第6話 〝感″

ガル:「こ、ここ…ですか?


け…結構古い家に住んでるんですね。

都会では珍しいですよ。

い…いや…都会だけに限らず、すごいボロボロ…

と…言いますか、い、一軒家とは…驚きました。

よく、もってますね…


け…警部、ちなみに奥様は?」


ドグ:「残念ながら、

いないんだ…」


ガル:「失礼…しました…

独身だったんですか?

結婚してそうな感じしたんですけどね。」


ドグ:「いや…してたよ。

随分昔に〝無く″なったんだ…

本当に…随分と昔に…

急にね…消えてしまったんだ。」


ガル:「…消えて?

(変な表現するなぁ?)

す…すみません…亡くなられたんですね…

余計なこときいちゃいましたね…」


ドグ:「いや、かまわないよ。


あっ、そこは気をつけてくれ、床が腐っているんだ。」


ガル:「えっ?

うわっ本当だ!

こえー…おっとっと。


しかしまぁ…

すごいなぁ、逆に貴重だと思いますよ。

もうどこにもないんじゃないですかね?こんな家。」


ドグ:「褒められているのかな?

けなされているような気もするがね。」


ガル:「いやいや、もちろんほめてますよ!

あっ?この方が奥さんですか?

すごい綺麗じゃないですか!

でも、かなりお若い写真ですね。


ん?


あれっ!


これ、よく見たら絵じゃないですか!

凄い!写真のようですよ!」


ドグ:「あぁ…写真が何故なのか残っていなくてね。

私が記憶からひねり出して、なんとか描きあげたんだよ。

彼女が〝無く″なったあと、随分とあとになって、気がついた時には写真がなかったんだ…

それから、私はこの世界のことについて、探求することになってしまったんだ。


この世界の捜査をね。


君のいうとおり、職業病だよ。

今もまだ、探しているんだ。


この世界とは、何なのかをね。」


ガル:「哲学ですか?

好きそうな感じしますね。

似合ってますよ。」


ドグ:「哲学か…

まぁ、そうしておこうか。


おっ!あったぞ!

当時の手帳だ。」


ガル:「すっごいボロボロですね。

い…いや、アンティーク的で、かっこいいですね。」


ドグ:「いいよ、無理しなくても。

君は、嘘をつけないタイプだってことは理解しているからね。」


ガル:「そう…ですか…。

すみません…」


ドグ:「謝ることではないよ。

さぁ、当時の情報が今回、どれだけ役に立つかな。」


ガル:「しかし、警部…

見かけによらず…

字がちっちゃくて、綺麗な字を書くんですね!

もっと、なぐり書きをイメージしてましたが、これはこれで、ビックリですよ。

まぁ、あれ程の絵を描くんだから納得です。」


ドグ:「君の素直すぎる発言は、時に人を傷つけることがあるんじゃないかな。」


ガル:「す、すみません…傷ついちゃいました?」


ドグ:「いいや。

そう思っただけだよ。


…ん?

やはり…彼だったか。

彼は、ビジネス界のいわゆる成功者だよ。

しかも、とびっきりのトップクラス

だ。

水ビジネスで成功し、巨万の富を急激に築き上げた一人だ。」


ガル:「そんなすごい金持ちだったんですか?」


ドグ:「凄いというレベルは、超えているだろうね。

世界を色んな面でどうにでも出来るくらいの〝力″まで手にしていたと思うよ。


風格は、只者じゃなかったな。

あんな、目をした人物は見たことがない。

それくらいの自信に満たされた人物だったな。


彼が出てきてから、その事件は何故か解決したんだ。


一瞬だったね。」


ガル:「一瞬?」


ドグ:「あぁ。

少なくとも、私はいまだに彼が犯人だと思っている。

当時も、その〝感″を頼りに、彼にまでたどり着いたんだが…

一瞬で結末を迎えたんだ。


彼を疑った質問をした瞬間、眼の奥で何か変わった感じがし、彼が元の状態に戻った瞬間…


犯人が見つかったとの連絡が入ったんだ。


それで、その事件はおしまい。


『一体何をしに来たんですか?』

と言って笑っていたが、眼の奥は重く冷たいものが潜んでいた。


本部からの指示だから、それ以上は何も出来ずに帰った。


その後、犯人は自供し、私の〝感″は外れたことになったんだよ。

彼の無実が証明されたということだ。」


ガル:「凄い…意味深な話のようですが、客観的に聞いてると、ただ〝感″が外れて、的外れな人を犯人だと決めつけてしまっていた、若い頃の単なるポカミス話じゃないんですか?


カッコよく失敗話をしてるだけにも聞こえますね。


あ…失礼な言い方ですみません…」


ドグ:「…なるほど。

そうなんだよ。

見事に、そう仕立て上げられてしまったんだ。


…と、私はそう思い込んでいるだけの昔話だ。

君のいう若い頃の失敗談に過ぎないよ。」


ガル:「でも、そこまで、彼を疑った理由は何なんですか?」


ドグ:「〝感″…」


ガル:「また?…感ですか。」


ドグ:「…だけではないよ。

元々は、私の個人的な調査も兼ねていたんだが、偶然にも何故か彼に行き着いた。

本当は、何の接点もないはずだったんだがね。

ただ…踏み入れてはいけない領域に近づいたことは確かだと感じたんだよ。」


ガル:「踏み入れてはいけない領域?

個人的な調査?

何だか奥深そうな話じゃないですか。

良ければ聞かせて頂けませんか?

その事件とは、何だったのか。

警部…あなたとの接点とは?」


ドグ:「いいや、やめておこう…

知らない方が良いのだ。

知る事は、危険を伴う…


ただ、その当時の事件のことは教えるよ。


今回の件に関わりがあるかもしれないからね。」


ガル:「…?

その…個人的な方に危険が伴うというのですか?

そう言われると知りたくなっちゃいますよ!

人とはそういうもんです!


ドグ警部!」

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