第12話 アレイシア学院 雪模様
珍しく雪が積もったということで、その日の授業はスキーに行くことになった。
学院の先生達に引率されてバスに乗って、生徒のみんなは近所にオープンした山のスキー場へと向かった。
スキー場ではすでに一般の利用客もいて賑わっていた。
バスを降りたカミト達は真っ白な景色を眺め渡す。
「着いたな」
「これがスキー場」
「学院の生徒として来るのは初めてですわね」
「スキースキー」
クレアとリンスレットとエストはそれぞれに喜びを表現している。
人で賑わう雪山の景色を眺めていると、担任のフレイヤ先生が声を掛けてきた。
「カミトはその班の班長な。責任者として4人の面倒をちゃんと見るんだぞ。他人に面倒を掛けんようにな」
「はーい。って4人って誰だ」
カミトは4人の顔を順番に見渡す。
クレアとリンスレットとエストとあと一人は……
探していると、いきなり背後から視界を塞がれた。
柔らかい手袋の感触がして何も見えなくなる。
「だーれだ」
真っ暗な視界の中で聞こえるのはそんないたずらっぽい少女の声。
この少女の声は……忘れるわけもない……聞いたことのある声だ……誰だろう?
カミトは考えた。
クラスの女子であることに間違いはないはずなんだが……
カミトはとりあえず適当に答えることにした。
「えーと、フィアナかな」
「ぶっぶー、外れですー」
「って言うかフィアナって誰よ」
文句を言ったのはクレアの声だ。これははっきりと分かった。
ちなみにフィアナというのは子供の頃に森で出会った少女の名前だ。学院の生徒じゃ無かった。
目を塞いでいた少女は手を離してくれた。視界が開かれ、カミトは振り返った。
そこに立っていたのは黒髪の美少女。彼女は気さくに挨拶をしてきた。
「やあ、久しぶりー」
「って、レスティア! 何でお前がここにいるんだ!」
彼女もまた学院の生徒ではなかった。彼女はずっと以前にカミトと契約していた精霊だった。
ずっと行方をくらましていたのに今になってなぜ目の前に現れたのか。
突然の予期せぬ再会にカミトは混乱するばかりだった。
レスティアは友好的に挨拶した笑みを小悪魔めいた物に変えて訊ねてきた。
「本当に分からない? よ~く考えれば分かるはずよ」
「よ~く考えれば……?」
カミトは考えてみる。
だが、どう考えても思い当たることが無かった。
そもそも彼女が行方をくらました理由すら今のカミトは知らなかった。
そんなカミトの後ろで口を開いたのはクレアとリンスレットだった。
実に呑気で少し棘のある口調で意見を言う。
「馬鹿じゃないの、カミト。スキー場に来る目的なんてスキーをしに来たに決まってるじゃないの」
「考えなくても分かる簡単な答えですわね。まさに愚問というものですわ」
いや、馬鹿で愚かなのはお前らだろうとカミトは思ったのだが。
レスティアは嬉しそうに両手をぽんと打ち鳴らした。
「あの二人の方がよほどお利巧さんのようね」
「まさか本当にそうなのか?」
「他に何があるというの?」
「えーと、それは……」
カミトは考える。スキー場に来た目的とは何か。
レスティアの面白がるような瞳がじっと見つめてくる。カミトは考える。
だが、どれほど考えても、やはりスキーをしに来たとしか考えられなかった。
カミト達自身もそうだったし。
だが、何か他にもあるかもしれない。
考え込むカミトの手を引っ張る手があった。
「早くスキー」
催促してきたのはエストだった。その目は純粋な子供のように煌めいている。
カミトは考えることを止めにした。
「そうだな。よーし、滑るぞー!」
そして、やる気を出してみんなを連れてスキー場へと向かっていった。
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