* 13 *
11時を過ぎて、
意外と、喉が乾いていた。
何げなく窓の外に視線を向ける。
「森井も一休みしに来てたのか」
声がして顔を通路の方に向けると、北上が歩いてきて、オレの右隣の椅子に勢いよく座り込む。
「まあ、ね。…隆子ちゃんって、北上の妹って感じだね」
「どこが?」
「性格が」
オレの発言に素早く切り返した北上に、こちらも即答した。
負けじと北上が口を開いた時。
「あら。同じタイミング」
米倉さんの陽気な語気に邪魔される。
示し合わせたように、3人が集まった。
「隆子ちゃんって、かわいい子ね。」
「…どこが?」
米倉さんの感想に、北上は不審げに眉をしかめる。
「素直な妹じゃない。お兄ちゃん」
腕を組んで
「……」
少しすると、隆子ちゃんと清香ちゃんも姿を見せた。
オレたちのいる位置に寄ってきて、隆子ちゃんが人懐っこい顔をする。
「
いそいそとしゃべる隆子ちゃんの後ろで、清香ちゃんが頭を下げる。
オレたちが座る正面に立ち並ぶ女子3人の姿に圧倒されそうだ。北上の妹を見ていた米倉さんの唇が、何か思いついたように笑みの形を作る。
「みんなで、お昼食べに行こう。隆子ちゃんと清香ちゃんも一緒にいかが?」
米倉さんの
「はぁっ?!」
――また唐突に。
「えっ!? いいんですか?」
驚きつつも、嬉しそうな声を出したのは、北上の妹。その横で、清香ちゃんは目を丸くする。
「うん、いいわよ。何なら、夕香も誘うわ」
言うなり、米倉さんはスマートフォンをいじり出す。
女子の間で、どんどん決められていく。
「………おい」
低く
いつも腹立たしいくらい冷静沈着な彼が、ペースを乱されている。
珍しい光景だ。
「夕香、10分くらいで来るって」
名本さんの名前に、意識が引っ張られる。
「行くわよね」
北上とオレを
「わかったって」
「夕香さんって、誰ですか?」
尋ねたのは、隆子ちゃん。
「私たちの友人。どんな感じかは、会ってみてのお楽しみ」
米倉さんの答えに、隆子ちゃんはすねたように頬を
清香ちゃんは、滅多に話さない。しゃべったとしても、隆子ちゃんに投げかけられた内容に短く答える程度。
人見知りをする性格なのか、
「お待たせしましたぁ」
休憩スペースに現れた名本さんの第一声に、オレは壁にかけてある時計を見る。
「本当にきっかり10分だ」
ぼそりと呟くと、名本さんが不思議そうな目をする。
「米倉さんが、名本さんは10分で必ず来るって、断言するから計っていたんだ」
「そうだったんですねぇ」
オレの言葉に納得しながら、名本さんは左肩にかけたトートバックからスマホを取り出した。
小花を散らしたブルーのチュニックに、黒いレギンス姿の名本さん。
いつもの制服姿と全く違う印象に、はっとする。
初めて見た、私服姿。
髪型は、いつものポニーテール。
それから、思い及ぶ。
北上も、米倉さんも、私服。
目には入っていたのに、認識していなかった。
――どれだけ、他人に興味がないんだか……。
自分自身に、呆れる。
「本当ですねぇ。すごいですねぇ」
名本さんはスマホの画面を見て、感嘆したように呟く。そして、米倉さんの近くに佇む隆子ちゃんたちに気づき、首をかしげる。
「夕香。彼女は、北上の妹の隆子ちゃん。その隣が、隆子ちゃんの友人の清香ちゃん」
米倉さんは、名本さんの視線の先を知り、2人を紹介した。
「そうですかぁ。…初めまして、名本夕香です」
「初めまして」
自ら名乗った名本さんに、中学生2人はそろって一礼する。
「北上くんは、お兄さんだったんですねぇ。お2人とも、かわいいですねぇ」
ふんわりと笑う、名本さん。
その笑顔に誘われて、清香ちゃんの顔にあどけない笑みが広がる。
その場に、優しく穏やかな空気が流れる。
「まず、図書館から出よう」
「そうですねぇ。まず、出ましょうか」
米倉さんの言葉に名本さんが同意すると、それを合図に北上たちも移動し始める。
名本さんの周囲にあった穏やかな空気が
……もったいない。
残念に思う。
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