第39話 〝女の子″
ガル:「ドグ警部…」
ベーア:「あれからもう5時間…まだ意識を失ったまま…」
ガル:「やっぱり、病院に連れて行った方がいいんじゃないでしょうか!」
ベーア:「あぁ…私もそう思いますが…
あなたも聞いたでしょう…」
ガル:「…はい。
確かに…私もまだ何が何なのか…何が起こったのか、まだ頭の中でパニック状態ですよ…
何だったんでしょう?あれは?」
ベーア:「わけのわからない言葉ですが、私は昔似たような言葉を聞いたことがある…」
ガル:「それもそうですが…
はっきりと聞いたあの女の子の声の方もですよ!
病院はダメ、太陽光を浴びさせるまではそのままにしておけって…
あなたも聞いたんでしょう!
私は、自分の頭がおかしくなったのかと思ったんです…
でも、あなたも聞こえた…」
ベーア:「そうだ。
間違いなく女の子…子供の声だった。」
…5時間前…
ガル:「ドグ警部ー!
しっかり!
目を覚まして下さい!
ドグ警部!」
ベーア:「危険な状態です!
救急車を呼びましょう!」
ガル:「は、はい…
一体どうしたんだっていうんだ…
なぜこんなことに…
えっと…緊急ダイヤル…」
『ちょっと待って』
ガル:「えっ?
ベーアさん何か?」
ベーア:「私ではないよ。
君も聞こえたのか?
今、ちょっと待ってと…」
『病院はダメなの。
奴らに見つかったら大変だわ。』
ガル:「だ?誰だ!
どこにいるんだ!」
『今はそっとしておいて。
私が何とかするから。
朝まで待って、太陽の光を浴びさせて欲しいの。』
ベーア:「ガルさん!ちょっと待って!」
ベーアはガルを制止し、謎の声に呼びかけてみた。
ベーア:「あの…誰かは分かりませんが、あなたはドグさんを知っているかたですか?」
『そうよ。
今は、そっとしておけば私が彼らの意識の流入を阻止しておくから。
とにかく病院はダメ。』
ベーア:「どこにいるんだ?
君は誰なんだ?」
『あぁ…
もう…限界…だわ…
太陽の光を…お願い…やつ…』
ベーア:「お、おい!
待ってくれ、答えてくれないか!
おい!
君は誰なんだ!」
ベーアがガルを見ると、ガルは放心状態で床を見つめたまま動こうとしなかった。
ベーア:「ガルさん。
ガルさん?
ガルさん!」
ベーアは、ガルの両肩をつかみ、ガルを激しく揺らしながら何度も叫んだ。
ベーア:「ガルさん!」
ガル:「す…すみません…
こんな…こんな不思議な経験は初めてで…
もう、わけがわからなくて…」
ベーア:「とにかく、ドグさんを助けたい意思は感じられた。
私もドグさんのこのような事態にどう対処すればいいのか正直わかりません。
あの女の子の声…
彼女の言う通りに、そっとしておきましょう。
そして、朝になれば、太陽の光を浴びさせましょう。」
ガル:「わ…わかりました…」
不思議な声は、それ以降5時間経った今も、二度と現れなかった。
…現在…
ベーア:「あれは、間違いなく聞こえました。
幻聴でも何でもない。
君はおかしくなってなんかいない。」
ガル:「ありがとうございます…
でも…なぜ急にドグさんはあんな事になってしまったんだろう?
たしか…ベーアさんが、闇の世界?を知ってるか質問されてからですよね?
何なんですか…
闇の世界って…」
ベーア:「いや…実のところ、私も知らないんです。
ドグさんなら、知ってるのではとふと思って聞いてみたんです。
私が旧社会の時に、絶対に触れてはならない世界があり、それが闇の世界と呼ばれて旧社会の富豪たちの間で噂になっていたことがあったのを思い出したんです。
それは…噂では、我々人類を、世界を裏側でコントロールしていた強大な力を持った者たちですら、恐れている世界があり、それが闇の世界と呼ばれているとの話でした。
それ以上は…私も知りません。」
ガル:「闇の世界ですか…
あっ!そういえば、ドグさんが倒れた時に発していた意味不明な言葉を、ベーアさんは昔似たような言葉を聞いたことがあるって言われませんでしたか?!
それって?」
ベーア:「気のせいかもしれないんですが…
昔、休暇を利用してスークとアマゾン川で探険しようということで、無謀にも二人で行った事があるんです。
というのも、その頃から爬虫類にはまってしまっていて、どうしてもドラゴンを見てみたいという欲望が出てきたんです。
想像上の生き物なのかもしれないが、色んな文献を見る限り、もしかしたらドラゴンがあの奥地ならいるかもしれないぞなんて、夢のようなことをスークが言い出して、半ば強引に連れて行かれた。」
ガル:「そんなに爬虫類って魅力的なんですか?
ドラゴンって、龍のことですよね?
あれはさすがに鳳凰や、ユニコーンなんかと一緒で、想像上の生き物ですよ。」
ベーア:「まぁ、そうだね。
でも、その頃は、スークも、実は私もいると信じ込んでいたんです。
そして…案の定、命を落としかけました。
想像を絶するサイズのヘビ…アナコンダに遭遇したんです。」
ガル:「えっ?
アナコンダ?
昔の映画で見た事がありますけど、あのアナコンダですか?」
ベーア:「そうです。
12m級の凄い奴が、数えきれないくらい私たちの周りを囲んでいました。
そして…私たちは完全に終わったと思った瞬間…
同じような言葉が聞こえてきました。
『アカナミヤラ幸さはやわに地でヒラに多々ユナチアにユラフや皆ひななチヌや日…』
その言葉がどこからともなく聞こえた時、私たちの恐怖、不安はピークに達しました。
それは、人生の中で、最大の恐怖、不安でした。
その不思議な言葉が聞こえたと同時にアナコンダたちが、一斉に動き出した。
それを見た瞬間、あまりもの恐怖に二人とも気を失い倒れたのです。
そして…気がついた時には…
二人とも無事でした。
なぜか無傷で、本来ならアナコンダに呑み込まれていてもおかしくない状況だったんですが…
その時に聞いた言葉が、先ほどドグさんが発した言葉と非常に似ていたんです。」
ガル:「そうだったんですか…
でもそんな状況で、よく助かりましたね…」
ベーア:「私はあの時、アナコンダたちが動いたのは、私たちを襲おうとしたのではなく、その言葉を聞いて逃げたのではないかと思ってるんです。
でないと、あんな状況で助かるはずがないんです。
あっ!
ガルさん!窓の外を見てください!
薄っすらと明るくなってきていますよ。
もうすぐ夜が明けます。」
ガル:「本当だ!
ドグさんを陽が当たる場所に連れて行きましょう!」
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