第16話 〝episode dogu″

私はいまだに、君がいなくなってしまったことを…

受け入れることが出来ない…

この世界を捜索している理由は、ただ一つ…


ただ…


ただ…君に会いたいだけなのだ…


あの約束を…果たすために…


皆の記憶から、君の存在が何もかも消えてしまった…


今も…


episode ~ドグ~


僕はエレ。


ドッペルゲンガーの物語が、僕の未来の話だってことは、もうわかってくれたかな?


この話を進めるには、ドグさんのことをもっと知っておいた方がいいと思うんだ。


まさか、あのドグさんが同じ時代の人だとは夢にも思わなかった。


そして…あんな生き方を選んでいたなんて…


でも…ドグさんしかいないんじゃないかな。


それを貫いた結果…

この世界の〝ほころび″を手に入れたんだ。


それは、知ってはいけない…

少なくとも、今の僕たちが知ってはいけない〝ほころび″だった。


全ては、この〝ほころび″がもたらしていたのかもしれないんだ。


「また、出かけるの?」


「あぁ、また事件なんだ。

現場に向かわなきゃならない。」


「ねぇ、あなた。

覚えてくれてる?

あの約束。」


「あぁ、忘れるわけないだろ。

忘れるわけないよ。

とにかく、事件なんだ…

急がなきゃ。

この埋め合わせはきっとするから。」


「そうよね…ありがと…

でも…もし…

もしもの話だけど、私が明日いなくなってしまったらどうする?」


「なんだよ?急に…

何馬鹿なこと言ってるんだよ。

そんなのあるわけないだろ。」


「…そうね。

でも、もしもの話として、

明日急にいなくなってしまったら…

あなたは、どうするの?」


「僕が約束を破ったことがあるかい?

僕は必ず君を見つけるよ。

必ずね。

僕は刑事だよ。

必ず見つけ出してやるさ。」


「ありがとう…

も…もういかなきゃ…


本当にありがとう…


本当に…」


「な、なんか今日の君はなんか変…

お?おい!


き、消えた…


どうして?

どうして急に消えたんだ!


なぁ!みんな!

今までそこにいた

彼女は、どこにいったんだ!

えっ?

そんな人いないだって?

何をいってるんだ!

今の今まで、いたじゃないか!

彼女だよ!

名前は何だって?

な…名前?

な…ま…え…


お…思い出せない…

い…いや!違う、私の妻なんだ!

私の!


妻なんだ!」


バァッ!

「ま…また…あの夢か…」


ドグさんはさ。

いつもこの夢を見ていたらしいんだ。

この日も汗びっしょりで、うなされていて、夜中に目覚めた。

そう、夢を見ることで、忘れないように無意識が助けてくれていたのかもしれない。


「もうすぐだ、たぶん今回はかなりのところに近づいているようだ。

もう、君を覚えているものは、この世界では私だけになってしまった…

私はあの時の約束にこだわり、こだわることで忘れないようにしているんだ…

絶対に忘れてはならない…

忘れた瞬間に君を二度と思い出せなくなりそうで怖いんだ。


今日は、スークという、大企業の創立者に会える…

そこに、何かを感じる。」


ドグさんは、〝この時″の〝歪み″について、違和感を感じていたみたいなんだ。


でも、その違和感は、〝あの時″、奥さんが消えた時に感じた違和感と同じかもしれないって言ってた。


ちょっとした〝世界のブレ″のようなもんで、恐らく奥さんは、そのブレに引きずり込まれたのかもしれないって。


ドグさんの人生を大きく狂わせたその〝世界のブレ″を探すきっかけとなった〝あの事件″は、〝この世界″ではもう、ドグさんの妄想としか取り扱ってもらえないシロモノになってしまった。


でも、間違いなく〝この世界″で起きたことなんだ。


少しだけ、〝その時″の出来事まで、遡ってみてみようと思う。


これは、ドグさんがマスターになる前の物語。


人として、もがいていた頃のね。


ブー!ブー!ブー!ブー!

「もしもし。

あっ警部!

はい!

えっ?

わ…わかりました!

すぐに参ります!」


「ま…またなの?」


「あぁ…すぐに着替えなきゃ。」


「最近次々と事件が起きてるのね。

体は大丈夫なの?

凄く疲れているように見えるわ。」


「なんのこれしきのことで。

弱音なんか吐いてられないよ。

しかし…今担当している事件は、相当奥深いものがあってね。

一筋縄ではいかなさそうなんだ。

署の上層部も相当焦っているし、とまどっている。

こんなのは、はじめてだよ。」


「そうなの?…。

お願いだから、無理はしないでよ。

私たち結婚したばかりなんだから、いきなり未亡人にはさせないでよね。」


「あぁ。

わきまえているよ。

大丈夫だ。

じゃあ行ってくるよ。

遅くなるようてあれば、また連絡するよ。」


「わかった…

ねぇ…

今度休みがとれたらさ…

一緒に行って欲しい所があるの…」


「あぁ。

休みが取れたら必ず行こう。

もう、出かけるよ。」


「あっ…う、うん…

いってらっしゃい。」


今思うと、この時から、その違和感は始まっていたのかもしれない。

そうドグさんは、つぶやいていたことがあったんだ。


その変化に気づいてあげられなかったことを、とても悔やんでいた。


事件現場

ドグ:「すみません警部!

もう、来られていたんですね!」


警部:「ドグか。

たまたま、現場の近くにいたんだ。

しかし…それでも遅かったよ…

もう〝何もかもなくなっている″

また、同じなんだ…」


ドグ:「えっ?

またですか!

また消えたんですか?!」


警部:「あぁ…

綺麗さっぱりとな…

これでは、捜査にならん!

いったい何が起こっているんだ!

こんな手際よく死体を処理できるとしたら、よほど組織化され計画していなければ出来ないはず…

ただ、目撃者の話では、忽然と消えたとしか証言が得られない…

これじゃ…調べようがない!」


ドグ:「警部…

今回はどういった状況だったのでしょうか?

不可思議な事件ではありますが、なんらかの手掛かりは得られるはずです。

被害者は?」


警部:「漫画家だよ。

予言めいた作品を描くことで 人気が出だした新鋭のようだ。」


ドグ:「この間は、宗教家、その前はある製造業の工場長、その前は小学五年生の男の子でしたが、今度は漫画家ですか…

何の繋がりがあるのでしょうか…

起これば起こるほど訳が分からなくなってしまいます。」


警部:「繋がりを見いだそうとするから混乱するのだ。

単純に考えれば、標的は無差別。

それで説明がつくだろう。

無差別的な犯行なんだよ。

誰でもいいと考えて行う犯行ほど、厄介なものはない。

ただ、この手の犯行は、本来足がつきやすく、そう長続きするもんじゃないのだが…


〝上″のほうの情報では、これは、この地区だけではないようなんだ…」


ドグ:「この地区だけではないですって!

他の地区にまで広がっているというのですか?」


警部:「地区レベルではない…」


ドグ:「えっ?」


警部:「世界中で、同様の事件が起こり出していることが分かったんだ。

どこも、頭を悩ませているようだ。

忽然と消える現象にな…」


ドグ:「…一刻も早く犯人を探し出さなければ…

すごく嫌な感じがするんです…

この一連の事件は、今まで味わったことのない〝違和感″があります。」


警部:「とにかく、我々は今目の前に突きつけられた本件に集中しよう。


今日はやたら、明るい夜だ。

他に目撃者もいなかったのか、聞き込みもしないとな。


ん?

やけに、明るいと思ったら満月だったのか…

満月か…ん?


おっ!あのカメラ!

ドグ!

あの、カメラに何か映っていないか確認してみよう。」


ドグ:「なるほど!

わかりました!すぐ対応します!」


ドグ:「あのカメラに映ってくれていればいいのですが…

所有者である、このガソリンスタンドのオーナーに協力を依頼します!」


警部:「ん…あぁ…頼んだぞ。」


……2時間後……

署内

ドグ:「お待たせしました!


目撃者から聞いた、被害者が消えた時間前後の記録データを借りてきました。


証言時間の30分前くらいでよろしいでしょうか?」


警部:「あぁやってくれ。」


ドグ:「ちょうど、左隅が事件現場になりますね。

人通りは、深夜ということもあり、かなり少ない…


しかし、犯人もわざわざカメラがある所で犯行を起こすとは思えないしなぁ。

計画的であればあるほど、そんな不備は起こさないと思うんですがね。」


警部:「ただ、あの場所にわざわざ遺体を運んで、そして消えさせるなんてことも無駄な作業になる。


なんの意味もないからな。


おい!誰か来たな…」


ドグ:「恐らく被害者です!

目撃者から聞いた服装と同じです。

すぐ、画像解析で、検索を掛けます。」


警部:「ドグ!

もう一人いるぞ!

被害者も、気付いたようだ!

振り向いて何か話している!

もう一人もすぐ検索をかけるんだ!」


ドグ:「わかりました!

被害者と思われる人物は、95%の確率で判定が出ました。

間違いありませんね。」


警部:「もう一人は、会話をしているようには見えないな…

被害者は…何か話しているが…やたら驚いている感じだ。


な?

被害者が逃げ出したぞ!」


ドグ:「そ…そんな!

警部…おかしな結果が出ています…」


警部:「ど、どうしたんだ?

あっ!被害者が急に倒れたぞ!」


ドグ:「そんなバカな…

機械の故障ではないだろうか…」


警部:「ドグ、どうしたんだ?

見てみろ!

被害者が急に倒れたぞ!

もう一人の、人物がゆっくりと近づいている!」


ドグ:「警部…

もう一人の人物も…


被害者なんです…

96%の確率で…」


警部:「なんだと?

もう一人の人物が、倒れた被害者を覗き込んでいる…

こ…こいつも被害者だと?」


ドグ:「も…もう一度分析をかけましたが同じです…いったいどういうことなんだ?」


警部:「見ろ!

もう一人の人物が…

な、何なんだこれは!」


ドグ:「えっ!こ!これは!」


警部:「被害者の中に入った…」


ドグ:「こ、ここで右隅に目撃者が、あらわれています。

うわっ!」


警部:「……。」


ドグ:「消えた…」


警部:「証言…通りだ…」


それから、ドグさんは、被害者のことを調べていったんだけど、双子でもなく、兄弟もいなかった。

もう一人が、誰だったのかも、なぜ消えたのかも、わからない。

ただ、被害者が増えれば増えるほど、世界中の事例から得た情報から、ある企業の存在に〝同じ違和感″を感じるようになったらしいんだ。


それは、何の繋がりも、脈絡も無い。


ただ単なる〝感″。


不思議とドグさんは、その〝感″に導かれるように、その無関係とも思われる企業への接触を、警部に相談することにしたんだ。


その相談後すぐに、捜索中止の指示がでたんだって。


警部:「ドグ…もう、我々が関与する事件のレベルではない。

〝上″から、これ以上の本件の捜索はストップがかかったよ。」


ドグ:「なぜですか!理由は?!

まだ、犯人は捕まっていませんよ!」


警部:「君も見ただろう。

犯人などいない。

被害者と、同一人物が現れ、そして消える。

昔からある、神隠しのようなことが起こったとしか思えない。」


ドグ:「いや!違う!

私は一つの共通点を、見出しています!


〝満月の夜″


事件は、共通して満月の夜に発生しています。


それと、先日ご相談したあの企業の存在

…私は、やはりあそこに何かあるとふんでいるんです!」


警部:「やめておけ!

何の繋がりもないんだぞ!

しかも、とてつもない相手なだけに、下手に動けば訴えられるだけだ!

変な〝感″だけで、動くほどバカな捜索はない!

いい加減にしろ!」


ドグ:「これほど世界中で発生した事件の中で、カメラに映っていたのは、あの事件だけでした。


あれ自体が何か違和感があるんです!」


警部:「?何を言ってるんだ!

これ以上、何を疑うのだ!

この世の中には、我々人類が予想だにしない不思議なことが起こるもんなんだよ!


踏み入れてはならない領域もあるんだ!」


ドグ:「…?どういう意味でしょうか!

警部!あなたは、何か知っているのではないですか?

この事件の真相を!


何を知っているのですか!」


警部:「知らないよ…

ただ…昔から、受け継がれてきた噂話の受け売りだよ…

昔から不思議な事件というものがあったということだ。

不可思議なだけに危険…

世に出ない署内の未解決の事例の中にも、幾多の不可思議な内容のためにお蔵入りしたものがあるのだ…」


ドグ:「この事件も、それと同じだと?」


警部:「そんな類いの怖さがある。

もうやめておけ。」


ドグ:「納得出来ないです!

私は追い続けますよ!

これは!神隠しではない!

何らかの目的を持った!

〝犯罪″です!

なぜ?標的が彼らだったのかも、理由がある。

それも、一つ一つ紐解いていけば、必ず辿り着けます!


私はこの犯行に屈しませんから!」


バーン!(ドアを閉める音)


警部:「ドグ…もうこれ以上は…やめてくれ…

お前のためでもあるんだ…」


ドグさんは、そのあとにその企業の経営者に会いに向かったんだって。

その企業は、今、記録にも残っていないそうなんだ。

本当に実在していたのか、今となってはわからない…

そう言っていたんだ。

もしかしたら、全て自分のために作られた世界の中で、演じられた架空の企業だったのかもしれないと。


『全て自分のために作られた世界』


この言葉が気になって、聞いたことがあるんだけど、まだ知らない方がいいと教えてくれなかったんだ。


でも、僕らがまだ知らないこの世界の真相が、その言葉に隠されていると思う。


その後の話にもどるね。


ドグ:「ここだ…

この前に会ったスークという人物との一連の不思議な事件解決が、この企業へのつながりをつかむ事が出来たんだ。

あれで終わらず、さらに調査してよかった。


ただ、調べるほど、この企業の存在が奇妙な違和感だらけのものなんだ。


裏社会での影響力を持つことは、間違いない。


簡単にキーマンに会えるかどうかだが…


なぜか今日は、会える気がする…」


そして、その企業の代表者に会いにいったんだ。


「ドグ様ですね…。

お待ちしておりました。

部屋にご案内いたします。」


ドグ:「お待ちして?

どういうことだ?」


「こちらでお待ちください。」


大きな応接室に通されたドグさんは、黒と白色しかないその部屋で、その人物を待つことになったんだ。


でも、そこに現れたのは…


ガチャ


警部:「ドグ!もうやめておくんだ!」


ドグ:「け、警部!どうして、ここに!」


警部:「最後の警告だ。

お前は、少し行き過ぎたんだよ。

この世界を、これ以上狂わせることはしたくないんだ。

お前自身を傷つけるだけではすまない。

さらなる苦しみの歪みを生み出すだけだ。」


ドグ:「やはり!

警部!あなたは、全て知っているんですね!

なぜ?あなたは、全てを知っていて動かないのですか!」


警部:「それを知りたいのか?

何もかもが崩れていくことになる。

お前は、お前の幸せな家庭を持ち、勇敢な警察官としての職務を全うし、お前しか味わうことの出来ない苦しみと幸せを感じ、死んでいく。


それでよかったのだ…」


ドグ:「それで良かった?

どういう意味です?

警部!あなたは、何を言いたいんですか!」


警部:「そう描かれている。」


ドグ:「なっ?

描かれている?」


警部:「それを覆してはならないんだよ。

その兆しを見せてしまえば、奴らが現れるんだ!」


ドグ:「け、警部?

何を言ってるのかわかりません!」


警部:「最後の警告は終わっ…た…


すまない…私は監視役に過ぎない、

お前が産まれた時からの監視役だった。


だが、変に情が生じてしまったようだ…

せめて、お前だけでも助けたい。

これから言うことを心に刻むのだ。」


ドグ:「警部!

全てを教えてください!

何を言ってるのか意味がわからないんです!」


警部:「この世界の秘密に触れてはならない。

触れたものは消されてしまう。

この世界を創造のチカラで変えてはならない。

変えようとするものは、消されてしまう。


私はその能力を持つものを監視する役割。

お前は、産まれた瞬間から、ある特有の波動を持つ危険人物として登録された。


そして、私が担当に…なった…


実の父親でありながら…


私はこの事実を明かすことで、全ての記憶は消失するだろう…


もう、君を見ても思い出すことはない。

私の世界の君は存在しなくなる。

そして、同時に君の世界の私も存在しなくなるんだ…」


ドグ:「警部の世界の私?」


警部:「それ以上は知らない方が、いい…


そして、すまなかった…


彼女を、救うことは出来なかった…


もうすぐ、彼女は焼滅する…」


ドグ:「彼女?」


警部:「そう、君の奥さんだ…」


ドグ:「彼女が!

私の世界から彼女がいなくなるということですか?」


警部:「いや…もっと大きなペナルティとなってしまっている…

彼女もまた、能力者だった。

君を守る為に、君以上に行き過ぎてしまったのだ。」


ドグ:「なんですって!

彼女は、何も関係ないでしょう!

この一連の事件に、彼女は一切関わっていませんよ!


私の仕事で起こったことです!」


警部:「いいや…もっと事態は大きな様相を呈しているのだ。

君は知らない方が、よかったのだ。

知らないまま生きるべきだった…」


ドグ:「警部!

この企業の、代表者に会わせてください!

直接話をして聞きたいのです!

真相を突き止めたいのです!

お願いします!」


警部:「もう会っている…」


ドグ:「えっ?

ま…まさか?」


警部:「私がその代表者だ。」


ドグ:「そ、そんな?

何がどうなっているんですか!


あなたが!

一連の事件の犯人だったんですか!」


警部:「一連の事件の犯人ではないよ。

私は君を監視する役割だ。

ただし、一つだけ偽ったことがある…」


ドグ:「もしや?あのビデオでしょうか?

あれだけが妙に不自然に感じたんだ!」


警部:「正解だ。

あれは、全て私が君をこれ以上この件に深入りさせない為に講じたものだ。」


ドグ:「やっぱり!

私の感は当たっていた!

でも、あなたが犯人ではないとすると誰なんですか!」


警部:「そこには触れてはならない。

そして、その領域に触れてしまったのが彼女だった。


彼女に先ほど会ってきた…


もう、彼女は、覚悟が出来ていたよ…


そして、君に渡してほしいとこの手紙を預かった。


ただ、読んだところで、彼女が焼滅したあと、彼女の存在を示すものは全て存在しなくなるんだ。


誰の記憶からも消えしまう。

最初から存在しなかったことになる…」


ドグ:「警部…

先ほどから、存在がなくなるとは一体…」


警部:「もう時間だ。

読まないのであれば、それでもいい。

どうせ全て記憶から消え去るのだ。」


ドグ:「いや…読みます…」


その内容をドグさんは、覚えていたんだ。

そして、唯一。

この世界で唯一、この世界に存在していた彼女を覚えていたんだ。


それは、彼女がこの世界に抗った唯一の証でもあり、ドグさんを長い旅に向かわせる事になった原因でもあるんだ。


そして、この世界のほころびになった。


『最愛のあなたへ。

この手紙を読んでくれることを私は信じています。


今から、私が知りえたことを記そうとしましたが、もしかすると、内容を確認され、変更されるかも知れないから、この言葉だけ記しておきます。


私たちの、約束を守ってね。


あの場所に。


必ず。


できれば一緒に行きたかった…


愛しています。


ありがとう。』


そのシンプルな内容は、ドグさんの心に強烈な傷をつけたんだ。


その傷は、奴らの想定外だった。


ドグ:「あの場所…

そうか…

何度も何度も君は…行きたがっていた…

必ず行くよ…すまなかった…なかなか約束を果たせなくて…」


警部:「彼女はもうすぐ、消えてしまう。

奴らが向かっているんだ。

今から行っても間に合わない。」


ドグ:「まだ、記憶はしっかりとある!

まだ間に合う!

彼女の所へ行きます!」


警部:「いや、行かせないよ。

お前まで消させやしない。」


ドグ:「何なんだ!

奴らとは、誰なんですか!」


警部:「ダメだ!知れば奴らに消されてしまう!」


ドグ:「奴ら?そんなのどうでもいい!

彼女を消させやしない!


この世界で消えるということは!

誰の記憶からも消えることだとあなたは言った!


私は絶対に忘れはしない!

何があろうと!

彼女を忘れはしない!


あなたのいう奴らが何をしようとも!

私は決して忘れない!


そして…父である…あなたも…」


このお父さんは、また未来で出会うことになるんだ。


でも、お父さんの世界では、もうドグさんは…息子のドグさんではなくなっていた…


警部:「ありがとう…息子よ…

私は幸せだった…

常にお前と一緒にいることができたのだ。

形や立場はどうであれ…

これまでの時間は…私にとって全てが幸せだった。


そして…何とか生き残ってくれ!

もう…これ以上!

大切な家族を消えさせたくはない!


頼むから…最後に言うことを聞いてくれ…


頼む…」


ドグ:「私はあきらめはしない!

どんな相手であろうと、屈しない!」


ダッ…


そして…ドグさんは、彼女に会いに向かった。


家の周りには警官が取り囲んでいた。


ドグ:「な…何だ?

何で家に群がっているんだ?」


警官:「これ以上は、入ってはいけない。

下がってください。」


ドグ:「この家のものだ!

一体何があったというのだ!

入れさせてくれ!」


警官:「駄目です。

離れていてください。

危険です。」


ドグ:「何もないだろう!

中には私の妻がいるんだ!

通してくれ!」


警官:「いけません。

全て封鎖しろとの指令が出ているのです。」


ドグ:「なぜ?

なぜ封鎖する必要があるのだ!」


その時の警官は、目が異常に冷たい目をしていた記憶があるとドグさんは言っていた。


そのあと、強烈なめまいがドグさんを襲ったんだ。

これが、奴らが…

彼女を焼滅させた時の歪みだったんだと言っていた。


警官:「……。ハイ…了解しました。

何も問題無かったようです。

失礼しました。

どうぞ、中に入って下さい。」


ドグ:「あぁ…」


そして…家の中に入ったドグさんは、信じられない光景を目にした。


ドグ:「な?何かおかしい…。

おい!大丈夫か!どこにいるんだ!

何があったんだ!


おかしいぞ?

色んなものが無くなっているじゃないか…

泥棒でも、入られたのか?」


そして…ドグさんは異変に気づいた。


ドグ:「無い…

彼女の物が一切無くなっているじゃないか!

どういうことだ?」


ドグさんは、帰ろうとする警官を呼び止めた。


ドグ:「待ってくれ!

お前たち、一体何をしたんだ!

中にあった物を返してくれ!」


警官:「返してくれ?私達は何も持ち去ってはいません。

中を確認しただけです。」


ドグ:「バカなことを言わないでくれ!

彼女の物が一切無くなっているじゃないか!」


警官:「彼女?ですか。

彼女とは?」


ドグ:「私の妻だ。」


警官:「妻…?」


お隣さん「あら?ドグさん。どうしたの?」


ドグ:「あ?お隣の?

すみません、お騒がせしておりまして。

私の妻がいなくて、しかも、彼女の物が一切無くなっているんです。

何かご覧になられませんでしたか?」


お隣さん:「妻?

ドグさん、いつの間に結婚なさったの?

結婚されていたことがビックリだわ。」


ドグ:「…?な、冗談はよして下さい。

あなたとよく近くの喫茶店に行っていた私の妻ですよ。」


お隣さん:「…?

ドグさんこそ、何を言ってらっしゃるのかしら?

あなたは、この家に住まわれた時から、お一人じゃないの。

急に妻だなんて、どうされたのですか?」


ドグ:「…?な?

私の妻ですよ!

いつも会ってたじゃないですか!」


警官:「ちなみにお名前は?

奥様の名は、何とおっしゃるのですか?」


ドグ:「名前?

…?……えっ?……!

名前?」


お隣さん:「もう。やっぱりウソだったんでしょう?からかわないでね。」


ドグ:「い…いや!

間違いなく私の妻なんだ…

……だ、ダメだ…名前が思い出せない…


あっ?手紙だ!

さっき、警部からもらった彼女の手紙がポケットにある。

これで証明できる!


…?あれ?な…ないぞ…


ない…。


手紙も…


なくなっている…」


警官:「もう引き上げますね。

不審者情報があり、先日脱走した容疑者の疑いがあったものですから、指示のもと駆けつけたんです。

中にはその痕跡は一切ありませんでした。

失礼いたしました。

それでは、お気をつけてください。

また、何かあれば110番頂ければと思います。」


お隣さん:「はい。お疲れ様です。

ドグさんも、少しお疲れなんじゃないの?

うちで、ご飯でも一緒にいかがかしら?

主人も私も、二人だといつも寂しい食卓で私も話し相手が欲しかったの。」


ドグ:「いえ…今日は、やめておきます。

まだ、確認することがありますので…」


そして…それから、ドグさんは、役場に行き、自分が独身であることを確認した。


それから…数日の間、ドグさんは、奥さんの痕跡を調べるものの、一切無くなっていることがわかった。


最初から、存在していなかったように…


途方にくれるしかなかったドグさんは、彼女との約束を思い出し、その場所を訪れることにした…


ドグ:「どうして君は、この場所に一緒にきたがったのだろうね…


君は何かを知っていた…

私よりも深くこの世界の秘密を。


君が存在していた証は、全て消えさっていたよ…


警部もいなくなった…


唯一、君の存在を覚えているのは、私だけになってしまった…


周りのものは皆、単なる夢じゃないかという…


約束は守るよ。

必ず見つけてやる。

そして、二人でこの場所に来よう。

それまで、私はあきらめない。


君を消した奴らを探し出し、そして…

必ず君を取り戻す。


必ず…」


「あの…ドグさんですか?」


ドグさんに声を掛けてきたのは、とても小さな女の子だった。


ドグ:「あ…あぁ。そうだが、君は?」


女の子:「二人でこれなかったのね。

彼女は?」


ドグ:「彼女?!

き、君は彼女を知っているのか!

もう…誰も彼女を知るものがいなかったんだ!


き…君は、知っているんだね!」


女の子:「そう…もういないのね。

もう…ひとつになれなくなったのね…」


ドグ:「な?どういうことだ?

どういう意味なんだ?」


女の子:「私はもう、存在する意味がなくなったのよ。

でも、あなたにはまだ希望があるわ。

あなたにあげる…

何かの役に立てるかもしれないから…」


ドグ:「何を言ってい…


き…


消えた!」


それから、ドグさんの旅は始まった。

とてつもなく長い捜索の旅が…

そして、ドグさんの存在自体がこの世界のほころびになった。


奴らも触れる事が出来ないほころびに。


episode dogu end


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