第2話/2
――同刻。
バーは酷い有様だった。暫く商売は出来ないだろう。
話によると、その蜂の巣みたいに銃痕が付いている丸テーブルには大男が二人座っていて、二人は
時代錯誤であり、けれど今の時代にはよく見かける、壁に張られた賞金首のリスト。あれに載っている奴等じゃないか? と写真と二人を見比べて、別席の二人組がひそひそと呟いたくらいの時、不意に男の一人がショットガンを発砲した。
もう一人が同タイミングでテーブルを蹴り上げる。
ショットガンの男は二発、三発と発砲。その時にカウンターの酒瓶は射的の的を実弾で当ててしまったみたいに可哀想な事態に陥る。
一瞬の隙をついて、不意打ちを受けた男が窓を割って外に逃げた。
そこで、チクタクチクタクという秒針が刻む音に、ショットガンの男が気付く。
足元には懐中時計が一個転がっている。見るなり叫んだ。
『……伏せろッ!』
――それでこの有様だ。店内は滅茶苦茶。
男は客とバーテンダーが
驚いて口を開けっぱなしでいる隣の若者から、サングラスを奪う。彼はまだ口を開けたままだった。
「良いサングラス……だな」
……どうやら男のサングラスはさっきの爆発で割れてしまったらしい。
そのまま何事もなかったかのように公道に走り出る、極悪に改造された和製アメリカンバイク、ワルキューレ。
遥か前方から、ハーレー・ダビッドソンのエンジン音が聞こえた。排気ガスの残りを追い、その影を追うスズ――しかし、これだけのタイムロスがありながら、引き離されておきながら――見失っていない。明らかに誘われている。
「来たかスズ。ブリキの体だ、関節に油は注したかね?」
やがて二台の大型バイクが並ぶと、純白のハーレーに乗った男がスズを嘲るように言う。
乗っているハーレーが純白なら、それに乗る男自身の肌も髪も純白だった。スーツもネクタイを除いて全て白。
瞳と、ネクタイだけが赤い。
対して、剣山のように重火器が刺さったワルキューレに乗る男、スズの姿は影のようだった。黒に近いスーツに、黒いシャツ。ネクタイは濃い紫で、髪も瞳も黒の日本人。
「御託は良い、だ。《ホワイトラビット》……茶会には、その鈍足で……間に合うのか、だ」
確認するように時々詰まる英語に、ホワイトラビットは笑う。
「なぁに、物語の始まりは知っているだろう? 少女は急ぐ白兎を追って、不思議の国に迷い込む。もっとも、少女は我らがリーダーで、おれが誘うのは似ても似つかないブリキの兵隊だがな」
チクタクチクタクと風にさらわれながら時を刻む音が聞こえる。
それが止む寸前、懐中時計が放られた。
スズはスピードを更に上げ、ショットガンを真横に構える。
一秒前までワルキューレが存在していたアスファルトに懐中時計は落ちて、その瞬間、火柱が上がる。スズはショットガンを放ちながら問う。
「貴様らの、狙いは何だ……だ!」
散弾はまたも標的を捉えず、巻き起こる絶叫と爆風の中、ホワイトラビットは高らかに声を上げた。
「金品はまぁ、好きに奪えば良い。生き残ればの話だがな、スズ。我らが祝うのは、何でもない日さ。おまえたちの獲物は何だって構わないんだ、OZ――私たちは喜んで君たちを迎えよう……ようこそ、不思議の国へ」
時計塔へと続くその道の上空。
一台の赤い飛行機と、それを追う様に妖精の粉を振りまきながら、FPボードが駆けていく。
時速百キロの殺し合い。向かい風の中で、スズは仏頂面を僅かに崩し、壊し屋としての破壊対称を見つけて笑った。
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