第16話 テンション♪マックス・・さようなら~
「さぁ~。~今日も、テンション!マックス」
「フゥェリ~ヒィ~!ゴー!」
「ゴー!」
「ゴー!」
「ゴー!」
気持ちが高まり、学生アルバイトの田島良太は、思わず「エイエイオー」と叫んだ。
もちろん、隣で、高校生バイト君は睨んだ。
会場は超満員だ。
こんなテンションの高いステージは、初めてだ。
仕事は、バケツに入った餌の魚を運ぶこと。
そう。そうなんだけど・・・。
困ったことが発生!
大事件の真っ最中で、今は、なにも考えられなかった。
きっかけは、あのテンションマックスのイルカヤローだぁ!
現在、張り切るだけ、張り切っているイルカトリオのリーダー。
堂下先輩。
いや~。大先生。
バケツの餌魚を運んでいたら、冷たい缶が頬にあたった。
「飲みなっ・・・。」
「え?はい。いただきまっすっ」
堂下のキラリとした八重歯が光った。
「うっす」
良太と高校生バイトは、いっきに、冷たい缶コーヒーを飲んだ。
かなり、冷たいコーヒーだった。
いっきに流すコーヒーは美味しかったが、冷たすぎた。
すぐに膀胱を刺激した。
あと15分でイルカショーがはじまる。
大変だ!
この状態で、ショーへは、でられない。
キツい。
ヤバい。
ザワザワした落ち着かない気分になってきた。
足元は寒くなってきてるし。
大も辛いが小もきつい。
とくに・・小は、まったなしである。
(ヤバ、やばっ、やばぃ・・・)
脂汗滴り落ちる。
(ちょっと~まって~トイレ~)と、頭で何度も叫ぶが、そんなことお構いなく、大先生たちは、魚を運び、仕事を増やす。
(ヤバっ~、やばっ、ヤバい)
入ったばかりの新人が、「すみません。トイレ」と言えない不陰気。
(タイミング悪いしぃ・・・。たのむよ~ぉ~・・・。)
そんなこともお構いなしで、イルカショーの準備に追われえていた。
「田島君。こっちたのむよ~」と言われ、バケツを運ぶ。
良太は、なるべく、何も考えず、(冷静・・レイセイに・・。)と自分を励ます。
が・・。うまくいかず。
まったなしの、小ちゃんは、良太を追い詰めた。
目に映るのは鉄のドア。
ちょうど、バケツを取りにいくのでついでに中に入った。
すると、黒いオタリアがいた。
(ヒィ~!びっくりしたぁ~!)
オタリアは壁側に寝ころび、丸くなっていた。
とたんに、一瞬、顔をあげてこっちを見た。
「・・・・・・。」(こっちだってっ!びっくりしたぞ!)
「・・・・・・・。」(んんん?なに?なにしょうとしてる?)
「・・・・・・・・。」(まさか?)
良太は迷っていた。
小くんを置いていきたかった。
しか~し、オタリアにジーとみられているのを感じ、ビミョウに悩んだ。
それに、意外と、オタリアのお部屋はきれいだ。
ここに置き土産するには、しのびない。
黄色い泡の水が、それは、人間の小ちゃんだと、はっきりわかる。
しかし、いまここで、お別れしないと、この先、地獄が待っているだろう。
(しかたがない・・・。ごめんよ。オタリア君。)
鉄のドアを開いたときに、見えにくいところへ放尿しょうと決意した。
あとで、水で流して、ちゃんチャラにしょうと思ってた。
(いそげ~いそげ~天国はすぐそこ・・・。)
そうしたらいきなり、オタリアが泣き出した。
「ご~ご~ゴ~おおおおおおおお」
「うわぁ~びっくりしたぁ^~」
ついでに、どこで見ていたのか?高校生のバイト君が「出番!」と叫んだ。
「はい。」と返事をして脂汗を拭いた。
そんなんで、ノリノリのお兄さんや、イルカを見ても、な~んにも面白くなかった。良太は、ただ、ショーが無事に終わるのを願っていた。
もうひとつ、小くんが、でてこないように・・・。大きく願う。
はじまった地獄のショーの幕上げだった。
会場は超満員だった。
かろうじて、ガラスのドアが閉まる寸前に、カリスマ健司とカワハギ明美は、滑り込んだ。
健司はドアを押さえてくれた若いカップルにむかい「サンキュー!感謝するよ!」と、矢沢永吉風に話した。
軽く指をふり、「オッケー次行きますか~」てな、風だ。
それを聞いた天然パーマの男性は「あれって?かっこいいの?」と、首を傾げ、隣にいる若い女性は「なに~あれ?アホ?」と話した。
口の中でグミが暴れていた睦子は「あのひと、かっこいい~わ~!」と、子デブに向かい話した。
それを聞いた徹は「あのハゲのどこがいいんだ!」と、ムッとした。
いよいよイルカショーのスタートだ。
ハリキリマンのイルカのイーグルのテンションは、爆発寸前だった。
ハイテンションのノリのいい曲に、満員のお客さんの熱気、お兄さんの魂。
すでに、充分、伝わるにいいだけ~つたわり、頭がおかしくなりかけていた。
(あ~はやく!ジャンプした~いいいい!)
すぐにでも飛びたい衝動にかられていたが、鉄の格子はまだ、開かない。
イーグルの仲間の「ハニー」も「アリーン」も今か?今か?と、扉が開くのを待ちわびて、泣いていた。
「キュン・・・キュン・・・キュンキュン・・」甲高い声をあげて
「開けて!開けて!」と、おねだりする。
格子に鼻の頭をいれて、「まだか!まだか!」と、催促。
イルカを興奮させるノリの良い音楽が流れ、お客もイルカも興奮気味だった。
ショーの開始1分前、堂下が叫ぶ。
「お客が満員!テンションアゲ!アゲ!~♪音楽もハイ♪ハイ♪盛り上がっていこうぜ~♪ベイビー♪」
その声を聞いて、イルカたちの興奮はピークを迎えていた。
オタリアのピノは、そのバカ騒ぎに(イルカはバカだ!)と改めて思った。
さぁさぁ~はじまったイルカのショー。
音響効果あり、急に音楽が高くなった。
「おまたせしました。イルカショーのはじまりです~」
鉄の扉が、開いた。
イルカのゲートが開く。
ものすごい波をたてて。
いきなり三頭がきれいに並んで、ジャンプ。
(おれたちが主役さ、ハニー♪)
(イーグル~♪愛しているよ~♪)
(アリーン~。今日もスタイルばっちりだね~♪)
三頭はきれいに半月を描きながら、大きなプールの中、ちから強くジャンプした。
「スゲ~迫力~」
「わぁ~かっこいい~」
「やっぱ。すげ~」
観客は興奮して口を開けば「スゲ~」を連呼していた。
イルカがジャンプするたびに、室内プールはゆれて、波が生き物のように動きだした。
夢をみているかのような、ひととき。
お客は、大迫力に言葉を失っていた。
イルカは頭がいい。
会場のお客さんが喜ぶように、彼らもお兄さんの指導どうりに美しく飛んだ。
お兄さんの登場である。
またここでも音響効果をいかして、お兄さんを盛り上げた。
イルカたちも、お兄さんの横で静かに餌をもらっていた。
「は~いいい。みなさん~きょうは、色彩水族館へようこそお越しくださいました~♪ふぇりりりりりり~ありがとう~♪」
「もういちどぉ~。きょうわぁ~ありがとぉ~!」
堂下は、まるで自分のコンサートへでも来てくれたかのように、カッコつけて話した。身だしなみも、整え、ステージに上がるときには、メイクもしてる。
だが、会場からはお兄さんの姿は手のひらサイズだった。
しかも、お兄さんの声は、エコーの効きすぎで、われていた。
お兄さんは、何年もやっているが、このことには気が付かなかつた。
つい。興奮して、忘れてしまう。
イルカもお兄さんも、なにか?に・・なっていた。
良太と、高校生アルバイト君は、お兄さんが話すよこで、イルカたちに、ご褒美の餌をやっていた。
芸を決めるたびに、イルカたちはやってくる。
水面から「ニョキッ」と、顔をだして、髪留めピンのデカいバージョンの口を開けて「あ~ん」している。
そのなかに、「ほいっ」と、魚を投げ入れる。
「どうだ!」
「パクンチョ」
そんな楽しかろう場面で、良太の心は悪夢だった。
まず、はじめに、ステージに上がると、あまりにも観客が多くて赤面した。
向こうからは見えないはずなのに、若い女の子たちが、自分を見ている気がして赤面した。
膀胱がビミョーに揺れるたびに、圧力がかかった。
もし、こんな華やかなステージで、粗相(そそう)をしてしまったら、大変なことになる。
緊急事態と、爆弾をかかえ、プールから顔を出すイルカに食べさせる、魚を持つ手が左右に震えた。
そのうちに。
「はい!おたべ!」
と、笑顔で、優しく言いたい気持ちがぬけ、
ケンケンした顔で、「ほれ!」に、変わった。
頭の中では(コーヒーなんか、飲まなければ、よかった・・。)と後悔した。
そんな緊急事態もなんのその、イケメン堂下も、イルカ担当お兄さんたちも、おとなしく控えめなバイト君も、ハリキリテンションマックスになっていた。
お兄さんの声のトーンは、普段よりも3オクターブも高く、ぶっ飛んでいた。
声が高すぎて、マイクの声がキンキン。
お客は何を話しているか?さっぱりわからなかった。
それでも、イルカをまじかで、見れることに、大興奮していた。
お兄さんのキンキン声。
人間の心をしるテレパシーがあるイルカ君は、キンキン声の裏側を知っていた。
イルカたちの解説によると、こういうことだった。
(お兄さんの心の声・・byイルカ代表・イーグル)
「俺たちのショータイムの時間だ!
すべて、会場にいるのは、俺たち・・イルカを見に来たお客さんだ!
俺たちは水族館のキング!クイーン!
キュンキュンーキー!
今日も最高のステージを見せて、やつらをギャフンといわせてやれ!」
お兄さんがキンキン話すごとに、イルカたちは、壊れていった。
「さぁさあ~お次は、天井につるしたボールに、ハイタッチしま~すぅ。」
そう話すと、お兄さんの指先をみてイルカたちが鼻を上げて、水の上をバックしながら進んだ。
「フェりりりりりり~ゴ~!」と話し、ゼロヨンスタート合図!をすると、イルカたちは天井に吊るした赤いボールめざして、スピードを上げて泳ぎ始めた。
そして・・・・・。
ハイジャンプ!
決めた!
赤いボール・・ゆらりぃ~ゆらゆら~。
決めたあとが、またとってもよかった。
イーグルは、プールへ飛び込む姿も絵になって見えた。
力をぬいて、潔く、バッサリ落ちる。
大きな水しぶきが会場に飛び散り、前列にいた子供や家族連れは、なんだか?嬉しそうに水をかぶった。
和江もそのひとりだった。
「イルカショー」は見ないで帰ろうとしたけど、偶然、夫の入院していた病院の薬剤師さんと受付事務員さんに会った。
二人がお付き合いしているのが、嬉しくて。
つい、口に手を当てて、興奮してしまった。
「私たちは付き合ってないんです。」
と、事務員の小松さんは話していたけど、隣にいた男性、薬剤師の石黒さんは、まんざら悪い気がしてないように見えた。
ハタハタの水槽を眺めていたけど、二人と会い話をしたあと、早々に「イルカショーへ行きます」と、話してしまった。
なんか・・。照れる。
ウイウイしい若いカップルを見て、和江は嬉しい気分になった。
誘導されたようにきた「イルカショー」。
でも・・・。来てよかった。
迫力があるイルカのジャンプを、見て、興奮する。
「母さん~元気をだして~。」
水しぶきをかけられ、
「笑って~。すごせよ~。」
と・・。言われているように感じるね。
イルカは力強かった。
スピードを上げて、いっきに飛び上がる。
落ちるときは、バッサリ、そして大きな水の王冠を作り、笑わせてくれる。
和江は、リュクからタオルハンカチを取り出し、水しぶきをぬぐいながら、涙も拭いた。
(今日は来てよかった)と・・・。
笑い泣きする和江のそばに、さっき会った男の子がいた。
「しゅごおいね~。」
「そうだね」
「かっこいいね。」
キラキラしたその瞳は、未来を映していた。
さて・・・・。はて・・・・。
イルカは後半、芸という芸を惜しげもなく披露していた。
「お次は、尾ひれキックを見せてくれます」
「ホ~い。フーィー♪」ホイッスルを吹くと、三頭のイルカは水面にもぐり助走をつけてジャンプ。
イルカたちは、ジェットスクリュー化しながら体をねじり、しっぽでボールを叩いた。
「素晴らしい~わ~ぁ~。」大歓声と拍手が響く。
イルカが素晴らしい芸を披露するたびに、良太は、かなりしんどい状態に追い込まれていた。
芸を決めたイルカは誇らしく、良太のもとにやってきて、口をあんぐりあける。
(ハイ。お食べ!)
ヨロヨロした良太の身に危険が迫りはじめていた。
膀胱を刺激するわずかな出来事が、あったら、止まらないHA~HA~である。
(考えない。考えない。)ただ、ひたすら、ショーが終わることを願う。
だが、ときどき助けを求めたくて、お兄さんの方を見た。
彼らは、良太を残して、遠くの国へ行っていた。
(たすけてくれ~)の目力ビームも、当然、通じない。
いまは大事なショーの真っ最中。
良太がイルカに餌をあげ、バイト君がバケツに魚を補充する。
どっちが?いいかと?聞かれると、極力、動かない方が、刺激がない。
けど・・・・。
動いた方が、いい場合もある。
こうなったら、オタリアの部屋で用を足して、戻るという作戦もありだ。
これはあくまで、作戦。
いまは現状維持で、動かない方がいいかもしれない。
そう思うことにした。
良太は、かがみながら噴射口を圧迫した。
こんな展開になるなんて、悪夢だ。
そして、これは戦いだ。
真剣な表情でイルカに餌をやる良太をみて、バイト君は(なかなか、尊敬できる奴だな~。さっきはゴメン。)と、軽くバカにしたことを反省した。
慎重に、慎重に、良太は、芸を決めて誇らしくやってくるイルカの洗濯バサミ口に、餌を投げ入れた。
イルカは真剣な顔の良太をみて、(なんか?気迫が怖え~・・・)と感じていた。
なぞの解けた観客もいた。
午後の日差しがプールの水面を光らせる。
イルカがジャンプを決めるたびに、ゆらゆら光る波の王冠が輝いた。
薄いプルーのイルカ。
つるつるのイルカ。
大きな体。
そんなイルカショーは、クライマックスを迎えていた。
観客は元気に跳ねるイルカを、夢見ごこちで見ていた。
「たのしかった水族館」の一日も、もうじき終わる。
徹は、一眼レフカメラで、イルカを撮っていた。
撮影にも力が入る。
柔らかな午後の日差しが、プールに反射しする光景をみて、一瞬、寒気がした。
(思い出した!・・・・!)
(あれは・・・・。さいとう・。よしこさんだ・・・。)
乾いた唇で呟くと、胸の中にダークな黒い雲が広がった。
臨時職員できたおとなしい女の子。
当時の睦子にちょっと、髪型が似ていたので、オレ?もしかして?勘違いしていた。(当時・・聖子ちゃんカット流行る・・・)
(あ~あ~)徹は頭をかかえ、奈落へと落ちた。
(俺としたことが~わぁ~あ~)目をつぶりイキンデいると、隣にいる睦子が、「狭いんだよ~」と、肘でつついてきた。
(このデブと、まちがえて、結婚してしまった~わ~ああああ・・・)
徹は当時、市役所に入り10年目。
いろいろな部署に配属になり、テンパッテいた。
臨時職員もたくさんいた時代。
デートしたのは、睦子だけだと思っていたが、まちがいだった。
(わぁ~そうだ!~さとうさ~んだ。彼女は、優しくて、かわいかった~よ。
え~んん)
二人で来た初めてのデートが、ここ「色彩水族館」だったのだ。
徹は目をつぶると、涙がにじんできた。
そうとは知らず、睦子は「あのイルカの兄さん、かっこいい~♪」と、飼育係のお兄さんに手を振っていた。
失敗は成功のもと。
イヤ、失敗したままもある。
そういう時は、「これでいいのだ!」と、開き直ること。
だけど・・・。人生で、
大後悔の場面もある。
徹はひどく落ち込んだ。
しばらくは、立ち直れないだろう。トほほ・・・。
戦いの渦に巻き込まれていた良太に、いよいよ、終わりの時が近づいた。
いよいよ残りバケツも、あと4つ。
バイト君は良太を見てた。
尊敬のまなざしだ。
だが、そんなことは気がつかない。
自分のことで頭がいっぱいだからだ。
(おもらしできない。会場には女の子もいる。しかも、制服は、借り物だ!)
震える手で、大切なイルカの餌バケツを持った。
イーグルが、大音響の中、しだいに高さが増す、赤いボールを蹴って会場を沸かせている。
本当は高いところまで、なんなく、飛べるのに、わざと高さを上げて観客を喜ばせていった。
(何度も言うが、おもらしはできない。オレは、20歳になっている。お酒も飲める。)
イルカがジャンプすると、水がかかった。
普通なら逃げるところ、この体制を崩したくないので逃げない。
そんな良太の姿を、バイト君は尊敬のまなざしで、見ていた。
(なかなかやるな・・・。)
良太の目つきは真剣ないい目をしていた。
(しかし・・。まずい。非常にまずい・・。)
さっきから冷たい水を浴びるほどに、尿道の先まで熱いものが、こみ上げてきている。
噴射寸前の危険警報である。
イーグルが芸を終えると、「ニュキッ」と、水面から顔を出した。
(このデカい顔も・・怖くない。ただ、噴射口にふれられたら大参事になる。)
尖った口先が、噴火口を直撃するのではないか?と、顔をみて、心配になる。
そんなことは、何知らず、イーグルは当然のように洗濯バサミ口を大きく開けた。
魚を、バケツから、とる。
あげる。
「ほい」
「パクリ」
(あと・・・一回)
地獄のショーのカウントが残り一回になろうとしている。
良太は目を閉じ、フィナーレの音楽に酔いしれた。
イルカたちがジャンプして、会場のお客さんの近くで、何度も半月を繰り返した。
お兄さんたちは「あ~りがとう~♪」
「またぁ~ねぇ~♪」
「センキュ~♪」
と話し笑顔で手を振っていた。
会場のお客さんも手を振り返していた。
お兄さんのファンもいるらしく、「堂下さ~んん♪」の掛け声も聞こえた。
お兄さんも「ありがと~センキュ~ラブ♪」と、わけわからんことを話していた。
良太は力尽きた。
最後の餌を「ほい」と口に投げ入れたあと、どうやって、この体制で歩くかと考えた。
(トイレって?どこだっけ?)とも、考えた。
寸前まできた爆発物は、どう処理したらいいか?
動けば爆発する。
そのときイーグルに、かけられた水しぶきの滴が顔に伝わった。
目の前にはゆらゆら揺れる波。
(水だ!)
手をとると、だっぷりと・・。水。
リハーサルでは、お兄さんがイーグルにつかまり、ウエットスーツで泳いでいた。
(やるしかない・・・。)
(テンションマックス。二度と働くことのない水族館。)
小さな、アリーンが、餌をもらいにきた。
(よし・。)
良太はわざと、手が滑ったふりをしてバケツを、プールに投げ入れた。
「ゴメン。落としたぁ」と話し、プールに飛び込む。
その様子をバイト君は、驚いた表情で見た。
お兄さんたちは、大音量の音楽の中、ひたすら、観客に笑顔をふりまき、手を振った。
そのあいだに、良太は、プールの中で急いで用を足した。
じんわり、熱いものをしたときの爽快感は、計り知れない。
(は~あ~気持ちいい~。)
すっきりした良太は地獄から解放された。
お客さんは、一瞬、心配そうにしていたが、ニコニコ手を振る良太をみて、安心した。
笑顔で大きく手を振る。
バケツをとりにプールに飛び込んだ、仕事熱心な男に、バイト君は、尊敬のまなざしを送った。
そして、音響室にいたスタッフも驚いていた。
(こんどのバイトはスゴイ男だ!?・・。)
「テンション・マックス~♪~さようなら~♪」
良太はニコニコスッキリ、気分爽快で、大きく手を振り「バイバイ~」と声をあげて叫んでいだ。
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