【一番目の空席】
ルル・ベル
第10話/1
――ひとは、幻想には成り得ない。
ポスターも貼らず、デフォルトのままの白い壁紙を見て想う。
真っ白な牢獄のようだ、と。
――なりたいモノがありました。
少女漫画にありがちな衝動だけで良かったのに。
霧のように溶けてしまう儚さと、もはや代名詞とも言える、不滅との二律背反。
――突破しなければならない関門はとても多くて。
まったく度し難い。
別離と隔絶に使われるのは電車のドアと発車のベルの音で良いではないか。
わたしたちは、愛を知るよりもっと前に。
順当な人生を送っていたのなら、おそらくは誰だって。
人生に一度くらい、恋に落ちるものだ。
――それが、異性でなく。そもそも人間でさえなく。事象や幻想といった、カタチの無いモノへと垂直落下してしまう、非生産的で救いのない恋慕だとしても。地球に重力があるからだろうか。わたしたちは自覚すれど落下の事実を止められない。
ひとつ。ソレは女でなければならない。
ひとつ。ソレは銀と十字架に敗退しなければならない。
ひとつ。ソレは陽光に当たってはならない。
ひとつ。ソレは流れる水を渡れてはならない。
ひとつ。ソレは美しくなければならない。
ひとつ。ソレは不老不死でなければならない。
ひとつ。ソレは招かれた後でなければ踏み込んではならない。
ひとつ。ソレは他者の血を吸わなければならない。
――科学万能にして倫理と暴力のせめぎ合う時代に設けられた、たった一つの椅子に座るために必要な資格はその八ツ。
第10話/ルル・ベル
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