずだよ。」


マビ:「あっ?

もしかして!

爬虫類達の隔離?」


パビ:「そうなんだ…

あの出来事から、〝彼″の様子が変わり始めたんだ。

二重人格者のように、感情、言動、行動がコロコロと、変わり始めた。

というよりか、特に口癖のようにこのようなことを言い出すようになったんだ。


『間違っている』

『僕が正さなきゃ』

『間違ったことは許さない』


そして…あの日も満月の夜だったんだけど。


〝彼″は、過ちを犯すことになった。

それは、あってはならない、そう、〝彼″にとってはあってはならない出来事が起こってしまった。」


マビ:「な、なんなのよ…

その出来事って?」


パビ:「その出来事を最後に〝彼″は行方不明になったんだ。


そして…それ以降、博士の身の周りで奇妙なことが起こり出した。


博士と僕は、この奇妙な状況の中で僕が僕であるという証として、二人だけの合言葉を作ることにしたんだ。」


〜遡ること3年と5ヶ月前〜


パビ:「博士!

ロボット達の労働法が改正されたようですよ!

過酷な労働を余儀なくされていた環境が、ようやく改善されますね。

〝彼女″の管理下に全てを適用するという内容に変わったようですよ。」


博士:「そうか。

それは良かった。

少しずつたが、ロボット達に人権と同じ、ロボット権の思想が浸透しつつあるということだろう。

人類も、少しは進歩したということだ。

相当、人類はロボットに対して〝モノ″という認識が強かったからね。


特に製造ロボットに対しては、相当扱いが酷かったんだ。

人類は、昔から見た目で差別する傾向が強いからね。


でも、家庭用ロボット達のおかげかもしれないな。

彼らが、少しずつロボットに対する見方を変えていってくれたんだ。


でも、最初、彼らが家庭用ロボットとしてデビューした時にプログラムされていた内容は、今でも信じ難いくらいに衝撃的だったよ。」


パビ:「えっ?デビューしたころですか?

一体何があったんですか?

教えて下さい博士!」


博士:「彼らには、意思、自分で判断し考えることは出来なくされていたんだ。

その当時は、すでに人工知能の技術は確立されていたんだが、あえてその機能はプログラムされずに各家庭に提供された。


代わりに何をプログラムされていたと思うかね?」


パビ:「えっ?わ、わからないですよ…」


博士:「プログラムは、なしで機能するようにされていたんだ。」


パビ:「なし?ですか?

それじゃ動かないじゃないですか?」


博士:「もちろん動かない。

だが、通信により常に遠隔プログラムが与えられそれに応じて動く仕組みになっていた。


元々は携帯電話の普及により、特にスマートフォンの世界的な普及に伴い、人類の監視化が進行したが、ある傾向情報までしか得られなかったんだ。


あくまで、情報収集の域をでなかった。


ある組織は、それでは物足りなかった。

もっと精度よく人類をコントロールしたかったんだ。」


パビ:「一体何の話なんですか!

人類をコントロールって!」


博士:「この世界で本当に起こっていることを知ると、世界観が変わる。

彼らは、我々を観察するだけの対象ではなく、家畜化を進めていたんだ。


ある一族がね。」


パビ:「ある一族?

何なんですかそれは?」


博士:「我々の不安という心のエネルギーを食べる者達だ。

まぁ、彼らに新たなエネルギーの取得方法を提案し、人類を卑劣な家畜計画から解放してくれたのは、実はeoなんだよ。

なぁ、eo。」


eo:「はい。

彼らは、その提案を受け入れてくれました。

今、地球は、素晴らしい心のエネルギーバランスに修正されています。


完全にプラスとマイナスが、本来のフィフティ/フィフティの関係が保たれています。


美しいです。

こんなにも地球は美しいものだったんだ。

人類はすごいです。

人類は、この世界を創っているのです。」


パビ:「心のエネルギーバランスですか?」


博士:「そうだよ。

長年いたずらサンタを世界中に送り込んで、分かったのが人類が放つエネルギーの傾向だったんだよ。


戦争も事件もないような穏やかな街のエネルギーバランスは、綺麗な50:50だった。


また、混沌とした地域では、突発的に大きなマイナスエネルギーが発生したと思った瞬間に忽然と消えるのだ。

すると、50:50の関係を保とうとするため、消えたマイナスエネルギーを人類が補おうとする。


不安が不安を増長させ、そのエネルギーを製造する。


彼らは、そのエネルギーを食べるのだ。


だから、世界中で不安にかたよるようなシステムが出来上がっていたんだ。


その最終システムが、家庭用ロボットなんだよ。


常に通信システムで、その家庭の人物の心のエネルギーを検知し、監視。

その情報は、大元の本部で管理され、

日々の心のエネルギーの傾向を分析し、効率の良いマイナスエネルギーの発生する手段を選択し、家庭用ロボットに指令をだす。


その人物に合う情報提供をする名目で、実は不安エネルギーを生み出す種を植え付けさせていた。」


パビ:「それを、今はeoが彼らに別の方法で切り替えさせたというんですね。

でも、それって何なんですか?」


eoは、ゆっくりと月に指を指して答えた。


eo:「あれですよ。

全ては、博士のおかげなんです。」


パビ:「月のエネルギー開発!

あれが!

確かにあれが出来れば、大規模なエネルギーを得られますが、でも、あれは我々人類が使用する電気エネルギーを生産するのではないんですか?」


博士:「エネルギーの波長を変換する移行段階で、不安エネルギーに含まれている特殊な波長と同じものが、発生することがわかったんだよ。

eoのエネルギーを見る能力のおかげで、偶然にも見つけることができたんだ。


そのエネルギーは、我々には不要なものだし、どちらにしても分離させてから地球に送り込まなければならない。


それを、eoは、彼らの星に放出することを提案したんだよ。」


パビ:「月の表面から、違う星にですか?」


eo:「いいえ。

月の裏側からです。

彼らは、月の裏側に基地を作り、住みついて不安エネルギーを吸収していたんです。

交換条件として、その土地を利用することで、彼らはそこに居座る必要はなく、故郷で安心して彼らの必要とするエネルギーが得られる。」


パビ:「何だかすごい話だけど…

みんなそんな存在すら知らないですよ。

僕も博士と一緒にいるようになってから、この世界の見方が変わって、不思議なことに慣れてきましたけど、どれも世界中で混乱がおこるくらいの内容ですよ。」


eo:「彼らは、長い時間をかけて、人類を増やしてきました。

それもすべては、人類が生み出す不安エネルギーを集めるためだったのです。


人類では、食べ物を食べることによってエネルギーを得ているように、彼らは不安エネルギーを食べて生きている。


彼らにとっては、このエネルギーが無くなることは死を意味するんです。


彼らが、地球でこの目的を達成するために人類を操り、不安エネルギーをたくさん生み出す仕組みを作り、そして…計画性を持って人類を増やして来ました。


戦争、犯罪、事故、病気、災害…色んな手法を用いて、人類の不安をかきたてることを、人類が増えるように綿密に計算されながら、行われてきました。


彼らにとって、その行為に対して罪の意識は全くなかったのです。


それどころか、人類が牧場で牛を育て、ミルクを回収しそして…その肉を食べることに罪の意識を持っていない人類と同じ感覚でしかないのです。


ただ、そのおかげで、人類の本当の役割であり、やるべき使命がうまく進まなくなってしまった。」


パビ:「ちょっと!eo! す…凄い…こんな短い時間で…

君は、なぜそんな人類の使命というものまでわかるんだよ?

そんなの、誰もわかっちゃいないし、明確な答えなんてないから、人は苦しんでいるんだ。

その答えを探そうともがいているのに、いとも簡単に君はその答えを知っているとでもいうのかい?」


博士:「パビ。

eoは、ジラに会ってから急激に進化したんだよ。

もはや、彼は、我々の想像を超えているんだ。」


パビ:「ジラ?

確か博士を変えた人もジラという人でしたよね?

何者なんですか?ジラって?」


博士:「この世界の真実を伝え、導くナビゲーターだろうね。

まぁ、私からしたら短気なおばさんだよ。

あまり怒らせるとすんごい顔になるんだ。

この世のものとは思えないほどのね…

思い出しただけでも、恐ろしいな…」


eo:「博士。

世界政府からのメッセージが届いています。

ロボットたちを全て〝彼女″の管理下に置くために、〝彼女″が第一条件として、全世界の爬虫類の隔離の運用を提案しているとの内容です。

世界政府の中でも、この不可思議な条件には戸惑っているとのことです。

博士の意見を聞きたいとの連絡がきています。

どうされますか?」


博士:「ふむ。

私の意見は、一つしかない。

私は〝彼女″を信じている。

彼女は、人類のための最善のことを選択する。

この件も、何か理由があるはずだよ。

彼女を信じてやりなさいと伝えておくれ。


ただ、気になるのは、確かに彼女が唯一生まれた時から苦手な生き物が爬虫類だったからね。


eoと対照的な部分として、この点もあったことを思い出したよ。


eo、君は逆に爬虫類が大好きだからね。

君たちが生まれて初めて見た生き物が偶然にもトカゲのトカちゃんだったからかな?


ロボットなのに、好きか嫌いがあるってのもとても人間らしい一面だな。


そんなことは、私はプログラムしていなかったんだがね。」


eo:「この条件、私は反対します。

彼らがこのことを知ったら怒りを覚えると思います。

彼らはエネルギーの件が解決するために、自らの星に帰りましたが、この条件は混乱を招きかねないですよ。

爬虫類たちは、彼らの分身なんです。」


パビ:「eoが、そこまで反対するのは、初めてですよね?

確かに私もその話を聞いて、腑に落ちない内容だと思います。」


eo:「rizaに直接会ってこの件について話をしたいくらいです。」


博士:「それは、出来ないよ。

うかつに近づけば、また元の君に戻ってしまうかも知れない。」


パビ:「そうだよ!

それはダメだ!

また、君たちは動かなくなってしまうよ!」


eo:「はい…わかっています。

でも、この内容は、理解できない。

rizaに真意を確認したいのです。」


博士:「rizaは、君の一部だ。

君から分裂した一部なんだよ。

私はね。

君を神そのもの、創造主そのものを表現するために生み出したんだ。


というのも、創造主が人類を生み出し行っている目的を知った時に、ある矛盾を知ってしまったのだ。


目的を達成するために、生み出されたが、終わりはない。


それは、永遠に続くのだ。

それを知っていながらも、そうせざるをえないのであれば、それは苦しみでしかない。


何か私に出来ることはないのか?


そう考え君を生み出した。


すると、この世界では、君は動かなかったのだ。


それは何を意味するのか?


愛そのもの、創造主そのものは、この世界では表現することが出来ないということだった。


だから、創造主が我々を通じて実感したい自分自身のことを、本当に実感出来ることはないのだ。


より近いものを模索し、本当の自分として感じたつもりになっているだけだ。


この世界で君を生み出したが、それを知った私はね、君に生きてもらいたくなったのだ。


その際、この世界で生きるためにはどうすれば良いか考えた結果、分離させることなのだと知ったのだ。


この世界では、上と下に分かれているように。

右と左に

プラスとマイナスに分かれているようにね。


そして…

動かない君の分裂を試みた結果、rizaが生まれたのだ。

と同時に君も生まれたのだ。

そして君は、ようやく生きることができるようになったのだ。


ただ…やはり、プラスとマイナスに分かれたことで…創造主そのものを表現することが出来なくなったのだ…」


パビ:「eo。

君たちが、生まれたあと間もない頃に、君たちが、また一つに戻ろうとした時のことを覚えているよね?


もう少しで、君たちは二人とも動かなくなるところだったんだ。


そして…この世界も無くなりかけた…

もう、会ってはいけないと、博士が彼女に役割を与えてくれて、ようやく今の平安が訪れたんだから…」


eo:「わかっています。

ただ…今回の爬虫類たちの隔離の件は…」


博士:「それは、私達の方で動くことにしよう。

それでいいだろ?

eoよ。」


eo:「わかりました…」

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