【ゲオルク・フォン・フロレスクの日記】


 一八八五年一〇月一〇日


 あれから四日、なんの襲撃もなかった。

 そろそろ諦めたのだろうかと思うが、ヘルシング教授は油断してはならないと言う。たぶんその通りなのだろう。

 ラドゥもリヒャルトもずいぶんと顔色がよくなった。

 ヘルシング教授とアルミニウス教授、それにシャトーペール隊長は今日も奴の本拠地を探しに行ったが、やはりはかばかしい成果はなかったらしく、日暮れ前に疲れた顔で戻ってきた。

 夕方の催眠術をかけるため、リヒャルトが呼ばれたが、そちらもなんの成果もなかったらしい。吸血鬼の犠牲者は、無意識の領域で吸血鬼と意識がつながると教授は言うが、本当なのだろうか。

 収穫祭まで四日。


 一八八五年一〇月一一日


 今日も異常なし。ノスフェラトゥの捜査にも進展なし。

 収穫祭の準備に追われる。

 そろそろ旅芸人が来るころだ。新酒もそろそろ飲み頃だろう。


 一八八五年一〇月一二日


 今日も捜査は進展なし。ヘルシング教授がひどくぐったりしていた。

 アルミニウス教授は不寝番の後、明け方近く客間のソファで眠っておられるのを見かけた。ご高齢の体に堪えるのだろう。

 そういえばアルミニウス教授が眠っているところは見たことがあるが、ヘルシング教授は見たことがない。人前で眠らないだけなのかもしれないが。

 執事のマックスが、明日旅芸人たちが来ると言ってきた。例年通り部屋を準備させておく。

 リヒャルトが久方ぶりに明るい顔をしていた。旅芸人たちの芝居を一番楽しみにしているのは彼だろう。今年はなにを見せてくれるのだろうか。


 一八八五年一〇月一三日


 吸血鬼の捜査進展なし。

 昼過ぎに旅芸人たちが到着した。いつもの派手な馬車に見慣れた顔ぶれ。

 近隣の村人や兵士たちにも新酒を振る舞う。ここ数日緊張していたから、特に羽目を外しているようだった。


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