第12話 〝旧社会の成功者″

ガル:「ドグ警部。

ここに、例のベーアさんがいるんですか?すっごい豪華ですね。

やはり、元金持ちは違いますね。」


ドグ:「確かに…。

しかし、彼は最近、家にこもりがちのようだ。

例の掃除婦の情報によるとね。」


ガル:「こもりがちですか…何かありそうですね。

まぁ、会ってみましょうか。」


ピンポーン♪


『はい…どなたでしょうか…』


ガル:「ベーアさんでしょうか?

私たちは、昨日、スークさんの遺体搬送に駆けつけたものです。

スークさんの件で、少しお話をお聞きしたくて参りました。」


『遺体搬送?警官…ですか?

なんの真似ですか?

旧社会のようなことをいまだにされてるなんて…

何のようでしょうか?』


ガル:「いや…そう言われるとそうなんですが、私たちは、彼が本当に自殺したのかを調べたいんです。」


『〝彼女″の判定が出ているんじゃないんですか?

それ以上何があると言いたいのですか!

あなた方、少しおかしいと思いますが…

〝彼女″の判定に背くような、そんなこと許されるのですか?』


ドグ:「ベーアさん。

唐突ですが、あなたもスークさんのようになりますよ。

私はそれを阻止したいだけです。

あれは、決して自殺ではない。」


『えっ?…私も?』


ガル:「まぁ、そうなんです。

ドグ警部は、すごい感の持ち主でして…」


『は?…』


ドグ:「いや…感だけではない。

実際に現場で見た際に、私はハッキリと確認したことがある。

血が心臓に集まっていると思われる症状を確認したんだ。

人が恐怖を感じた時の症状だ。

実際、自殺をするものがこの症状を引き起こした事例は見たことがないんだ。

間違いなく、自殺ではない。

何か、最近異変がなかったか聞かせてくれませんか?ベーアさん。

あなたも、何かで苦しんでいるはずだ。

これは、わたしの感だがね。」


『…。


わ…わかりました。

いま、開けます…」


ガチャ


ベーア:「ど…どうぞ…

中に入ってください。」


ドグ:「ありがとう。

ガルくん行くぞ。」


ガル:「は…はい…

さすが警部ですね。」


ベーア:「ど…どうぞ…」


ドグ:「突然申し訳ない。

あなたのことが心配でね。

恐らく、彼が亡くなったことにあなたも関連することがあるんじゃないかと思うんです。

よろしければ、お聞かせ願えませんか。」


ガル:「いや〜しかし、中も凄いですね!

うわっ!

すごいネズミがワンサカいますけど…

ネズミ集めが趣味なんですか?」


ベーア:「…あ、あぁ…

ど…どうぞ、お掛けになって下さい。

冷たい飲み物でよろしいですか?」


ドグ:「どうぞ気になさらずに。

早速ですが、我々を受け入れたということは、あなたも今回の件は何かおかしいと感じているということでしょう。

違いますか?」


ベーア:「…えぇ…確かに…

しかし、〝彼女″の判定は今や判定ミスは考えにくいですから。

そう考えると、それを受け入れなければいけないのだと思うのですが…


ただ…私も、スークが自殺するとは思えないのが正直なところです。

あんな超前向きな奴が、自ら命を絶つことは考えられないんです…」


ガル:「でも…ですね。

私は個人的に聞いてみたかったんですが、あなたたちのような旧社会の成功者の方が、今の社会になったことによる一番の被害者なのではないかと私は思っています。

お金というものがなくなったことで、あなたたちの権力は、全く無に等しい状態になったと思うんですが、それをどの様に感じておられるのでしょうか?


今まで築いてこられたチカラや、人への優越感も一気になくなった。

だから、自殺する人に元成功者の方に多いのがそうなんじゃないかって思うんです。


お金があるからこそ、お金というチカラで、いろんなことをあなたたちは有利に生きてこれた。


そのチカラが剥奪された時、そのチカラをあてにし、委ねてきていればいるほど、今の社会では苦痛で仕方ないはずだとそう思うんですよ。


いかがでしょうか?」


ベーア「…なかなか痛いところをつきますね。

確かに、いろんな意味で有利に生きてこれたと思います。


しかし、我々は、全て順調に挫折もせずにここまで来れたのではないんです。


少なからずとも、この結果に見合う経験、問題に対して乗り越えてきたからの結果であると信じています。


だから、このような新社会に急激に変化しても、お金がなくなったとしても、脱落感は一切なかったんです。


むしろ、仕事という縛りから開放されたのであれば、お金という物差しだけの価値観を求めることから、本当の価値をもとめること、自分がやりたかったことに集中できるって、二人で新たな夢を語っていたくらいなんです。


あなたが仰られるような、気力が損なうような、自殺を考えるようなことはない。


私も、スークもね。」


ガル:「なるほど、さすがに成功してこられた方は、違いますね。

でも、自殺ではないとしたら何なんでしょうね…」


ドグ:「ベーアさん。

何か気になっていることや、心あたりはありませんか?」


ベーア:「…どうしてこうなったのかいまだに理解できない。

ただ…最近、私も見るようになったことで、同じことになるのではという不安が生じているんです…」


ガル:「見るようになった?

何をですか?」


ベーア:「…

聞いたところで、信じてもらえないと思います。」


ドグ:「どんなことでも構わない。

教えて頂けませんか?」


ベーア:「最近…私も…


私を見るようになったんです…」


ガル:「えっ?」


ドグ:「それは、どういうことですか?

詳しく教えて頂けませんか?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る