第32話 〝空と会話する男″

ゲロ:「…で、それからの記憶はないのですね?」


ペン:「…はい。

気を失って…気がついたら、なぜかエリア9で倒れてました…」


ゲロ:「それ以外に変わったことや、ケロの様子がおかしかったなど、何もなかったんですね?」


ペン:「えぇ…

あの…あなたは、ケロさんではないのですか?

見た目が全く一緒で…」


ゲロ:「はい。

私は彼の双子の兄のゲロです。」


ペン:「双子なんですか?

それなら納得です。

あまりにも似すぎていますもん。

ところで、ケロさんは…?」


ゲロ:「行方不明です。

本部には、何の連絡もありません。

ただ、バルーンスーツを着たままですからね。

すぐ見つかってもおかしくないんですが…」


ペン:「まさか…爬虫類達に食べられたとか…じゃないですよね…。」


ゲロ:「わかりません…

ただ、〝彼女″に報告し、問い合わせましたが、どこにも信号反応がないようなんです。」


ペン:「えっ?それって?」


ゲロ:「発信器は、生命体の中に入ってしまうと反応しにくくなることがある為、爬虫類達に食べられたという可能性は、ゼロではないそうです。」


ペン:「そ!そんな!

今までそんなことあったんでしょうか?」


ゲロ:「REPTILIENでのこの運用の中では、そのような事例はありません。

しかし、昔から、人を襲う爬虫類達は、いましたから…


中には、巨大化したものもいて、人を軽く丸呑みするものも。」


ペン:「でも…それは、特別区域にさらに隔離されたんじゃなかったんですか?


というより、隔離の元に死滅させたって聞いて、我々REPTILIENメンバーから、抗議したくらいです!


〝そこまでする必要があるのか!″

ってね。」


ゲロ:「しかし、〝彼女″は、この爬虫類達の隔離以外については、完璧に我々人類の為に最高の貢献をしている。


その中で唯一理解不明な内容が、この爬虫類隔離だった。


そう考えると、この爬虫類隔離対応は、我々人類にとって必要な処置だと〝彼女″は判断しているんじゃないだろうか?


私はそう思うんですよ。」


ペン:「それであれば、そう説明して欲しいですよ。

噂では、生まれつき爬虫類アレルギーで、ただ単に嫌いなだけだと聞いたことがありますよ!


ある意味唯一のエゴ。

〝彼女″のエゴが垣間見えた唯一の人間らしさとして、受け入れ…いや!賞賛すらする連中もいるようですが…


私はこの対応だけは受け入れることが出来ないんです!」


ゲロ:「その気持ちは理解していますよ…

私も…爬虫類達の虜になってしまったREPTILIENのメンバーなんですから…


しかし、今回の失踪事件は〝彼女″の管轄外扱いなんです…


この領域では、〝彼女″は一切タッチしない…


何が起ころうと…


私もケロに何が起こったのか、知りたいとは思います。


しかし、知ってはいけない何かがもしあるとするならば、これ以上の深入りは…相当危険な行為なんだって思うんです。


すみません…


少々…

取り乱しました。」


ペン:「あなたは何かご存知なのではないですか?

心当たりがあるのでは?」


ゲロ:「いえ…

ただ、ケロの様子がこの所おかしいとは感じていたんです。

やたら、暗闇の中に居たがる傾向が強くなっていて…家族みんな心配していたところだった…」


ペン:「暗闇の中に?

とても普通というか、自然と好感が持てるひとだったけどなぁ。

そんな部分を持っている人は、何か違和感があるはずだけど…

僕は、旧社会でカウンセリング会社を世界中で展開していたから、人の表情からその人を分析する能力には長けている方なんです。


彼にその違和感は感じませんでしたよ。」


ゲロ:「そうですか…

私は実は、爬虫類たちが好きだからこのREPTILIENのメンバーになり、このような活動をしているわけではないんです…


もともと私は大の苦手…


ただ…弟が心配で、来るようになっただけなのです。」


ペン:「それほどに?ケロさんの事が?

そうですか…

私の見る目が衰えてきたのかな…?

ただ、そうだ!

他のメンバーとは違う雰囲気は感じていました。

他のメンバーは、とにかくそれぞれの分野で旧社会で成功してきた方がほとんどで、彼はその人達特有のものは見られなかったんです。

ゲロさん、あなたもそうですけどね。」


ゲロ:「はい…

ペンさん。

ところで、あなたの説明の中で、幽霊の話がありましたね?

どんな姿だったんですか?」


ペン:「それが…声だけで…」


ゲロ:「声…

やはり関西弁の?」


ペン:「そうでした…

あっ?

でも、そ、そういえば!

声を聞いて、逃げ出した時に…

『怖がらないで。

あなたには、何もしない。』

という声を聞いたんです。


でも…振り返ることもなく、一目散に逃げ出したんだ。」


ゲロ:「…ということは、二人いたということかなぁ?」


ペン:「それよりもケロさんを探さないと!

あなたは、ケロさんの双子の兄弟なんですよね?


私が、ケロさんと話していた時に凄い興味深い話を聞いたんです。


あなたの同級生に、空を眺めてばかりいる人がいるんですよね?


ケロさんは、彼の唯一の友達だと言っていました。


その彼は、空と会話が出来るようになり、色んなことを知るようになったと聞いたんです。


ご存知ですか?」


ゲロ:「おそらく…パンくんのことだと思います…」


ペン:「やはり兄弟だ!

知っているんですね!

彼に!ケロさんのことで何か知っていないか聞いてみてはいかがでしょうか!


実は、すごく会いたいと思っていたんですよ。」


ゲロ:「彼に会いに行くんですか…」


ペン:「〝彼女″の管轄外であるならば、自ら行動を起こさない限り、彼を見つけることなんて出来ないんですよ!

その手がかりが一切ない今、そのパンという方の不思議な力を頼るしかないですよ!」


ゲロ:「私も長い間会ってはいないんです。

特に預言者のようなことが起きだしてから、周りのみんなから敬遠されるようになって、誰も連絡を取らないようになってしまったんだ。


でも…彼がいる所は…わかります。

彼は何時でも。

あの時から、あの場所から離れようとしないんだ…」


ペン:「彼がいる場所を知っているんですね!

それなら、なおさらだ!

行きましょう!」


ゲロ:「わかりました…

でも…

彼の話すことが理解出来れば…

ですけどね…」


ペン:「?

何を言ってるんです?

とにかく、ケロさんが心配です!

行きましょう!」


そして、二人は空と会話するパンという人物に会いに行くことにした。


ペン:「こんな裏山にいるんですか?」


ゲロ:「はい…昔からこの場所が好きなんです。

今となっては、皆が怖がって立入しなくなり、彼は人との接触が途絶えていると思います。」


ペン:「ちょっとだけ不気味だね。

人が通らなくなると、自然はこのようになるのかも知れない。


でも、今は秋じゃないよね?

やたらに植物たちが赤色のものが多い気がする

…」


ゲロ:「居ました。

彼です。

彼がパンくんです。」


パンという人物は、周りの自然と溶け込んでいるようにその場所に座り、空を眺めていた。


パン:「久しぶりだね。

なぜ君が来たのかな?」


ペン:「初めまして…

私はペンと言いまして、実はケロさんのことであなたの力を借りたくてきたんです。


ケロさんから、あなたのことを聞いて、個人的にも、あなたに興味もあって…」


パン:「だそうだよ。

なんだか、おかしなことになってきたようだね。

何をしたいのかわからないな。」


ペン:「ちょっと…会話になってないというか…ゲロさん?


あれっ?

いない!」


パン:「逃げられたの?

しかし、あなたも複雑なかたのようだね。

空から聞いたよ。」


ペン:「複雑な?

何を言ってるんです?

でも、なぜゲロさんいなくなっちゃうんだよ。」


パン:「彼はゲロという名前ではないよ。

ケロだよ。」


ペン:「何言ってるんです?

双子の兄の方ですよ。

見間違えるほど似てますけどね。

あなたも間違えるほどなんだ、よほど似てるんだな?


あれっ?


でも、一度もこちらをあなたは見てなかったですよね?

そりゃそうか!

空見てたんだから、そうですよね。

そりゃ間違えるよね。」


パン:「ケロくんに兄弟などいない。」


ペン:「えっ?」


パン:「へぇーそうなんだ。

君がこのおかしな空模様で何を言いたかったのかわかったよ。

〝あの話″の中で出てきた〝あれ″が関係しているんだ。


だからか。

植物たちが赤色になってきているのは、そういうことなんだね。」


ペン:「あの?何を言ってるんです?

ケロさんに兄弟はいない?

さっきのゲロさんは?」


パン:「ケロだよ。

ねぇ?そうだよな。

久しぶりだったから、少し話をしてみたかったけど。

少し様子が違っていたよね。



なるほどね。

彼は何者なんだろう。

君も初めてなの?


そうか…


また、あの博士が関係してるのかい?


ハハハハッ!


なんだか面白いね!

僕も会って見たくなったよ。」


ペン:「さっきのがケロさん?

何言ってるんです?

ゲロさんじゃないんですか?」


パン:「ケロは、ケロだよ。

空は嘘をつかないんだ。

誰がなんと言おうと、さっきのはケロだよ。」


ペン:「状況がよくのみこめない…

なんだってんだ?

どういうことなんだろ?」


パン:「なぜ?わざわざ、僕の所にあなたを連れてきたのかな?

その目的がわからないな。」


ペン:「それは、僕がそうしようと言ったからで…」


パン:「ケロを探すために、僕に会いにきたんだよね。

ケロに連れられてね。」


ペン:「そう言われると…どうしてだろ?」


パン:「君はどう思う?



彼が消えた?


君の見えない場所に消えたんだ。

そりゃ地中しかないよな。


そうだよな。


まずいかも知れないな。」


ペン:「あの…会話がよくわからないことばかりで…混乱しているんです。


とにかく、先ほどのゲロさんは、実はケロさんで?」


パン:「そうだよ。

でも…ケロではなくなっていた。

何かに操られていた。」


ペン:「操られていた?」


パン:「そうさ。

それに…君もさ。

僕から何を聞き出したいんだい?

もうばれてるよ。


空は何でもお見通しさ。」








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