第9話 カミトがこたつをゲッツした件について
時間は偉大だ。心の傷もだんだんと癒していってくれる。
グレイワースのしでかしたカミトのスカートめくり騒動の噂も収まってきた頃、カミトは普段とは違う冷めた空気を感じるようになってきていた。
それは女子生徒達の視線のせいではない。
初めてこの地を訪れた時から春のように暖かった気温がだんだんと下がってきているのだ。
なんでも原因不明の寒波が原因らしい。
数十年ぶりの寒さが訪れると学院内ではまことしやかに噂されていた。
カミトにとっては自分の悪い噂でなければどうでもいい。噂の内容を塗り替えてくれた数十年ぶりの寒さに感謝だった。
授業が終わり、カミトは廊下を歩いて自分の住居に戻った。
カミトの家は馬小屋の隣にある、馬小屋よりぼろい粗末な建物だ。
貴族の令嬢達の通うこの学院の寮は女子寮なので、男子であるカミトは住まわせてはもらえなかった。
ということで急遽こしらえられたこの建物をあてがわれたのだった。
「それにしても寒くなってきたなあ」
学院内はまだしっかりとした建物で設備も整っていたから気温が維持出来ていたが、とりあえず建っているだけといった風情のこの粗末な小屋はとても寒かった。
「毛布毛布っと」
この寒さでは毛布一枚あるだけでもとてもありがたい。
カミトが毛布を取り出してくるまっていると、粗末なドアをノックする音がした。
「どうぞ、開いてますよ」
「失礼するぞ」
入ってきたのは眼鏡をかけた理知的な雰囲気の女性、担任のフレイヤ先生だった。
まさか彼女が来るとは思っていなかったカミトは慌てて居住まいを正した。
「どうしたんですか? こんな場所に」
「学院長の計らいでな。良い物を持ってきてやったぞ」
「良い物?」
「ああ、これで前の事件のことはちゃらに、ということらしい」
「なるほど」
カミトは納得した。あの魔女が反省などするはずがない。
彼女はただ借りを返して、さらにまた貸しを作りたいだけなのだ。
「まあ、便利に使える物ならそれも悪くないさ」
「入れてくれ」
カミトの了承を得てフレイヤが合図をすると、作業服を着た業者の人達が現れて、何か大きな荷物を運び入れてきた。
それを部屋の中央、カミトの前に置いた。
その物体は四角いテーブルに蒲団を付けた形をしていた。
カミトはそれをここではない他の国で見たことがあった。
「こたつじゃないですか。この地方にもあったんですね」
「寒い冬もこれで安心だろう。私もお前に風邪を引かれては困るからな。では、また明日学校でな」
フレイヤはそう言い残し、立ち去っていった。
カミトはありがたくこたつに入って暖を取った。
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