第31話 二十年前の戦争

 ゼルダの南東部、グレートルイスの北東部に、オルガンという地方がある。

 気候は比較的暖かく、雪も少なく、美しい湖、連なる山々は麗しく、何百年も前からゼルダ、グレートルイス間でオルガンをめぐる戦いが繰り返された。


 近代に入ってからは、オルガン北部はゼルダ領、南部はグレートルイス領として落ち着いた。

  ゼルダの宝石箱と称され、冬の別荘地、観光地として大いに賑わっていた。


 が、それは二百年前までの話だ。


 ゼルダの厄災、国民全体がウイルス感染したとき、ほぼ飛び地状態だったオルガン北部にいたゼルダ住民は、首都セパまで移動させられた。

 混乱激しいゼルダの状況に乗っかり、これ幸いとオルガン北部を占領したのが、その時のグレートルイスである。


 もちろん、ゼルダが黙っているはずもなく、ある程度落ち着きを取り戻した際には、オルガン北部返還を要求した。


 交渉の結果は、オルガン北部は百年後に返還するという、ゼルダ人にとって納得のいかないものであったが、彼らはそれをのんだ。


 しかし約束の百年後、グレートルイス側が返還を渋り、勃発したのが約二十年前の戦争である。


 その戦場は、ゼルダでもなく、グレートルイスでもなく、何ら関係のないキエスタ北東部が舞台となった。

 とどのつまり、オルガン北部は名目で、両国の狙いはキエスタだったのだ。

 キエスタの豊富な地下資源はほぼ手つかずの状態にあった。

 その当時のキエスタは、遊牧民のいくつかの部族が暮らす平和な草原地帯の北部と、好戦的な砂漠の民がぶつかりあう南部に分かれていた。


 砂漠の民に武器を与えたのは、グレートルイスの武器商人だとされている。

  砂漠の民は、草の大地を求め、北部に武器を携えて侵入した。

 土地を追われた北部の民族は、ゼルダ国境まで追いやられた。


 その時の遊牧民族の長に助命嘆願を受けて、ゼルダが北部側の援助にまわったとされているが、真実の程は定かではない。

 北部と南部に分かれて戦った争いは泥沼化し、終わりがないかのように思われた。

 その時、転機となったのが、時のグレートルイス大統領の暗殺である。

 直後に、グレートルイスのもと王族直系の子孫ヘアトン氏が、ゼルダに亡命した。

 大統領暗殺の首謀者は彼ではなかったのかと、世界中が彼を疑惑視した。


 そののち、グレートルイスの大統領代行についた者が戦争批判派の党に所属していたこと、加えて、ゼルダの首都セパを中心に大規模な地震災害が発生し、国外に手をかけている余裕をゼルダが失ったことにより、三年に渡るキエスタ紛争は終結した。


 火種となったオルガン北部は、交渉の末、更に東部と西部に分割し、西部だけがゼルダに返還されるという結果となった。


 結局、グレートルイス大統領暗殺の謎は解明されることがなく、今日まで至っている。


 世界中が注目した、亡命者ヘアトン氏は、ゼルダの地で自らの命を絶った。彼は亡くなる寸前、自分はゼルダの権力者と密約を交わしたと告白した。グレートルイス大統領の暗殺と引き換えに、オルガン北部の一部を王族に受け渡し、独立国家を立てることを認めると。

 悪名高い、オルガン密約説である。


 しかしその後、密約書は発見されず、ゼルダ側が否定したこともあり、真偽は分からずじまいだった。

 暗殺された大統領と敵対していたグレートルイスの新勢力派が、糸を引いていたのではないかという者もある。


 すべてが明らかになる事なく、うやむやで終結した二十年前のキエスタ紛争だが、キエスタ本土北東部に残した爪痕は激しかった。


 土地は荒れ果て、今も遊牧民は故郷に帰ることはなく、難民の受け入れでグレートルイスを悩ませ、南部の民族と小競り合いは絶えない。


 キエスタの議長、オネーギンは後に言う。


 この時の紛争により、キエスタは百年、歩みが遅れることになったのだと。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る