第8話 カミト、チェンジする 3
校庭に集まった生徒達の間では高名な魔法使いであるグレイワースがどんな魔法を見せてくれるのかと話題になっていた。
事情を知るカミトとクレアはそんな話題に混ざるつもりは全くなかったが。
目標とする彼女の姿を探す。
その姿はすぐに現れた。
「みなさん! よくお集まりいただきました! これからお見せするのはわたくしの究極魔法ですわ!」
「あそこよ!」
「屋上かよ!」
声を辿ってクレアがその姿を見つけた。相手の姿は屋上にあった。
カミトとクレアは校舎の入り口へとダッシュした。そうしている間にもリンスレットの演説は続いていく。
「さあ、とびっきりの魔法に驚き、おののくがいいですわ! あれ?」
そこで演説が止まった。カミトは不思議に思って足を止めた。
「どうしたんだ?」
「魔力があっても魔法を知らないんでしょ。どうせ」
「ああ、そういうことか」
カミトは気が付いた。
入れ替わっても知識は元のままだった。
カミトの知識もカミトのままで、入れ替わった他人のことは何も知らなかった。
リンスレットの契約精霊もやっぱり今はカミトの元にいる。
彼女が戸惑うのも当然だった。
「あいつ馬鹿だから今頃気づいたのね」
「馬鹿で助かった!」
リンスレットが聞いたら怒りそうなことを二人で言いながら階段を駆け上り、カミト達は屋上へと飛び出した。
そこで困惑するグレイワースの姿をしたリンスレットが助けを求めてきた。
「どういうことですの? 魔力があるのに魔法が使えないなんて」
「いいからチェンジすんぞ」
カミトはさっさと目標を達成する。元の体に戻ってもリンスレットはまだ腑に落ちない感じだった。
「魔力も元に戻ってしまいましたわ。いったいどうなってるんですの」
よほど混乱しているらしい。彼女は全く状況を呑み込めていないようだった。
そこにメイドのキャロルが現れて、お嬢様を支えた。
「お嬢様は夢を見ていたのです」
「夢? ……ですって?」
「その夢の中でカミト様はお嬢様にあんなことやこんなことをされておりました」
「あんなことやこんなこと……をーー!」
リンスレットの顔が赤くなる。やっと我に返ったが、今度は別の事で暴走しかけているようだ。
カミトは慌てて否定した。
「してねえよ! とにかく後はあの婆さんさえ見つければ」
その時、その思いが通じたのか、屋上のドアからカミトの姿をしたグレイワースが飛び出してきた。何やら酷く急いでいる様子だった。
「どういうことだ。男なのにちっともハーレムが築けないぞ! 男になればモテモテになるのではなかったのかー!」
「なるわけないだろ! 俺なんだから!」
言ってて悲しくなるが、それが事実で現実だ。
クレアとリンスレットの蔑むような視線が突き刺さってくる。
「カミト、そんなことを考えて……」
「ねえよ!」
「ふん、下僕らしい浅ましい考えですわね」
「だから、あれは俺じゃねえって!」
彼女達はまだグレイワースの寝言をカミトの言葉だと信じているようだ。
もうこれ以上こじれるのも説明するのも面倒だ。
「いいからチェンジすんぞ」
カミトはグレイワースを前にして言葉を述べる。
再び精神を引っ張る感覚がして、カミトはやっと自分の体に戻ってこれた。
「やっとここへ戻ってきたぜ。もう二度と離さないからな俺の体。エスト、いるか?」
「カミト……」
呼ぶとエストが現れた。彼女は何かを警戒している様子だった。
「どうした? 何があった?」
「来る」
「何が来るんだ?」
「カゼハヤ・カミトーーーー!!」
その時、怒声とともに屋上に現れたのはエリスの騎士団と女子生徒達だった。みんなが敵意のこもった視線をカミトにぶつけてくる。
カミトはその迫力に思わず息を呑んで後ずさった。
先頭に立ったエリスが剣を抜いて突きつけてくる。
カミトは視線を横へずらし、事情を知るだろうグレイワースへと訊ねた。
「婆さん、あんた一体何をやったんだ」
「普通の男の子なら誰でもやる他愛のない遊びさ。ただのスカートめくりだよ」
「普通の男の子はそんなことしませーん!」
「カミト、あんたそんなことをやって!」
クレアは顔を真っ赤にさせて自分のスカートを抑えた。
「だから俺じゃねえって!」
「見損ないましたわ!」
リンスレットは涙目になって睨んできた。カミトはもういい加減に切れそうになってきた。
「だああ! 何度言えばお前達は理解するんだ!」
「そこへ直れ! 打ち首にしてくれる!」
エリスや女子生徒達が殺気をまとって近づいてくる。
「だから、俺は悪くねえって言ってんだろおおおお!!」
大勢の生徒達に囲まれて、屋上にカミトの声が木霊した。
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