第3話 ブルースカイ
青と白のコントラスト。
白波とカゴメ。
そして地平線にみえる一筋のひかり。
輝く朝日に照らされ、今日も一日、楽しい日がはじまる。
わくわくした子供達。
(疲れたけど、来てよかった。)と、満足そうな大人達が、駐車場のゲートを開くのを待ちわびていた。
「パパ!駐車場!600円・だってさぁ~!」若い母親の甲高い声にも負けずに、子供達は、テンションアゲアゲだった。
「色彩水族館」に来るには、日本海沿いの岩肌トンネルを何本もぬけてくる。
函館からだと、車で5時間だ。
それでも若い家族づれは、ハリキッて、やってくる。
見慣れぬ景色を求めて。
長い冬を乗り越えて、ようやく訪れる春の景色。
海に囲まれた、古い水族館は「連休だ~楽しいな~♪」を促した。
肌寒い小雨が続いた連休初日が過ぎ、いよいよ後半は晴れ!
「よし!いくか!」目的地決定!
楽しみ・倍増~ザ・ゴールデンウィーク水族館!
車内は、食べかけのお菓子と、飲みかけの500ミリのペットボトルが散乱してた。
大判のバスタオルに、紙おむつ。
汗をかいて眠るこども。
ハイテンションの幼稚園児。
緊張した付き合い始めたばかりのカップル。
前日の酔いが、今頃まわってきたツアー客。
いつもの3倍は、売れ筋お菓子を発注した祥子。
なにかを感じ、朝からテンションの高いイルカ達。
空を見上げるペンギンと大田館長。
わくわく・ドキドキ・の瞬間を待ちわびた。
まるでタイムバーゲンの卵に並ぶお客のように、人は混み合うと殺気立つ。
目的をつくり、なぜか?競いたがる。
ジリジリとしたエンジン音、運転する男たちにも緊張が走る。
まるで競馬のように、ゲートに並ぶ。
三強警備の花田慎一は、鼻くそをほじりながら細い目で見つめた。
肩にかけられた斜め掛けのバックには、小銭と領収書が入ってた。
飛べば鳴る。
走れば鳴る。
小銭の入ったバックだ。
ペタペタと、額に手をかけると、べっとりとした汗が湧く。
この道、10年のベテラン警備員。
駐車場係員歴も長い。
花田は56歳。独身。
今年、入社したばかりの、栗色ロングが可愛い売り場のアイドル穂華ちゃんの大ファンだ。
だが、「あなたのファンです」とは、けして言わない。
誰にも言わないと、心に決めている。
彼女が気持ち悪がり、避けるようになっては、困る。
朝の楽しみ「おはよう。ございま~すぅ」も言ってくれなくなったら、自分は何のために生きているか、わからなくなる。
ましてや、売店の怖い元アイドル祥子に知られてしまったら、血祭りにあげられる。
恐ろしすぎて考えたくない。
駐車場の誘導は、応援アルバイトも動員して今日は15人体制だ。
このなかで花田はリーダーを任されいる。
「穂華ちゃん」にいいところを見せたい。
無意識だが意気込んでた。
そして無意識に鼻穴をほじる。
そして鼻壁にある硬い鼻くそを引っ張りだすと、眺めてから遠くに飛ばした。
そして穂華ちゃんを「きゃわゆい」と話すぅ今日きたばかりなのに「なんだ!おまえ!」
色白アルバイト男を睨んだ。
ゲートでは、エンジンの熱気が熱い。
運転手の目がスラッシュだ。
熱いエンジン音と、窓から薫る甘いにおい。
騒ぐ子供達。
泣く赤ちゃん。
黒塗りのヤンキー車のエアースペンサーの香りと、改造マフラー音。
疲れた様子の腹の出た父さんたち。
花田は車の整列させる瞬間がすきだった。
入場待ちする車は、みんな、花田の言いなりだった。
花田の指示なくては、動けない。
「先生!まだですか?」と待ちわびる生徒のようだ。
「まだだよ~君たち」ニンヤリと心で笑う花田(56歳・独身。)
耳につけるイヤホンからは、無線のやりとりが聞こえた。
「チケット売り場よし!」
「A館通路よし!」
「トンネル水槽よし!」
「タッチ!熱帯雨林よし!」
「海獣館よし!」
(いよ,いよ,だな.)花田は耳をダンボにした。
「なかよし、売店よしで~す!」穂華の声だ。
花田の目じりがとたんに下がる。
(今日もいい日だ!)鼻息があらくなった。
無意識のうちにスライム化した唾が、アスファルトに,こぼれ落ちた。
今日に限って、穂華の声が本当に耳元で囁くように聞こえた。
(あ~ダメ)
そう心で思いながらも、(お仕事!お仕事!)
腹の肉厚で下がったズボンを定位置にあげた。
薄手の長そでからのぞく、真っ黒く日に焼けた腕には、ギラギラ光る金の時計が開演10分前をさしていた。
開演を待つ車の台数を数えきれないッス。
車に乗っている子供が、花田を指差し大声で叫んだ。
「パパ~!けいさつの人だ!」
花田はニヤリと笑うと、腰につけた無線機を取りだした。
「こちら駐A・どうぞ」
ザーザーザッ音の中から館長の声が薄く聞こえた。
「ハオイ~」
流し眼で原田は子供を見た。
「かっこいい!っぱ!パパ!」
さっきの男の子が目を輝かせて話す。
花田の鼻息も増す。
「館長!台数多い!20以上あり!早めていいでしょうか?」
ザーザーザッ音のなかから、蚊のなく声がした。
「ハオイ~。リョウカイ!ヒュウダイヒジォウ、レ、クダサイ!」
「了解します」
花田は身軽な動作で走りだしゲートへむかった。
(そろそろだな~)ゲートで待つパパ軍団も身を乗り出しスタート準備にかかった。
勝負をあおるように、ママ軍団が「早くいかないゃ、イルカ満員になる」と早口で話す。
大人の異変に気がついた子供達は、身を乗り出す。
いきなり泣き出す幼児。
朝から飲みすぎたジュースで「お腹が痛い」と泣く子供。
花田の姿を見ながら、三強警備アルバイト従業員は、緊張が走った。
事故。駐車スペースへの誘導、料金トラブル。
あってならない事項を胸にひめ、今日一日無事に終えること。
(ごぉ、5・4・3・3・2・1)
花田は時計を見つめて、ゲート開けボタンを押した。
「ブフウウウウウウウ~ン」
なぜか、この緊張感に耐えられないヤンキー暴走車が、アクセルをふかした。
この爆音に気を取られていると、若い母親が軽自動車の窓から、ウンコ入りのおむつを投げた。
その様子を友三は見逃さなかった。
なにも戦いではない。
しかし、人は、行楽地でも競うのが好きらしい。
より美人にみえるように、ゴミだらけの車内で化粧をする若い母。
煙草の吸殻を、ポイと投げる中年男。
前髪とつけまつげをつけた目だけを気にする目力女。(説明・めじからおんな!)
それぞれが海の生き物を見に来たわけでなく、人を見に来てる。
それは、それで、いいのだ。
大型連休らしいひとこまだから。
穂華に色目を飛ばしてた色白バイト君は、アタフタしていた。
仕事がはじまると、とたんに、カッコいい花田だった。
「花田さん。先に大型バス。誘導します」
「了解。10番お願いします」
「了解]
竹ほうきを操り、スルリ~と、白いポリ袋をつかむ友三。
「お客様。落し物ですよ!」
「あっ・・・ハイ。ごめんなさい。子供が外に投げてしまって」
手渡すコンモリ臭い落し物。
綺麗に並んだ部分入れ歯を見せつける友三。キラリ~♪
子供に濡れ衣をきせて、ゲンコツするヤングママ。
目を細めて窓がしまった瞬間、「ウッセージジイ」と話すパパ。
みんなが、何かに、向かってワサワサしていた。
オープン。
そう、朝一番にみんな弱い。
「おまわりさん!バイバイ~!」
「気をつけてな~!」
ほっぺの赤い男の子の笑顔に、花田は笑顔で手を振った。
ブルースカイ。
空はブルースカイ。
(今日はいい天気だな~!最高!)
花田は空を見上げた。
あの子がいつか、「おまわりさんではない」と気がつく日まで、ブルースカイだ♪
ザーザー。
「ウグイヅゥイウ・・ドウゾォ~」
「了解しました」
「ゴゴゴゴゴホ~」
「館長?」
「フゴ~」
「ピプ」
(朝礼がはじまったな~)花田は、目を細めて光る車を誘導していた。
(PS・もしよかったら、お次もよんでね。 by saru)
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