第18話 おみやげやさんは、大パニック♪
「少々~お待ちください・・。」
女性店員の声が響く。
ぺーンギン、ぺんぺん。
ぺん。
ピー。
鳴る、鳴るバーコード音。
「チーン!」となる、レジのゴング。
ガサガサ包む音。
ざわめくお客たち。
そんななか、売り場の奥の3畳ほどの倉庫に友三はいた。
セロテープの音がひたすら鳴り響く。
友三の厚い手が、丁寧に包装紙をたたむ。
あくまで、裏方。
人目のない、狭い倉庫で、頼まれた数だけお菓子を包装紙に包む。
(あとで,お客様が、取りに来る分。それから、これは急ぎ・・・。)
付箋が貼ってある箱菓子を眺め、次の段取りを考える。
友三は、丁寧に作業をしていた。
作業服を脱いだシャツに、汗がにじむ。
もともと手先が器用な友三である。
紙を丁寧に折るのも手馴れていた。
特技は「力」で、ある。
いくら慣れない職場であろうと、生かす場所は、かならずや、訪れるのである。
「簡易包装」なら、任せてくれ~♪
意外と、完成するほどに、友三は楽しくなっていた。
だいたい売れ筋はわかる。
500円の箱菓子「たのしい水族館」が、一番人気だ!
青いバックに、楽しそうに笑うイルカやペンギン、トド、オタリア、熱帯魚。
かわいい~キャラクターが描かれた表紙の包装紙。
おまけに、24個も入っているクッキー。
包み紙は一つ一つ、これまた、かわいい絵がかいてあり、学校へもっていくお土産として人気だった。。
迷うことなく、この菓子箱を二つ買っていく親子連れが多かった。
24個入り二つだと、全部で48個。
クラスの生徒に配るのはちょうどいい。
あまったら、自分のうちで食べる。
例年、出掛けると学校へお土産を買う子供が増えている。
ましてや、長期休みになると、ここぞ!と、言わんばかりで、子供たちは見栄をはりあう。(イヤ?親かいな?)
定番が、ディズニーランド。
ユニバーサルスタジオ。
そして、ゴールディンウィークのような、ちょっとした日帰り旅だと、「水族館」や「動物園」
なかには札幌の「ポケモンセンター」などがある。
子供たちの好きそうな場所に親は連れていき、「行った証拠に・・お土産をくばる」
どこにも、行かない子供は、どう思っているのか?友三の心は、複雑だった。
いつも、もらってばかりのお菓子。
華やかな菓子をもらいながら、人様の旅行をうらやましがる。
なんとも・・・残酷な、子供社会になってしまった。
しかし、その背景には親も大きくかかわっている。
お金をだすのは親なのだ。
なかには、子供が選んだ高いお菓子箱を取り上げ、戻す親もいる。
「こんな~高いの。配る必要ないよ!」
そう話し「楽しい水族館」を買う親もいる。
そんな気持ちで買うお菓子なんて、もらったほうも嬉しいのだろうか?
また、親が率先して買うケースもある。
子供は自分用のお土産を買って、帰ようとすると、親が「学校に買わないの?」と、促す。
そして子供はシブシブ買うパターンもある。
「ゴールディンウイークは、水族館へ行ってきました。」
いわずとも、このお菓子を見ればわかる。
「たのしい水族館」のお菓子は、「わたしたちは幸せなのです」と、話しているようだ。
なんとも・・・。複雑なお菓子だった。
友三はいつも、そう思いながら包んでいた。
お世話になっている人へのお礼を込めて、箱菓子をかう。
水族館でもそれは同じ。
この山のようなお菓子が、どこへいき、誰の手に渡り、喜ばれるのか?
包装紙を包みながら、旅の行く先を想像した。
「ともぞぉ~さぁ~ん。これは急ぎで~スゥ」穂香が倉庫へきた。
長い髪は一つに束ねられていた。
「はい。わかりました」
「できあがったのは、いただいていきまぁ~すぅ~。」そう話すと紙袋に入った完成品を持って行った。
(はりきっている・・・。)
友三は、穂香が、ようやく、なが~い眠りから目覚めたように、キラキラ、イキイキしてきたのを感じた。
祥子に、影響されたのだろう。
(よし!いいぞ!)
こうしてプロが作られていく。
経験を積んで、コツコツと・・。
最近では、年寄りをバカにする若者もいる。
(とくに・・。若い連中は、「おじさん~」と、友三を呼ぶ)
しか~し。
息を吸う回数が長い分だけ、いろんな経験を積んできているのだ。
いまにお前らも、「おじさ~ん」と呼ばれる日がきっとくる。
そう・・・。そうなのだ・・・・。
「タケ~さぁ~ん。どっスカぁ?」
鼻の穴を膨らませて、大田が来た。
「あ~。館長。」
額に汗をかいて、前髪はよこにずれていた。
鼻の頭には大粒の滴が、結露化していた。
「忙しっすかね。」
「だいぶ。おちつきましたよ。」
「ソウッスカ。」
ようやく鼻の汗に気が付いたのか?大田は鼻汗を指で拭き取った。
そのあと、落ちつかない様子で、手足が、左右に揺れていた。
「館長こそ、イルカ?大変でしたね・・。」
「ソウナンスヨ。オタリアがね。プールにね。落ちたシーシっ」と・・。「シーっ」を、伸ばしてついでに鼻を「ブ~」と、かんだ。
鼻をかむと、毛羽立った鼻紙をポケットへ入れた。
落ち着かないオラウータンが、やってきたようである。
キョロキョロ大田は倉庫を眺めた。
目線は倉庫の奥へといったかと思うと、高い声をあげた。
「わぁ~売れたぁ~」と叫びだした。
海の生き物を意識した「ブヨブヨ」「トゲトゲ」「キラキラ」「ゴツゴツ」の?
意味不明の透明のヨーヨーが、在庫室から消えていた。
「スゲ~!スゲ~」大田の目はバラ色だった。
「ぶっとび!売れている!」声は高らかに~気持ちはハッピー♪
「やったぁ~♪」とつぶやきながら、売り場に戻っていった。
(・・・・・やれやれ・・・)
友三は、包装の続きを始めた。
「あんね・・。タアア~タン。これが、ほしいのぉ~。」
「ダメ!戻してきなさい!」
「え~んん~。え~ん。」
お土産店は、泣き声も響いていた。
レジ音「リーン・・・・。」
会計待ちのお客の不快指数は、しだいに増してきた。
祥子の目は鋭く光っていた。
視線の先は、券売機売り場の真由美へ向けられた。
目だけで通じ合う仲だ。
(真由美・・。頼むよ・・。)
(オッケー・。)
真由美は、入場券売り場から、お土産コーナーへゆっくりと移動した。
祥子の同期、真由美。
昔は相当のヤンキーだった。
紫色のルージュを唇に塗っていたヤンチャな時代もあった。
彼女は工藤静香似と、言われてた。
その面影はいまだにある。
現在も独身。
時代をともにした友である。
目と目で通じ合った彼女が、穂香に代わって、祥子の横についた。
しなやかに・・・。そして・・・ちっとも、忙しさをみせない。
プロというものは、流れる川のようにキラキラ~サラサラ~おだやかに~。
お客をさばく。
その技は、あでやかに、見ているだけで気持ちが良い。
言葉づかい。立ち振る舞い。
すべてにおいて、接客業の神髄は、あでやかな舞を見ているように、美しいので~あ~りますぅ~るぅううう。
「チーン♪」
「ありがとう。ございました。」
(パーフェクト!)大田は満面の笑みで二人をみていた。
その横で、穂香は憧れの表情で見つめてた。
大田の手には、大きな、魚、ピラルクのぬいぐるみがあった。
売れたら困ると・・。
倉庫に隠そうと思ってたものだ。
しかしあの二人。
あまりにも美しい接客に、見とれてしまった。
息のあったパフォーマンス。
レジは祥子。
接客は真由美。
笑顔!
満開!
美しい!
「あのぉ・・?~。ダイオウグソクムシのぬいぐるみは、ここに、ありますか?」
厚いレンズの眼鏡をかけた小学生が、大田に聞いてきた。
「・・・?はて?」
「ダイオウグソクムシです・・。」
「・・・・。」
「ダイオウ・・。グソク。ムシ。の、ぬいぐるみです」
(・・・・いじめか?)
大田は息を大きく吸うと、ゆっくりと吐きながら話した。
「あのね・・・。ダイオウグソクムシは、三重水族館にあるんじゃないかな?」
少年は首を傾げ、(・・?)のポーズをした。
「その。ぬいぐるみをください!」
指さした先は、大田が持つ「ピクルク」のぬいぐるみじゃん。
(ひぇ~ぇっぇっぇぇえ)大田はおびえた。
これだけは渡したくない。
大田の手には、最近入荷したばかりの、受け口の魚「ピクルク」があった。
このピラルク君の黒目と、受け口のシルエットは美しかった。
ぬいぐるみのなかでも、最高にかわいかった。
一目惚れだったのにぃ・・・・・。
(いやぁああああああ~んん・・)
「ダメ」小さな声で呟く。
「その!ぬいぐるみ!ください!」
「・・・・だぁ~だぁめへ~。」
子供の後ろから、断りずらい体格のよい大人の男性がやってきた。
坊やは泣きついた。
「ボク!あのピラルクが、いい~。」
「お~わかった!オイ!いくらだ?」
(いやぁぁぁぁぁぁぁぁ~そのぉ~・・・大パニック!)
大田は絶対絶命の決断を迫られていた。
その様子を、フウセンウオ、たこ、ネズミイルカ、モモイロペリカン、コツメカワウソ、ピラルク、オウムガイ、の、人気ぬいぐるみたちが、ジーっと、眺めていた。(どうなることやら?・・・・ダッフンダァ~♪)
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