第19話 困ったペンギンたち(涙)
「あ~あ~。マイクのぉ、テストです!」
「・・・。フッフッ~!」息を吹きかける。
「よし!大丈夫!」
佐藤は、気合をいれた。
佐藤直輝(32歳)。今年の春からイルカ担当から移動。
ペンギン、トドを受け持つ。
アザラシの餌売りもかけもちする。
元・。
イヤ、現在も、下腹が出たが、イケメントレーナー。
オールマイティに、つねにアンテナをはり、安全、安心、お客様をもてなす。
どうですか?誰か?俺と結婚しませんか?
考え中?まいったな~そりゃ~。でへへへへ。
趣味は、ウィンドサーフィン。
マリンな男でしょう。
イルカショーが終了となった。
スタジアムから出てきた、お客が移動を始める。
次は、海と続く屋外プールで、ペンギンとトド、セイウチのショーが行われる。
はじめに、ペンギンのショーだ。
ところで、このペンギン君たち、言うことを聞かないので有名だ。
まったく、餌の魚をあげても、動かない。
好き勝手に泳ぎ回り、芸のひとつもやらない。
そこで、つなぐのは、俺たちトレーナーの話術だ。
お客様を楽しませる。
それが大きな目標。
そう・・・。
あとは、気がむいたペンギンたちが、参加してくれるのを待つのみ。
さぁ~気合をいれて!いざ!ショーの始まりだ!
満員の人だかり、ペンギンを囲むように作られた会場は、今か?今か?と、
ペンギンショーが、始まるのを待つお客さんが、ステージを囲んでいた。
「みえないよ~お~」と叫ぶ子供や、「え~んん。お腹がすいたよ~」と、ぐずる子供たち。
「ぺんぎんさぁ~ん」
プラプラ歩く、スットンキョンな、ペンギンたちに、声をかける子もいた。
ここでもまた、イルカショー同様に、後ろの人に気を使わないで、前列で肩車をする若い父親もいた。
華やかなショーでは、みな、自分勝手である。
その自分勝手代表の鳥。カラスの「カーさん」と、カモメの「ゴメさん」も、その様子をコンクリートの屋根に乗ってみていた。
待ちわびるのは、ペンギンの餌。「イカナゴ」
さぁ~はじまるぞぉ~!
お天気がいい。
ここちよい風が吹く。
春の風は、暖かい日差しを浴びて、暖かった。
その風をペンギンの「うみ」は、目を細めて感じていた。
隣には、友達ペンギンの「ゆり」がいた。
二羽は、仲良しペンギン女子である。
(なんか?今日は、お客さん・・・多いね)
(うん・・。みんな。見てる)
「ゆり」は、そう話すと、滑り台の隅に隠れた。
「さぁさぁ~時間になりましたぁ~!こんにちわぁ~!今から20分ほど、ペンギンショーをはじめます~。」
佐藤は元気な声で話した。
ニコニコのお客さん。
カラスのカーさんが、「カァーアー。アー」と挨拶した。
横顔を、カモメのゴメが、見つめた。
「ペンギンショーの始まりです。今日は、ここにあるものを使って、ペンギンさんの特徴を学んでいただきたいと思いま~す。」
小さなプールの上には、浮き輪の橋があった。
お兄さんが話しているあいだに、太ったペンギンが、ヨチヨチ、発砲スチロールの橋を渡り、見事に落っこちた。
(ブゴブゴ~ブ~)水に入ると素早く泳ぎだす。
「さぁ~今日もみなさん?」佐藤はペンギンたちを眺めた。
「やる気がありますか?」
(・・・・。)(ない)と全員話した。
イカナゴ(餌)は、もういらない。
腹は減っていない。
日差しが暖かいので、眠い。
同じことばっかりやるので、やりたくない。
理由はこんなもんだった。
お兄さんも知っていた。
コイツラ(この子たち)は、やらない。
「さぁ~はじめに、ペンギンの特徴を話しますね。さぁおいでぇ~」と、イカナゴを手にペンギンの顔に近づけるが、みんな無視した。
お客は(あら~)と気の毒そうな声を上げた。
そんなのいつものことだ。
「お仕事ですからね。協力できませんか?」
一羽のペンギンに話しかけるが、(・・・・・。)無視だ。
足も動かず、微動だせず。寝ている。
「ハイハイ。」
それでも、かまわずトークを続ける。
「このペンギンは、フンボルトペンギンといいます。ペンギンは寒いところで暮らしていると思われますが、フンボルトペンギンは南アメリカの太平洋側沿岸の地域に暮らしています。」
「寿命は野生で20年。飼育下で30年程度と言われています。」
滑り台の後ろで・・。
「うみ」は「ゆり」を見つめた。
(私たちって?いま?いくつだっけ?)
(・・さぁね~。わからないわ~17歳?)
(なにそれ?)
(ゴロがいいから。)
(そう。ゴロね。)
(それは美味しいの?)
(たぶん。イカだと思う)
(イカって?イカナゴ?)
(イカナゴは、もういやだわ~飽きた)
(飽きたわよ。あたしだって。たまにイワシがたべたい。そう、シャケがいい)
(私も。トドが食べてる。シャケ。)
(そう。シャケ。シャケ。しゃしゃしゃぁ~♪)
(しゃけ。しゃけ。しゃしゃしゃ~♪)
二羽は手を振り踊っていた。
その様子を石黒は笑顔で見つめていた。
(かわいいなぁ~)
佐藤のトークは続く。
体の大きいペンギンが、ボっと~立っている。
その体を指さして話し始めた。
「特徴は胸のあたりの黒いラインが、一本で太くなってます。」
自分の体のラインを、指でなぞられると、ペンギンだって恥かしい。
「みて!わかりますかぁ~?」
「カァ~」カラスが返事した。
(もう、何回も聞いてるよ~またかよ~ぉおおお。)
体の大きい「ペンタ」が堂々とたつ。
その口に佐藤は、魚をいれた。
「ゴクン」っとぉ。
ペンタは口に入れると、モグモグ食べながら、胸をはった。
「体重は4キロから5キロとなっています~。」
スリムな「ベイビー」という名のペンギンが、さりげなく佐藤の横を歩いた。
「ヒナは、100グラム」
(ハイ!わたし!ちょっとちっちゃいの!)
乗ってきた~♪~小さいペンギン「ちび助」が水から上がってきた。
(よし!いいぞ!)佐藤は、少しずつペンギンたちのやる気を感じていた。
「いいですか?低い飛び込み台から、ジャンプを披露してくれるペンギンさん。いませんか?」
(・・・・無視。)
そういうことはみんな、やりたくなかった。
あっという間に、ペンギンは分散していった。
(あれ?調子がわるいぞ。)
日差しが暑くなってきたので、家に帰る者もいた。
「帰らないで下さいよ~お仕事ですよぉ~」
お兄さんは家路に急ぐペンギンを抱き上げた。
(・・・なんだよ。帰るんだよ~。)ペンギンはひそかに、反抗していた。
手をパシパシはたく。
でも・・・役たたず。
ペンギンは連れてこられた。
「さあ~頑張ってもらいましょう。」
低いシーソーにペンギンをのせて、歩いてもらう作戦。
口元に魚を入れ、指をさし「あっちへ行きましょうね~。」
(・・・・・。)(絶対!行かない!)
固まるペンギンは、言うことをきかない。
「カァー」カラスの「カーさん」は、大きな声で返事をした。
「できるぞ~!」
(お前は、いいから・・静かにしてよby・佐藤)
トントン。シーソーを上手にわたるとカーさんは、「魚!くれ!」と叫んだ。
(お前にはやらないよ・・by・佐藤)
佐藤は横目で、カラスを睨んだ。
お兄さんは、お客さんの笑いを取るためにトークを続ける。
「カラスが、渡りましたね」
ドッと、笑顔が沸き起こる。
(カラスが渡ったんだから、いいな・・・。)と、ペンギンたちは逃げた。
ペンギンたちが、プールに入ってしまうと、お兄さんは太刀打ちできない。
そんなことも、おかまいなく、ペンギンたちは、一斉に水に飛び込み泳ぎ始めた。
みんなやりたくないのだ。
今日はとくに。
気分がのらない。
「台」
「シーソー」
「ハードル」
「滑り台」
4項目の種目を乗り越え、ペンギンショーは終わる。
もうすでに、シーソーで止まった。
ペンギンたちが泳ぎだすと、ショーのなかの主人公がいなくなる。
まさか?お兄さんが、プールに入りペンギンを確保するわけにはいかない。
そこいらに、立っていれば、抱っこしてごまかせるが、みんなプールに入ってしまったら不可能になる。
(マズイ展開だ・・・)
「みなさん~今日はやる気がないようですね~。誰か?お仕事してくれませんか?」
「カーぁあぁぁぁぁ」カラスが叫んだ。
(俺はいつでもやる気十分。魚をくれ~カアアアアア~)
「うみ」も「ゆり」も泳いでいた。
泳ぎながら「ゆり」が話した。
(佐藤さん、かわいそう・・。)
(そうね。こんなにたくさんの人が、来ているのにね)
(イカナゴ?好き?)
(私は嫌い)
(私も)
(佐藤さんは好き?)
(まぁ~旬のアイドル堂下さんには、劣るけど・・まあ~まぁ)
(わたしも・・。)
2羽は顔を見合わせた。
(今日はどっちやる?)
(わたしハードルがいい)
(そう。じゃぁ~わたしは滑り台にするわ)
(いい?)
(いいよ。この前、うみちゃんがやったでしょう)
(わかった。)
(うん)
そう話すと2羽は泳ぎながらウインクした。
「どんどん逃げて~みなさん。誰か?ハードルやりませんか?」
佐藤が泳ぐペンギンに向かい話しかけていた。
カラスが「カァァァァァ^」と返事をした。
(俺やる)と話している。
お客は、泳ぎ回るペンギンを眺めていた。
お兄さんの楽しいトークがなかったら、とっくのと~にぃ。お客様は、次のショーへ向かっていたところだ。
「誰か?」
そのとき、2羽のペンギンがプールから上がってきた。
佐藤はすぐにわかった。
「うみ」と「ゆり」だ。
腕のタグに名前がかいてある。
2羽は毎回、佐藤を助ける救世主だった。
「いましたね~。うみとゆりです。」
「ペンギンには、羽のところに、名前のタグがつけてあります。」
「この子は「うみ」そして、「ゆり」です」
一羽づつ、お兄さんはペンギンを抱き上げ、お客さんに紹介した。
「うみ」も「ゆり」もされえるがまま。
直立不動に紹介される。
「かわいい~♪」と言われると嬉しいものだ。
「ゆり」は、佐藤に軽く手をあげた。
(ハードルだな)
(・・・うん)
「さて~。ペンギンは、本来、高く飛ぶことができるとされています。」
ゆりの前には、ハードルが3本あった。
「さぁ~頑張ってもらいましょう。お魚?たべます?」
(・・・・・・いらない。)
「あれ?いらないの?」
(・・・・うん)
「食欲ありませんか?ここまで来たらお魚、食べ放題ですよ。」
(・・・・・・イカナゴは、飽きた。)
「なにがいいですか?」
(・・・・・・シャケが、食べてみたい♪)
「ハードルの高さは、5センチ、10センチ。20センチと、なっています。」
(・・・・・・5センチだけなら、大丈夫)
「さぁ~ゆりちゃん!頑張ってどうぞ!」
(・・・・・・・。)
ユリはヨチヨチ歩くと、ハードルをよけて、進んだ。
バケツがある先まで。
そして、(・・・・)終了。
「ハードルをよけました~。まぁ~いいでしょう~♪」
(・・・おしまい。)
こうして、ハードルも終了した。
その様子をほかのペンギンは泳ぎながら眺めていた。
(いまは~お腹いっぱい。たくさんの人が集まる場所は、もっと嫌い~♪)
ゆりが歩く姿をみて、「うみ」は手を叩いた。
佐藤君の笑顔に・・・乾杯~だぁ。
イルカスタジオにいたころは、アイドルだった。
いまはこんなに腹が出ているけど、昔はカッコよかった。
日焼けした顔。きらり光る歯、名残りあるアイドルの輝き。
彼に抱っこされると、いい香りの香水の匂いがした。
いまなお、健在。
今年の春から彼がここに来ると聞いて、「うみ」と「ゆり」は大興奮した。
だから、協力する。
(あなたに会えて、ほんとうによかった~♪)
ハードルを終えた「ゆり」は、優しく佐藤に抱っこされると、頭をなでられた。
そして「うみ」は、嫌いな「滑り台」に挑戦。
スルリ~と滑って~会場を沸かせた。
ここでショーは、おしまい。
いちにち、2回のショーは、毎日、誰がやるかでもめていた。
無事に終了。
カラスの「かーさん」とカモメの「ゴメ」は、いつも協力しているが、報酬はなく、嫌われる一方だった。
2羽はいつも「ペンギンは、バカだよな~。あんなこともできないなんて、バカ」と連呼していた。
「さぁ~みなさん~。これで、ペンギンは人間にはあまりなつかないのが、わかりましたね。たくさんのお魚をあげますよ~。と話しても、来ませんね」
「次はトドの豪快なショーをおこないますので、お隣の会場へおこしください」
「これで、ペンギンのショーはおしまいです」
大きな拍手とともに「カラス」の声がした。
ペンギンの「うみ」と「ゆり」は、お兄さんの手のぬくもりについて語りあっていた。
(やっぱり、堂下さんより、佐藤さんの方が好き)
(わたしも・・・。)
(だよね~。いい香りだったね)
(優しい目!近くで見た?)
(みたよ。カッコよかった~♪)
(うん。抱っこされるときの手のやさしさ、だ~いすき~♪)
(そうそう。)
(イカナゴ?好き?)
(私嫌い。シャケが食べてみたい)
(わたしも・・。)
(だよね~♪)
2羽は滑り台の隅で語り合っていた。
まったく協力しない他のペンギンたちは、水からあがり、各自めいめい「ボー」っと、日に当たっていた。
(困ったペンギンだ)と、佐藤はつぶやき、天然水を飲んだ。
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