第4話 〝赤い月″

マビ:「赤い月…か、

もう、見慣れたつもりだけど、まだ違和感があるわ。」


パビ:「しかし、月からエネルギーを供給する時代になるなんて想像出来なかったな。


凄いことを考えたもんだよ。」


マビ:「でも、ようやく、エネルギー問題が解決出来たんだもん。

本当に良かったわ。


それこそ、資源の奪い合いで世界戦争になりかけてたくらいだったんだもの。

原子力発電なんて、とっくの昔に全てやめちゃったしね。


あれは、リスクが高すぎたもん。」


パビ:「あの赤い月も、〝彼女″の力あってこそだけどね。

それと、ロボット達の活躍もね。」


マビ:「博士も言ってたわ。

製造者として、ロボット達ほどの適任者はいないってね。

博士も、元々製造メーカーで働いた経験があったらしいんだけど、人ほど、決められたことをきっちりと対応できない、不安定で不確実な作業者はいないって…


どんなに管理面の改善を行っても、人はポカミスをしちゃうんだって。


その時の体調や精神的な要素で、判断力や、作業効率が変化する。


その点、決められたことを正確にという点では、ロボット達は完璧だもの。」


パビ:「しかも〝彼女″の能力で、ロボット達や、機械の管理が格段に進化したという点も大きいね。


凄いの一言だよ。」


マビ:「あの赤い月では、ロボット達が頑張ってくれてるんだものね。


人では、とても厳しい環境だから。


でも、不思議…

あの月から、エネルギーを今も送られているんだろうけど、何にも感じないんだもの。」


パビ:「赤外、赤の波長以上の領域に、いったん変換されているからね。

しかも、地球環境には一切無害、目にも見えないし、人では感じることさえもない波長なんだ。


まぁ、だからこそ、月が赤く見えるようになった原因でもある。


変換する際の波長移行時に、最終的に僕らが見える波長が赤までだからね。」


マビ:「ねぇ。

あなたは、念願だった博士の助教授になれたんだよね。

なぜ?博士は、月を選んだのかな?

前から不思議だったんだ。」


パビ:「いい、質問だね。

僕も、それを知りたくてね。

真っ先に聞いたんだけど、その理由を知った時は正直驚いたよ。


博士は、こう言ったんだ。


『月は…


いつもウサギが餅をついているんだ。


昔から、ずっとね。


それが、一番の理由だよ。』


マビ:「ウサギ?

餅をついている?

???」


パビ:「ハハ…やっぱりそうなるよな。

僕も、同じリアクションしちゃったよ。


しかも、博士もさ、それだけしか言ってくれないんだもん。

なんのことやら、さっぱりでさ。


それから、しばらくわかんないまま、モヤモヤとした日々を過ごしたんだけどね。

たまたま満月の日に、月を眺めていたら、わかったんだよ。


なるほどってね。」


マビ:「なに?なんなの?!」


パビ:「僕らが幼いころ、月の模様がウサギが餅をついているように見えることを、教えてもらったことあると思うんだ。」


マビ:「そうね。

月には、ウサギさんがいるんだって、思っていた頃もあったわね。

そんな、おとぎ話もあったし。」


パビ:「良く考えてごらんよ。

それは、昔から変わらないよね。

僕らの親やじいちゃんばあちゃんが子供の頃から…

いや、もっと昔からずっとさ。」


マビ:「えっ?」


パビ:「変わらないんだよ。

わからない?」


マビ:「ん?」


パビ:「月は、ずっーと昔から。

いつも、ウサギが餅をついたように見えるんだよ。」


マビ:「あー!」


パビ:「わかった?

そう。

月は、この地球に対していつも同じ面を向けている。

それが一番の理由だったんだよ。

これほど、確実な発信拠点はないからね。」


マビ:「へぇ…そうだったんだ。

それにしても、凄いな。

今の新社会の全ての発想は、博士なんだもんね。


でも、いつの間にか、〝彼女″が活躍するようになってから、〝彼女″ばかりがクローズアップされてるんだもん。

私は、ちょっとそれが気にくわないんだけどな。」


パビ:「まあね。

世間では、〝神″とまで言われてるからね。


でもさ、博士にその話をしたことがあったんだけど、全然気にしてないっていうか…逆に怒られちゃったんだ。」


マビ:「えっ?怒られたの?」


…………………


パビ:『ねぇ、博士!

僕は納得いかないですよ!

なんで〝彼女″が神と崇められて、〝彼女″の力のおかげだって世間はもてはやしていますが、この新社会の発想から、具現化する方法を考えて実現したのは、博士じゃないですか!

確かに、〝彼女″の能力、その対応スピードは神業とも言えるものかもしれませんが…僕はやっぱり納得出来ないですよ!』


博士:『そんなムキになることでもないだろう?

そんなことは、どうでもいいじゃないか。

私は、逆に有難いと思ってるんだがね。』


パビ:『いや!違いますよ!

本当に感謝されなきゃいけないのは、博士なんです!

それを世界中の人達は、わかってないんです!


〝彼女″ではなく、博士が神様ですよ!

この世界を救った本当の神様は、博士なんです!』


博士:『やめてくれないか!

神様、神様って。

私のことを〝神様″って呼ばないでくれ…。


二度とそう呼ばないでくれるかね。

そう呼ばれることに〝すごい抵抗″があるんだよ。


あまり、いい気がしないんだ。

昔にいやほど言われたことを思い出してしまう。』


パビ:『昔から…?

ですか?博士。』


博士:『もういい…


それより、私のことを〝神様″と呼ぶのは、一切禁止です!

わかりましたか?』


パビ:『は…はい…』


………………………………


マビ:「昔から?なにそれ?

すごい気になるわね。」


パビ:「まあね。

でもやめとけよ。

深追いしたら、いくらお前でも叱られると思うよ。

相当嫌らしいから、〝神様″って呼ばれるのがさ。」


マビ:「なぜなのか…

追求したくなるわ!」


パビ:「やめとけって…

それよりさ、こんな夜中に突然何しに来たんだよ。

研究所までくるなんて、珍しいじゃないか。」


マビ:「あっ!そうだった!

満月があまりにも綺麗だったから、話がそれたんだ。


ねぇ!知ってる?

今!植物が大変なことになっているの!


すべての植物が…


赤色にしか育たなくなってるの…」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る