【ゲオルク・フォン・フロレスクの日記】
一八八五年一〇月五日
近くに駐屯している騎兵連隊のシャトーペール隊長が来訪。盗賊団のニュースを聞いたという。近いうちに討伐する考えだとのこと、私も参加したいと申し出た。
そこへ、ヘルシング教授がいらっしゃった。
「ゲオルク、盗賊団を討伐するなら早い方がいい」
「なぜです?」
「今日は引いたが、奴らは必ず襲いにくる。近いうちに、しかもこの城を。奴らが仲間を増やす前に、できれば今夜のうちに襲撃をかけたほうがいい」
「今夜ですって!?」
シャトーペール隊長が驚きの声をあげたが、教授は平然と話し続けられる。
「第十騎兵連隊はすぐ近くに駐屯しているのでしょう? 三十人の騎馬隊と、村の自警団、フロレスク伯の私兵を合わせれば充分に討伐できる」
「…それは……しかし急では」
「昼間我々が半数近くを撃退した。彼らは戦力を大きく損なっている。そしてまさか今夜来るとは思っていない。彼らは必ず兵力を増やしてここを襲いにくる。その前に」
教授の言葉には妙に確信めいたものがあった。
私と隊長は顔を見合わせてから、互いに教授の言う通りにした方がいいと確認し合った。教授は我々には想像も及ばない何かを掴んでいるのかもしれない。
「わかりました、すぐに準備を」
「それがいい、シャトーペール隊長」
「…私をご存じで?」
「ええ、もちろん。襲撃にはアルミニウス教授を連れていくといい。自分の荷物が奪われたと言ってたいそう怒ってた」
「しかしあの年齢で…」
「彼の銃の腕前を甘くみない方がいい、ゲオルク。私は少し出かける。馬を一頭貸してくれないか」
「それはもちろん…どこへ?」
急なことに思わず訊ねるが、教授は答えなかった。
「なるべく早く戻るつもりだが、明日の朝になるかもしれない。もし深夜までに私が帰らなければ、信頼できるものに君の子息と弟君とに寝ずの番をつけなさい」
「リヒャルトにも?」
「できればご家族全員が一カ所に集まっているのが望ましい」
「…それは、どういう…」
「取り越し苦労で終わるならそれにこしたことはない。しかし後から悔いても遅いのだ、ゲオルク」
「…わかりました」
教授の言葉には、不思議な説得力がある。彼が何を疑い、何を恐れているのかはわからない。盗賊団討伐を前にこれを書いている。
今夜、謎はすべて明らかになるのだろうか。
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