第17話 ゴロゴロ~でお次です。
ゴロゴロゴロ~ジャガイモ、ゴロゴロゴロ~。
ショーが終わると、人々は移動する。
ゴ~ゴロ~ゴ~ごろ。。。ゴロゴロりん。
見知らぬ人同士、肩をふれあい、体温かんじ、息つかい「チカッ」
ゴロゴロ~ごろ~。
入り口には、たくさんのジャガイモが、出てくる。
さぁ~引き続き、ペンギンのおやつタイムに、トドの餌やりだ。
大田館長は誘導に追われていた。
たいがい、ここでは,お客には、叱られない。
「さぁ~引き続き、怪獣プールで、ペンギン、トドのショーが、ございま~すぅ~!こちらへ~どうぞ~!」
大田はぷっくりとした、手のひらをお椀型にして、笑顔いっぱい、お客様を誘導した。
ここ一番。人出が多いこの時間を乗り越えれば、なんとかなる。
「さぁさぁ~どうぞ~!こちらの矢印を目印にね~!」
それにしても、さっきの男は不気味だった。
いきなり胸倉をつかみ、殴られそうになった・・・。
イルカのショーに入れなかったのは、お客が早く来なかったのが、悪い。
アイツらが悪いのに・・・。
おとなしそうな男も気を付けないと・・。なにを考えているか?わからない。
「どうぞ~!こちらで~す!」
ゴロゴロ出口に集まるお客を誘導する。
ジャガイモゴロゴロ、おしくらまんじゅう~♪押されて泣くな~♪
さぁ~さぁ~いいぞ!この勢いで、野外にある怪獣プールへ出ておくれ~。
誘導するごとに、お客が引けてゆく。
水族館の楽しい時間も、いよいよ、後半になってきました。
大田は、朝よりずっと、元気になっていた。
さっきは、恐ろしいめにあったが、これも経験。
おとなしそうな奴に限って暴走する。
世に中、なにがおきるか、わからない。
遠くに見える佐々木君の後ろで抱き合うカップルが、霧が晴れるように、しだいに見えてきた。
あいかわらず、女の首筋に男が顔をうずめている。
通り過ぎるお客の中には、「あれ!あれ!さっきの動いた~!」と、笑う黄色い髪、短髪ライオンの中年女性が大笑いした。
そんな冷やかしもなんのその。
二人は、きにしないようだ。
(あ~怖い。おとなしそうに見えて、あの男は口を開くと巻き舌だしぃ・・・。)大田はブルブルしていた。
爆弾が後ろにいることも知らずに、佐々木君は明るく軽い口調で、お客の誘導をしていた。
知らないとは、おめでたいことだ。
「引き続き、怪獣プールへどうぞ!ペンギンのおやつタイムが、おこなわれま~すぅ。」
「いくか!」と話すと、カリスマ健司は、明美の方を向いて指をふった。
「はい・・。」明美は口をしぼめてうなずく。
「あんた!早く!きな!」
「・・・。失敗した。」
放心した徹は、子デブと親玉デブに支えられ、外へと歩き出した。
和江は目を細めながら、歩き始めた。
前の人の靴をみると、ハッピーと書いてあった。
(ほんとうに、今日はハッピーな日だわ~。)
ゴロゴロ人混みが引けてゆく。
人の波は移動していった。
そして、ショーが終わった後のイルカたちと、スタッフは力尽きていた。
ショーは戦い。
力いっぱい力を出しきる。
そして・・・。フラフラり~ん。
「あんた!すごいよ!」音響担当の中安が叫んだ!
良太はずぶぬれになりながらも、バケツを片づけていた。
日に焼けた筋肉質の腕が、なんども良太の肩をゆらす。
中安が力いっぱい、感動を表現した。
「あんた!すごいよ!」
「そっすか~。あんまし、水族館の仕事わからなくて・・スイマセンスっ・・。」
「なに!言ってんの!いままで、あんたのような、人、みたことないよ」
「マッスカ・・。」
「あ~あ~。若いのに・・。たいしたもんだ!」
「そうだ!すごいよ!君!」
バイト君も同時に話した。
二人は良太をキラキラした瞳でみた。
「そうかな~?」
「そうだ!」
「そうそう。来週も、来てもらえるように、俺から、堂下さんに話しておくから」
「え?」
「いい?」
「はぁ・・・・い。イエス」
「よし!決まった!早速!話してくるよ!」
そう話すと、中安は、スケートを滑るように去った。
良太はなんだか?わからぬが?ま~ぁ。いいかな~?と、思った。
バイト君は、なんども小声で(たいしたもんだ!)と話した。
アクシデントが招いた、とんだ、勘違い。
ま~そういうこともあるだろう。それにしてもオタリアの部屋で用を足さずによかった。
もし、用を足してしまったら、クビになってたかもしんない。
黄色い湖の正体は「あいつ!」と、あたまのいいオタリアに指さされたら、
「アウト」だ!
(さぁ~さぁ~お仕事だ~ぁ~。)
良太はバケツを重ねて、片づけ始めた。
次のショーは午後4時から。
それまで、この濡れたパンツが乾くといいんだけど・・・。
作業服のなかに、アンモニアが残りつつある、着心地の悪い事態と、格闘しながら動きはじめた。
お客が引けたところで、佐々木は、入り口誘導チェーンを動かし始めた。
ポールを動かしていると、ヌクッと、人の気配があった。
「・・・・?」(なんでしょう?)
真後ろに、抱き合うカップルがいた。
「・・・?」(なんだろう?)
「・・・・?」(はて?)
二人は力強く抱き合いながら、おでこをつけて目をつぶっていた。
佐々木がジーと見ていても、気にしないで、動かない。
人ごみにもまれたときに、動いたのか?太い女性の太ももがあらわになっている。
「・・・・・?」(はて?)
しばらく佐々木は眺めていたけど、二人がそうしたいのがから、構わない方がいいと思い。仕事を始めた。
遠くから貝細工売り場の野口さんが、その様子を見ていた。
その目はキツい。
その顔つきが、佐々木は怖かった。
貝細工売り場の野口さんは、口をへの字に曲げた。
よだれをひとすすりすると、呟いた。
(・・でたな・・・。)
今日はたくさんの人が来ている。
(それをいいことに・・・ムスっ・・。)
野口さんが近づいていくと、女の腕が長く伸びてきて、佐々木の首を絞め始めた。
作業中の佐々木君。突然!ヨロヨロ~。
「・・・・・!おっ~!なぜか?突然!苦しい~!」
ツカツカ歩み寄る野口の姿はセイウチだった。
よくみると、白く塗られたファンデーションの鼻の下には、長い毛が一本生えていた。
香りも昔懐かしい。お香のようだ。
野口さんのアイシャドウは、いつも「ブルースカイ」
最近、大好きな「山内惠介」の追っかけに、はまっている。
そこまで情報がないが、苦しさの中、佐々木は野口さんの姿をみた。
「たすけて~野口さん~!」
佐々木の脳裏には、女の、にやけた顔が浮かんだ。
(・・・反対しやがって!・・・・反対しやがって!・・ゆるせない!)
と、お経とともに、声が聞こえた。
そして男の声。
(俺だけ助かってゴメン。俺だけ助かってゴメン。)
「お前だけ助かったの?」と、佐々木は聞き返した。
「そう・・。」と話したかと思うと「くそったれ~ぇぇぇぇ」と巻き舌で話した。
(もしかして?オレ?こんな真っ昼間から?心霊現象の回想のなか?)
「たすけて~野口さん~!」声なき声のなか、心の中で、野口さんを呼んだ!
野口さんは、ノシ、ノシ、スローで歩いてきて、女の腕を掴んだ!
女は怖い目つきで、睨んだ。
「許せない!反対しやがって!親!兄弟!友人!みんな~みんな~!」
「コレ!手を放しなさい!」
「あんたと!この人は、関係ないでしょ!コレ!」
「・・・・。」
女の瞳は陰り、そして涙をながして叫んだ。
「悔しい・・・!」
そこから二人は話し始める。
「あんたの居場所は、ここではないの!もう死んだんだから!未練をすてて、自分の住む場所へ帰りなさい。」
「うぅううううう~」
巻き舌の男の顔も、悲しい顔つきに変わっていった。
そして、次第に薄くなって、消えた。
女だけが残された。
女は野口さんに、説教されると、ピンク色のトレーナーの袖をひっぱり、涙をぬぐった。
野口さんは目をつぶり祈り始めた。
「私は、何もできない。このひとも何もできない。だから帰りなさい」
女は悲しい顔をして目をそらした。
そして、消えていった。
(・・・・・・。なんだったんだぁ~。)
佐々木は、息苦しかった首を押さえながら、話し始めた。
「野口さん!いまのは、・・なん?・・なん・・すか?」
亀が目を覚ますように、ゆっくりと野口さんは目を開けた。
「うふふっふ。幽霊」
「えぇぇぇぇぇぇぇ~!まじ?かぁ?」
「ここに住んでる幽霊」
「え~!」
「成仏できないでいるのよね。たまに、たくさんの人がやってくると、出てくるの」
「え~!そんな~ぁ~。オレ、初めてみたし、普通の人間だし。」
「そりゃそうよ。死んだからって、ドロドロしくなるもんばかりではないでしょ」
「へ~ぇ。なんで?ここにいんの?ここで死んだの?」
「ここで、死んだわけではないと思うよ。」
「水族館を見た後に、ちかくの岩場から心中を図ったと思う。
女は亡くなり、男は生き延びてる。女は、最後の思い出の場所に、つい、つい、来るんじゃないかしら。」
「え~!男は生きてる?こわぁぁぁぁ~!」
「生霊さ。男も、後悔してんじゃない」
「わぁ~コワッ」
「こわか、ないわよ。怖いのは生きている人。意地悪したり、人を陥れたり、生きた人間が一番怖いさ。」
「わぁ~でも、やっぱ。オレ、怖いわ~。だって、はっきり見えたんだよ。しかも、首絞められた感じも冷たい指の感触もあるしぃ・・・。」
「コレ。ここ。触ってみて?」
佐々木は、体をくねらせ、全身で訴えた。
「ま~ま~。たまに、そういうこともあるのよ。誰かに知らせたくてね。忘れられるのが怖いのかもね。」
「そ~なの。」
「それにしても・・・。ほんと。」
「野口さんがいて、本当に助かりました」
「いいや。」
「ありがとう、ございます」
「ハイハイ」
そう話すと野口は、元の売り場へと戻っていった。
残された佐々木はビミョーな気分だった。
さっきまで、隣の入り口でお客を誘導していた大田館長の姿がなかったし。
(館長?どこいったんだろう~?)
大田は無線をうけて、お土産売り場のヘルプへと向かっていた。
イルカショーを見終わった時点で、ご帰宅のお客さんが大勢でたらしい。
帰り際に、売店に立ち寄り、お土産を購入する。
このパタ―ンが、早々と、おとすれた。
ツアー客は、次の移動先へ向かうため、イルカショーを見たら水族館を出る。
(さぁ~急がなきゃ~。)
ノシノシ歩く。
運動靴の音が廊下に響く。
前からくる大勢のお客様と、すれ違うたび、笑顔満面。
「こんにちわ~!」
すると、さっきの抱き合うカップルの女がいた。
「こんにちわ~」
すると、女は振り向き、恐ろしい顔つきで呟いた。
「見えるのか?」
(はて?・・・・)この意味したことが分からぬ大田は、「ハイハイ」と軽く交わしながら、会釈した。
お土産屋さんは、ジャガイモゴロゴロ~超満員。
包装紙を止めるセロテープの音が景気よく聞こえていた。
レジ打ちの「チ~ん」と鳴らす、レジ音もけたたましく聞こえる。
(さぁさぁ~今日の「ぬいぐるみちゃん売上ランキング」は?なににかいな~?)
大田はウキウキしながら、ジャガイモゴロゴロ、人ごみゴロゴロの、お土産コーナーへ飛び込んだ。
(PS ラストまで、あと5話です~♪ もうじき、おしまいですよ~ん)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます