『強盗童話』/5

JACK.

第14話/1

『■■■■! ……。■■■■ッ!』


 そこは、有体ありていに言えばガラクタ場だった。


 使えるかどうかは別として、この場所で揃わない物は無いのではないだろうか……そう思わせる程に、この区画はに溢れている。


 飛行機の羽根から車のパーツ、食べ終えたリンゴの芯まで。


 ありとあらゆる過去からの不法投棄。叡智と無駄が同居している。


 此処は合衆国の西海岸。遥かな海を望みながら、世捨て人たちが集まっては自由の国アメリカを体現する、最先端のローグタウン。



 ――『翠の楽園エメラルド・エリュシオン』。世界最大のスラム地区。



 かのミリオンダラーが二番。【大強盗】OZの若きリーダー、カカシの双子の片割れが暮らす、瓦礫にまみれた魔法の国。


『■■! お■、聞■■■■!』


 人間らしく。文化的で清潔な生活を。


 なるほど正しい。二十一世紀も順調に流れ、世情は社会に潔癖さを求める。


 塵は塵箱にdust to dustbox。捨てられないのならせめて纏めて部屋の隅。


 いちおう各国で世界平和と平等がうたわれている中で、ホームレスたちの保護……或いは消去も着々と足を伸ばしている現状。


 事実、東の果てではどんどん自由人たちの棲家が無くなっていっている。


 ――けれど、楽園は今も健在していた。


 理由はたったひとつなのだ。そのひとつが、どうしても破れない堅固な城壁ということだけ。


『…………』



 彼らには彼らの生活があり、彼らのルールが存在する。


 それはとてもこの国を象徴しているものだ。


 即ち、であること。



 その点で言うのなら彼はこの場所に相応しく、自由を満喫していたと言える。


 落ちていた機材を修理し、細々とした部品を交換。配線を繋ぎ直して、乾電池などという逆に手に入りにくい電源をバッテリーに換装。ヘッドフォンはちょっと街に遠出して新品を購入し、聞き馴れないチューニング音とキュインキュイン格闘しながらはや数日。


 やっとのことで、どこの誰とも知らない配信先の電波を受信し、時代に逆行するようななどという趣味の獲得に成功した。


 ヘッドフォンからは前世紀の音楽が流れている。


 だからこそ、その声が聞き取れない。


 というか、声をかけている人物にも気付いてはいないだろう。


 割れた窓から見える空は快晴。



 流れる音楽を口ずさむ事もなく、ただただリズムを取りながら聞き入って青空を眺めている。


 ――瞬間、星が見えた。


「~~~~~~ッッ!!」


 頭を押さえてうづくまる。落ちたヘッドフォンはシャカシャカと音を掻き鳴らしていた。



 床を見ると、多分今回の加害者というか凶器だろう。


 22番のスパナが転がっていた。



「まったく人の話を丸無視しおって! こっち向かんかい!」


「…………」


 恨めしそうに振り返る。歳は十八か十九。少年と言うには大人びていて、青年と言うには少し甘い。


 子どもと大人の間に、彼はいた。



「……ダークチェストは、サビが良いんだ。今まさに差し掛かろうってとこだった! なにするんだよ!」


 頭を抑えながらがなり立てる。


 スパナを投げつけた老人はふん、と鼻を鳴らして腰に手を当てた。


「ガラクタ弄りは楽しいか? どうせ弄るならカレンの手伝いでもしたらどうだ」


「なんだよソレ。オレは素人で、カレンはプロだろ。猫の手が必要ってワケでもあるまいし。足手まといになるだけだろ」


。精々足を引っ張ってやれ。放っておいたら一昼夜飲まず食わずで身体に悪い。お前さんの言うことなら、カレンも良く聞くからな」


「はッ。孫に嫌われたなくそじじい」


「あ?」


「おーこわ。いいよ、行くって。爺さんもまだだろ、昼ごはん。すぐに戻るからお湯沸かしといて」


 ラジカセを片手に立ち上がる。ドアなどない廃屋の一室。秘密基地めいた雰囲気があるが残念、この楽園ではよくある物件のひとつだった。


「まったく減らず口ばかり叩きおってからに。儂はそんな風に育てた覚えはないぞ、ジャック」


「お生憎さま。育てられた覚えもないもんで」



 かくして最後の舞台の始まりは、こうして幕を開けた。


 世の忙しなさとは正反対。時計の針を気にすることもなければ、賞金首も賞金稼ぎも遠い場所での登場人物。


 ここは翠の楽園エメラルド・エリュシオン


 城と言うにはあまりに品がないのだが。


 困ったことに、ここには使がひとり、住み着いていた。




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