第7話

 翌日、俺とルーは連れだって、街を出て東の更に奥、山脈の中ほどにある廃墟へと来ていた。


 昨日の時点でエルフランの思惑は判明しなかったものの、あの女がつかんでいた武器密輸ルートのうち一本がダミーである事が発覚。他の二本のルートは明日まで動きがない事もわかっていたので、今日は新装備の訓練へとあてられることになったのだ。


 ちなみに、あのあとルーに今回の事を正直に話したところ、かなり呆れられたうえ、こんな馬鹿な話だから無理に付き合う必要はない、と改めて言ったらキレられた。


 とまぁ、そんな俺たちが訓練のため足を運んだ先は、とある夜盗の本拠地である。


「今日は世話になるよ、ミゼットさん」

「呼び捨てで構わねぇさ旦那」


 誰に見られても困る装備だったが、とりあえずこの夜盗団なら問題あるまい。

 夜盗は二か所の廃墟を拠点としていて、そのうち片方の、一階まるまる広場となっている建物を借りることとなった。


「エルフランの新装備ねぇ、旦那も大きな仕事ばかり見つけてくる」


 ミゼットは物珍しそうに、ルーが着込んだ外套を見ていた。

 今回、この装備はエルフランが開発したものということになっている。


 もしタウン側のものとなると、手下の誰かが点数稼ぎに告げ口をしかねない。だが、エルフランの秘密裏に作られた装備となれば話は別だ。


 こうなると、エルフランに告げ口しようものなら、何故それを知っているのか、と彼ら自身が酷い目にあうこととなる。まぁ、そう思わせる事でエルフラン側への密告を防ぐというわけだ。


 こいつらならタウン側との繋がりはあり得ないし、夜盗をやっている以上、貧困街の治安を預かるエルフランと仲が良いとも思えない。


「あまり知らない方が身のためだぞミゼット」

「だよなぁ。これってエルフランの一般兵も装備するのか?」


「ノーコメントだ」

「だよなぁ。まぁ使用料と口止め料は貰ってるんだ。好きに使ってくれ」

「そうさせてもらう」


「じゃ、何かあったら隣の建物に居るから呼んでくれよ旦那」

「聞き耳はたてるなよ? 覗きもなしだ」


「だー、もう相変わらずだなぁ旦那は」

 ミゼットは両手を挙げ、降参とでも言いたげなポーズのまま出て行った。


「さて、邪魔者は居なくなったな」

「未練たらたらって感じでしたけどね」


「そりゃ、新装備ってのは何であれ興味をひくものさ」

「師匠も嬉しそうでしたもんね」


「で、操作方法は既に教えたな」

「やだな覚えてますよ」

 ルーは言いつつ、荷物から複合ゴーグルを取り出した。


 透明化すると視界も遮られてしまうのだが、ゴーグルとこの外套が連携する事で外部の視覚が得られるようになっている。更に、この装備は自動的に周囲を検出する機能を持つのだが、それには大きくわけて二つのモードがあった。


 一つ目は停止状態で使うモード。こちらは使用者が停止している限り、よほど近距離の相手でなければ発見が困難なほどの溶け込みを見せるモードだ。


 もう一つが移動時用。使用者の状態を観測し、移動先の方向、更にその周囲を読み取り、移動速度にあわせてカモフラージュが行われるというものだ。


「まずは停止用を使ってみろ」

 俺はルーに言い、手荷物から鏡を取りだした。


 あいにく、姿見などという大きな鏡はない。そんなものを持っているのは貧困街で数人しかいないので、借りてくるわけにもいかなかった。なので持ってきた鏡は、手のひら二つ分ほどの大きさ。それをルーへと向け、俺は頷いてみせた。


「ではいきます」

 目の前でルーの姿が軽く歪み、ゆっくりと消えて行く。


「おおおお」


「気持ちはわかるがあまり大声を出すな。今確認した通り、初回起動時に数秒のタイムラグがあるから気をつけること。その状態だと、よほどの事がない限り見つかることはないだろう。鏡を見て、自分の居場所がわかるか?」


「わかりませんねこれ。すーっと消えていくのは見てて面白かったです」

「そんな感想は良いから。ではその状態でモードを変えずに動いてみろ」


「はーい」

 すると、ルーが居たあたりの風景がぐにゃりと曲がり、ルーが歩いているだろう方向に向かって歪みが動き始めた。俺はそれに合わせて鏡を動かす。


「で、停止用はこのように、移動したらすぐばれる」

「はー、これは一発でばれますね。でもこのぐにゃりとした景色は面白いです」


 停止した歪みはものの数秒で溶け込むように消えて行ったが、すぐにその地点の両脇が歪みつつ激しく動く。


「手を振って遊ぶな」

「あれ、よくわかりましたね師匠。もしかして自分もやったんですか?」


「まぁ、気持ちはわかる」

「ふふふ、それはとても見たかったですね」


「あの女にも笑われたよ」

「そーですか。じゃぁ次行きましょう」


「ん、まぁそうだな。次は移動時用だ。変えてみろ」

「はい」

 揺れていた歪みが止まり、また溶け込む。


「で、さっきと同じように動いてみろ」

 すると、何もなかった風景がほんの少し、陽炎のように揺れた。


「ん、鏡は見れたか?」

「見れました。なるほど、確かにこっちだと、移動しても近くにいなきゃばれなさそうですね」


「ただし、そのちょっとした陽炎のような揺らぎは追おうと思えば追える。まぁこんな装備があると思って警戒される事はないと思うが、なるべく人の居る前では動かないこと。遠距離や夜なら、多分ばれない。あと、そのモードだと停止してから風景に溶け込むまで若干のタイムラグがある。鏡の前で腕を振ってみろ」


 言うと、予想よりも近い場所に陽炎が発生した。


「近いな」

「やだな、師匠がどのくらい近づけば気付くのかーなんてやってませんよ」


「いや、それは良い訓練になるから後でやる。で、腕を止めてみろ」

 すると、陽炎が尾をひくように揺らぎ、数秒たってから消えて行った。


「まぁこんな感じだな。移動と停止のメリハリでモードを素早く切り換えること」

「なるほど」


「あと使用には制限時間があって、停止用なら四時間。移動用だと二時間で機能停止する」

「え、それって練習してる場合じゃないんじゃ」


「半日動かさなければ勝手に戻るらしい。あとその装備、音は消せないからな。なるべく音をたてずに動き回る訓練も合わせて行う。機能を一旦停止させてこっちへ来い」


 俺は部屋の隅へと移動。次いで姿を現したルーが隣へと並んだ。


「最初は見ていろ。ここから反対側の壁までの反復移動を行う。動作はこうだ」

 俺は壁から壁までをゆっくりと、説明しつつ三種類の動作で移動して見せる。


「最初はすり足での移動。すり足は上体や腰の位置をなるべく上下、左右に揺れないようにやること。次は腰を沈めての移動だ。これは外套自体がカバーする範囲を増やすことで、無駄なバッテリーを食わず、また描写範囲を狭くして精度を上げる。外套の動きは最小限に、負担をかけないのが基本だな。最後に普通に歩いて壁まで行く。これは基本的に人が傍に居ない時に行うこと。それでも把握していない位置の敵や、遠方の敵に悟られないよう、最小限の動きにする必要がある」


 壁に辿り着いてからルーを見て確認。仕事の目になっているからとりあえず安心だ。


「自動的に周囲を検出して補正するのがこの外套の良いところであり、悪いところでもある。無駄に外套が動けば、それだけ描写はいったりきたりしすぎる。するとバッテリーを食うだけじゃなく、透明化するまでのタイムラグも大きくなるってわけだ」


「師匠、それもシェリーさんに教わったんですか?」


「いや、これは俺が考えた。あの女実戦経験はないみたいだしな。三日前に基本的な特性を聞いてから、どう動くべきかを俺なりに考えた訓練方法だ。まぁそんなことはどうでもいい。こっちまで今の移動方法で来てみろ。機能は停止したままでな」


「はぁ、わかりました」

 ルーが見様見真似でこちらへと進んで来た。


「ダメだな。上下に揺れ過ぎだ。今度は向こうに戻るぞ」

 ルーは再び同じ動作で、今来た道を戻り始める。


「背筋をまっすぐに、膝をもっと使え。そうじゃない。それじゃ外套が動き過ぎだ。膝の可動をなめらかにするイメージだ。膝で上下してどうする」


 ダメ出しをしながら元居た壁に到着。


「ま、こんな感じでまず一時間やるぞ」

「ひぃ」


 その後、移動訓練に一時間、反復練習を自分でチェックして行うのに一時間使った。


 こういう訓練は見て指示出来る範囲をチェックしたあと、自分で感覚をつかませる。

 最終段階でそれでも目立つ部分をチェックし修正、もしくはその癖を踏まえた動きに調整する。


 個人差や癖というものは矯正しようとしても不可能なので、模範の動きをトレースさせたあとはひたすら自分で感覚をつかんでそこを洗い出すのだ。まぁどう考えても時間は足りないが、そこはこれまでの訓練が下地として活きている。


 それから段差やらのパターンを変えた状況における応用訓練を終わらせ、機能を用いての複合動作を俺がチェック。一通りのメニューを終わらせた頃には日が傾きかけていた。





「景気はどうだい」

 そう言いつつ俺は夜盗団のたむろしている建物へと入って行った。


「あれ、仕様チェックはもう済んだんで?」

 ミゼットが椅子に座ったままこちらへと振り返った。


 ざっと見た感じ、一階にはミゼットしかいない。


 向こうの廃墟と違い、こちらは入ってすぐの広間が一つと、その周囲にいくつかの小部屋があるようだ。奥へと続く、扉があったであろう四角い横穴が三つほど見て取れた。

 現在広間には机が一つと椅子が二つ。俺が近づくと、ミゼットはもう片方の椅子をすすめてきた。


 俺は座りながら先ほどの質問にこたえる。


「いや、まだ途中だが。単純な動作チェックなら俺が傍に居る必要もない」

「なるほど。優秀なお弟子さんのようで」


「とりあえずその、ごますりな感じは無駄だし気持ち悪いからやめないか?」

「旦那はつれないなぁ」

「あんたとはビジネスライクでいいさ。禍根もあることだしな」


「……シェットのせがれには思えねぇな旦那。確かに、あんたに撃たれたゴルドは助からなかった。お察しの通り、団員内であんたをやっちまおうって意見も多い」


「抑えてもらって感謝するよ」


「なに、これも頭の仕事だ。で、あそこまでの意見を無理矢理抑え込むとなると、それなりの労力とリスクを背負うことになるんだが」


「わかったわかった。答えられる範囲で答えてやるよ。俺だってこんなところであんたらに囲まれるのは困る」


「いやー、こちらとしてはエルフラン側に近づくわけにもいきませんで。旦那に聞いておきたいんですよ。最近商人の動きも細くなって、ようやく捕まえた奴はエルフランが人数を集めているっていうじゃないですか。そこにきて旦那が新装備のチェックときた。こりゃ何かあると」


「人数を集めるとなったら、やることは一つしかないだろう?」

「やっぱりですかい。なら、仕方ないですね旦那」


 ミゼットが言うと、ぐらりと視界が揺れた。いや、揺れたのは椅子だ。

 状態を確認するより前に、ミゼットが机をこちら側へとひっくり返す。


 俺は横へと転がり落ちるように回避しつつ、懐からリボルバーを引き抜いた。


「詰みだぜ旦那」


 言ったミゼットはその手にリボルバーを手にしていた。もちろん、その銃口はこちらへと向けられている。俺がその事実を確認すると同時、すぐに冷や水をかけられた。


 見ると、確か副リーダーのレイとかいう大男が、桶を片手に床から這いあがって来ていた。


「よくやるな全く」

「旦那相手だからな」


 状況はこうだ。

 俺が座っていた椅子の真下、床のプレートの下に穴を掘っておき、レイが水桶を持って潜む。


 そして下からプレートを一気に持ち上げることで、俺ごと椅子を前のめりにし、そこへミゼットが机をぶつけてくるというわけだ。


 咄嗟のことながら当然俺は回避するも、床がそれでは満足には動けない。

 そこをミゼットのリボルバーとレイの水桶で囲むというわけだ。


「何時間そこに居たんだあんた」

 ずぶ濡れ姿でレイへと声をかけるも、相手は鼻を鳴らすだけで相手にしなかった。


「しかし、俺がこっちに来なかったらどうするつもりだったんだ」


「なに、商隊の待ち伏せとかではよくあることだぜ旦那。それに、あんたなら必ず接触してくると踏んでもいたさ。禍根がある相手の懐で、ぬくぬくやってそのまま帰るなんて思えねぇ。待ち伏せを警戒してこちらの様子を確認するってな」


「椅子が二脚しかないのは怪しかったが、まさかその下に潜んでるとは」


「お喋りは終わりにしましょうや。おいレイ、用心して押さえ込めよ? 旦那の体術は油断ならねぇ。旦那はその前に武器を捨ててもらいましょう」


「わかったわかった」

 俺は素直に、濡れて使いものにならないリボルバーと、腰にあるダガーを床へと置いた。


「では後ろを向いて座ってくれ。ケツを床につけな。あと足裏を床につけないように」

「徹底してるな」


「何度も言わせるなよ旦那。あんた相手じゃ用心してもしたりないぜ」

「高評価してもらって悪いが、流石に俺一人じゃこの状況をどうこうはできないさ」


「なら無駄な抵抗はやめてさっさとやってくれ」

「仰せのままに。ルー、殺すなよ」

「ああ?」


 怪訝そうな顔をしたミゼットの右腕が跳ね飛ばされた。

 発砲音。


 それを見届ける前に俺も動く。

 起動。


 レイが、動いた俺を見てすぐにこちらへと突進してきた。体格差、体重差を考えれば、俺が武器を手にする前に押さえ込もうという良い判断だといえる。


 だが残念ながら俺にはもう一つ装備があった。


 左脚出力、そのままの勢いをのせ、流れるように右脚を前へと突き出した。単純な前蹴りだったが、機動装備の出力をのせたそれは凶器へと変わる。


 蹴りは突っ込んで来たレイの腹部へと叩き込まれた。


 彼にとっては予想以上の速度だったとしても、俺の蹴り一発くらい耐えきり、そのまま押さえ込める自信があったのだろう。避ける素振りすら見せなかった。


 レイは蛙のような鳴き声を一つし、蹴りを食らったままの姿勢でその場へと蹲った。

 こちらの脚を掴もうと手だけは力なく動いていたが、それもすぐに下がる。


「危なかったですね師匠」

「ミゼットは割とやり手だからな」


 言いながら風景をゆがめて姿を現したのはルーだった。

 ミゼットの後ろに回り、その右腕を完全にきめていた。


 レイは呼吸をするのに手いっぱいといった感じだったので拘束すらしていないが、今のうちに縛っておくべきだろう。一応出力は加減したので死にはしない、はずだ。


「で、他の連中はどうなってた?」

「全員武装していましたが、既に拘束済みです。縄が足りなかったので、こいつらのベルトとか使ってますが、多分大丈夫かと」


「上出来だな。全員ここに連れてこよう」

 俺はレイを縛りつつ言う。


「な、なんなんだそれは」

 ようやくミゼットが事態を呑み込んだのか声をあげた。


「新装備」

「はぁ? そ、そんなのあってたまるか!」


「あってたまるかって言われてもな」

「師匠、あいつら連れてくるよりこの二人を連れて行ったほうが早いかと」


「それは確かに。向こうそんなに多いのか?」

「いえ四人ですが、動けないように柱とかに縛りつけているので、色々面倒です」


「わかった。じゃ、こっちの奴がある程度回復してから行くぞ。流石にこの巨体は自分で歩いてもらわないと困る」

「はーい」




「突然だが君らには、この街カインスタンのために働いてもらう」

 俺がそう切り出すと、夜盗団は口をあけ、何を言っているのか理解していない様子だった。


 場所は先ほどの階から上へとあがり、二階の一室。柱へと仲良く繋がれた四人に、リーダーたちの二人と、外へ出ていた二人を合わせて八人が俺の前に座っていた。


 俺の言葉を呑み込んでから、奥のほうは首を傾げ、手前の方は眉根を寄せている。


「カインスタンってなんすか」

「街っていったら貧困街だよなぁ」


「てめぇら黙れ。カインスタンってのはタウンと貧困街を合わせた、この辺りの人間が住む一帯の事をぜーんぶひっくるめた名前のことだ」


 リーダーであるミゼットが声をあげ、こちらを睨む。


「どういうことだい旦那。タウンでも貧困街でもなく、カインスタンなんて若い奴らが忘れちまった名前を今更引っ張り出して」


「これから説明する。あんたらの取引相手は北東、ヴァルツハイトで間違いないな?」

「その通りでさぁ」


「そのヴァルツハイトの狙いはこの国、都市国家カインスタンだ。さて問題、ここまで気前よくあんたらと取引を行い、あまつさえ出入りする商人の情報を流し、こんなパーカッションリボルバーなんてものまであんたらに売り与えた理由は?」


「……はぁ、規模がでか過ぎていまいちなんすけど、要は自国からの物資流出を俺らに抑えさせ、それすらも俺らから回収することで、相手には何も渡さないってことですかい?」


「そう。貧困街を締め上げる一方で武器だけは安定供給したわけだ。その締め上げの要員が君らなわけだけど、さていざ戦争となったら君らの事をどうするつもりだと思う?」


「おいおい、まじかよ旦那」


「ミゼット、あんたは結構優秀だと俺は思う。だがこのまま行けば、あんたがいくら頑張っても、ヴァルツハイトに呑まれて終わる。あんたらが見た通り、弟子のルーが装備していたアレや、俺の脚についてるこれなんかを当たり前のように装備した連中だ」


「本気かよ。って待てよ旦那。ってことはその装備、エルフランじゃなくて」

「そう、タウンの装備だ」


「はー、まったくあんたって人は。最初からそれが狙いかよ」

「そう言うな。俺としても、襲われなければ取引だけのつもりだったんだ」


 ミゼットがため息をついて下を向いた。

 座った状態で脚を揺すって考えをまとめているようだ。


「がーっどっちにしろ選択肢がねぇじゃねぇか」


「夜盗として取引相手に奴らを選んだ時点で、もう道は決まっていたようなもんだ。だが、あんたらはまだ道が選択できる。どちらに行っても地獄だが、まだこっちの地獄の方が活路があると思う」


「縛りつけて言われてもねぇ旦那」

 ミゼットの気持ちはわからなくもない。つい数日前の俺も同じ心境だったからだ。


「どういうことですか頭」


「いいかレイ。このままエルフランが蜂起すると貧困街は戦場になる。その混乱に乗じて、俺らの取引相手はカインスタン自体に攻め込んでくる。となると、貧困街に逃げ込めない俺らはどうなる?」


「北東に行けば良いんじゃないすか? 地形を知っている分、斥候として売り込めるのでは?」


「無理だな。運が良ければそれもあり得るが、さっきの旦那たちが使った装備が横行する戦場で、俺らみたいな剣と弓で戦う奴らが使われると思うか? 街へは入れてくれないだろうし、捕獲したところで監視の目と食料をさかなければならない捕虜なんてとらんだろ。つまり事が起きたら八方ふさがりだ。それ以外の街へ徒歩で逃れるってのも現実的じゃねぇ。一人二人ならともかくな」


 ミゼットが後ろの部下たちを見やる。その目にもう迷いはなかった。


「良いだろう旦那。あんたがきちんとタウンとの間を取り持ってくれるというのなら、俺らはあんたと共に動こう」


「良い判断だミゼット。これで俺らは運命共同体だ」

 もちろんルーの訓練というのも大きな目的のひとつだったが、もうひとつの目的がこれだった。


 今回の事はいくらなんでも圧倒的に人員が少なすぎる。


 そこで、事が起きたら困る奴らで、それでいて協力してくれそうな条件の奴ら、ということでこの夜盗団に白羽の矢がたったというわけだ。


 複合ゴーグルの索敵能力は素晴らしいが、二人で警戒しても会談場所の付近全てをカバーするのは不可能だ。いくらこの脚に機動力があるとしても、出来ることと出来ないことがある。


 彼らの目と、足止めとしての戦力が必要だった。


「で、とりあえずミゼット。あんたが後ろの奴らを説得してくれると助かる」

 どう見ても敵意のこもった目で見られている。


「かしら、俺は反対ですぜ。ゴルドは、血の泡まで吐いて、苦しんで死んだんだ。それを、なんでこんな奴に協力なんてしなきゃなんねぇんすか」


「旦那。こいつらは俺が説得しときますんで、今日のところはこれで引き上げてもらえませんかね」


「わかった。明後日また来る。あまり時間もないことだし、それまでにしっかり決めておいてくれ。それと、一応言っておくが」


 俺は言葉を切り、出力を最大にして壁を蹴り抜いた。

「次はないぞ」

 蹴られた壁は向こう側へと抜け、先の部屋が覗いて見えるほどの大穴をあけた。


「ルー、ミゼットの縄だけ外せ」

「わかりました」


 こうして俺とルーは廃墟をあとにした。

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