第12話/5 <大晦日>ディッセン=アルマトール
「……思えば、遠くまで来たものです」
独白。地下階層は暗闇に覆われ、等間隔に配置されて明滅する僅かなシステムライトは、とてもそのフロアの全容を照らすことなどできない。
「グノーツ。貴方は人間としては災厄の部類の狂人でしたが、同時に私の
故人を偲ぶ。悼みの言葉の他に、空間に息づくその他の音はどれも無機質なものばかりだった。
保存を目的としたそこは気候、雰囲気関係なしに冷気が文明的に恒久化されている。
「いつだったか、ハロウィンのパレードを催したことを思い出してしまいました。……うん、あれは、我々にとって数少ない慈善事業だった。
――それも、今この瞬間まで。これより先、長い時間を共に過ごしたこのビル……彼等の
月は既に堕ちたのだ。遺された彼は、それまで行ってきた自分達の行いが悪のそれであることをよく理解している。
退場するのなら完全に。影法師とて、いつまでも舞台袖に残っていては客が
「ですが、アンコールには応えませんと。まったく、本当に貴方たちは身勝手で。どれほど私やテキストが苦労したか考えもしなかったでしょう?」
数々の要因があった。引力があった。偶然があって、自力で成し遂げた成果もあった。
それでも、ルナが単なる狂人の集団として即座に狩られず、一個の企業生命として、都市伝説と化しミリオンダラーの一角【パレード】と呼ばれるまでに上り詰め、あの夜まで凶行を続けられたことの最大要因がこの生存者――<
社会の部品としてはまったく役に立たないどころか、不具合しか生じさせない彼等を。あまりにも奇異な十二の歯車を、神業とさえ形容できそうな合わせ方で機能させたその頭脳。
「まあ私やテキストだけで足りなかったから秘密裏にバイトを雇ったんですけど。ふふ、そのくらいの違反は許してください。今まで通り、最後まで。月が終わる
開いた掌。中指で眼鏡の中心を押し上げ、位置を正す。
「準備はよろしいですか。経営不可により貴方たちにはこのような最期で申し訳ありませんが、まあ我々に収穫された時点でその人生は剥奪されているので諦めてください。閉店セール、在庫一斉処分といきましょう。かくいう私も値札が取られてしまった。二束三文で命を賭ける羽目になっているのでお構いなく」
ぱちん、と壁に設置された蛍光灯のスイッチをONに。
順々に点灯されていく白光の
「……ジャンヌの声に従いたい方々には重ねてお詫び申し上げます。どうせ聞くなら脊髄反射を誘発するような
異能を持たない彼の声に、けれどどんな魔力があったのだろう。
俯いていた生きる人形たちは、
「整列」
訓練された兵士のように、一糸乱れぬ動きで、ざん! と靴音を響かせてその号令に従った。
「たいへんよろしい。以降命令あるまで待機をよろしくお願いします。先方の思惑次第ではありますが、我々の敗北が確定し、なおも生き残る事ができた場合の処遇は向こうに任せます。それでは皆様、良い
――最後に見せた静かな笑顔とともに出された、人間としての優しさが小さく残った言葉。
それを正確に解するだけの思考回路がもはや機能していないことを承知で、ルナの副団長は地下階層を後にする。
紫陽花テキストの推測は的中する。これより二日後、十二月三十一日。
全てが決する終末の決戦は、このビルを舞台に開幕するのだった。
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