第9話 〝旧社会の闇″
ガル:「ドグ警部!
あなたの過去に!
何があったんですか!」
ドグ:「もういいじゃないか。
言ったはずだ。
知ることは、危険を伴うことになる。
この世界では、知らない方がいいこともあるんだ。」
ガル:「し、しかし…
私は、あなたが心配なんです。
とても独特の雰囲気を感じていましたが、それは、とてつもなく大きな〝何か″があなたの中にあるような気がしてならないんです!
親父に似た〝何か″が!」
ドグ:「いや、ダメだ。
もう私は誰も巻き込まないことに決めたんだ。
もう…誰も…
この話は、やめにしないか?
私も、今、非常に君とのこのやり取りに対して、相当神経をつかっている…
意識的に意識をある対象に向けてしまわないように相当精神力を消耗しながら会話をしているんだ…
これ以上は、まずい…
もう…繰り返したくないんだ…」
ガル:「ドグ警部、少し、話の意味がよくわからなくなってきました…
それに…
すごい汗…
顔が真っ青になっています…
大丈夫ですか…?」
ドグ:「あぁ…
また…話せる時が来た時に話させてくれないか?
たのむ…」
ガル:「す…すみません…
踏み入ったことを聞いてしまいました…」
ドグ:「いや…いいんだ…
ふぅ…
もう大丈夫だ…
それよりも、捜査に戻ろうではないか。
今は、これが重要なことなんだ。
この世界を知るためにね。」
ガル:「この世界を?
知るためですか…
(やはり、ドグ警部の過去には何かあるんだ。
親父の死の真相の参考になるかもしれない…)」
ドグ:「そうだ…
とにかく、この人物について情報をもっと集める必要があるな…
お金が必要なくなった今の社会であれば、もう少し深く追求できるかもしれない。
旧社会の〝闇″は全て解体されているはずだからね。」
ガル:「旧社会の〝闇″?」
ドグ:「あぁ…
当時は、あまりにもチカラがあり過ぎて、追求させてもらえなかったんだ…」
ガル:「旧社会の〝闇″とは何なんですか?」
ドグ:「地球の王様…
全ての権力を持ったモンスター…
神の化身…
天使…
悪魔…
強者…
弱者…
そしてこの世界を楽しみ悲しむ無邪気な子供…」
ガル:「言われていることが…よくわからないんですが…」
ドグ:「いや…実のところ…
私にも何なのかよくわからないんだ…
先ほど並べた全てが行き当たった答えなんだ。
そして、毎回嘲笑うかのように、姿、答えが変わるんだ。
遊ばれているようにしか思えない。」
ガル:「ドグ警部。
あなたは、何を求めているのですか?」
ドグ:「もしかしたら、私が求めているものは、存在しないものなのかも知れない…」
ガル:「存在しないもの?
あなたと会話すればするほど、よく分からなくなってきましたよ…」
ドグ:「私もだ…
時たま、訳がわからなくなるんだ…
その空虚感を埋めるために、ただ捜査を名目に生きているだけのような気もする…」
ガル:「やはり、あなた方の世代にとって、新社会はあまりにも急激に変化しすぎたんですよ!
(やっぱり、危険な兆候だ…親父と同じノイローゼなんだ。)」
ドグ:「いや、ノイローゼではないんだ…
危険な兆候ではあるがね。」
ガル:「えっ?
私は何もそんなこと…言ってないですよ?!」
ドグ:「言ってはいないが、思っただろう?」
ガル:「い、いや…そ、そう思いまし…たが…
な、何ですか今のは?」
ドグ:「私の天性の〝感″だよ。」
ガル:「〝感″ですか!
ただの〝感″なんですか?
それは!もしかしたら、私が思っていた以上にすごい能力なんじゃないでしょうか?!」
ドグ:「あぁ…
だからこそ、この事件も私の〝感″が、自殺ではないと言っているんだよ。」
ガル:「そうですか…
分かりました!
まず、目の前の問題に取り掛かりましょう!
あなたの過去やあなた自身のこともかなり気になりますが、私もこの事件の真相を知りたくなってきましたよ。」
ドグ:「ありがとう。
それでは、彼のことを知る人物に会って話を聞くことにしようか。
彼には仕事のパートナーがいたんだ。
影で彼をフォローしてきたビジネスの実質の運営者でね。
表向きは、亡くなった彼が対応していたが、ビジネス全体のマネジメントをしてきたのは、影で支えてきた彼なんだ。
相当、世間との接触は嫌うタイプのようだ。
実は、本日の第一発見者は彼だったらしい。
今日、現場についた時に、清掃婦の方が話しているのを聞いたんだ。」
ガル:「いつの間に、そこまで調べていたんですか。」
ドグ:「いや、前にも言ったが、『その場でしか得られない情報があるんだ。
その場所にいればこそ、得られる情報というものがあるものなんだよ。
気にするか気にしないか、見つけるか見つけないか、気づくか気づかないかは、自分次第だけどね。』
とね、
覚えていないかね?」
ガル:「確かにおっしゃっていましたが…
それは、単なる清掃婦の会話を聞き過ごすか、情報として受け取るかは、自分次第で、貴重な情報にもなるということでしょうか?」
ドグ:「その通りだ。
彼女たちの話では、彼は相当青ざめた表情だったようだし、
彼を疑うのは少し違っているように思えるんだが、彼自身滅多に会社には来ないのに、その日、たまたまあの場所にいたようなんだ。
それが、偶然なのか?
気になるところではある。
そして彼の名は〝ベーア″。
本日亡くなった〝スーク″とは、幼なじみ。
学生時代に、彼らは野球の有名校で全国大会で活躍し、一躍有名になったバッテリーだよ。
どちらも、プロを目指すのかと思われたが、大学へ進学後、二人でベンチャー企業を立ち上げ、起業家として世界のトップクラスの成功者へと登りつめた。」
ガル:「羨ましい経歴の持ち主ですね。
二人とも。
幸せな方たちだと思いますよ。」
ドグ:「幸せか…
この新社会での、彼らの〝今″を見てもかね?」
ガル:「えっ?」
ドグ:「今の社会は、何に向かっていると思う?君は、この新社会を何と言っていたかね?
『今や、人類は、地上の天国、理想卿の時代に入ったばかり。
みんなが、得たいものは得られ、貧富の差、地位の差を産む仕事というものをしなくてもよくなった。
だから、争いもなくなったし、いっきに犯罪もなくなった。
理想としていた社会を実現した。
もう、差別をして、自分を優位な立場にする必要がない。
お互いを本当に認め合うことができる社会になるんだ。』
本当にそうだろうか?」
ガル:「えっ?!
ど、どういうことでしょうか…?」
ドグ:「わたしはね。
今までの旧社会で、
お互いを本当に認め合うことができない者たちが、今の君の言う理想の社会で認め合うことが出来るとは思えないんだよ。」
ガル:「そんな!
なぜそこまで言い切れるんでしょうか?」
ドグ:「なぜ?
それは、旧社会のせいにしているからだよ。
自分たちが原因ではなく、認め合うことが出来ない社会、世界のせいにしているからだ。」
ガル:「そ…それは、どういうことなのでしょうか?」
ドグ:「つまり、結局のところ、認め合うことが出来ないのは、自分以外のせいにしているレベルであって、本当に認め合うことが出来るレベルではないということなんだよ。
この世界で、起こっていること、存在していることには、必ず意味があるんだ。
人種、国、宗教などがなぜ同じではないのか?
なぜ、それぞれに違いがあるのか?
君はなぜだと思う?」
ガル:「なぜ?…でしょう…
わからない…考えたこともないですよ。
ドグ警部はご存知なのですか?」
ドグ:「おそらく…
我々人類の進化の為に、必要な意識レベルの成長の為に、そのような違いがたくさん散りばめられている。
昆虫類もしかり、爬虫類もしかり、植物類もしかり、この世界に存在する全てがだ。
わたしはそう思う。
だから、旧社会で認め合うことが出来ないものが、社会や環境が変わるだけで、認め合えるなんてありえない。
ひとそのものの意識レベルが何も変わっていないからだ。
これは、この世界の確固たる真理なのだ。
認め合える世界を求めるなら、自分がまず全てに対して認めることが出来る自分に変わることだ。
◯◯だから、出来ない。
そんな言い訳を言っている間は、何も変わらないよ。
自分を変えるつもりがないからだ。
自分以外のものに変わって欲しいと願っているものは、自分で成長を止めているだけなんだよ。
それをわからない限り、この世界では求めることを得ることは出来ない。」
ガル:「…
なんか、痛烈に胸に突き刺さりました…
その…自分が軽々しく言ってしまたったことが、とても恥ずかしくなりましたよ。
しかし…
その思想はどこで得られたのですか?」
ドグ:「この世界を…
捜査してきた中で…
得たものだ。」
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