* 14 *

「お店、ファミリーレストランでいい? 近くにあるんだけど」

 図書館から出た直後、立ち止まった米倉さんが振り向きながら尋ねる。

「どこでも平気です!」

 元気よく答えたのは、隆子ちゃん。

「それじゃ、決まりね」

 そう告げると、米倉さんは駅と反対方向へ歩き出した。駅前の通りから、デパート裏の道に入り、ゆるゆると歩を進める。

 先頭を歩くのは、米倉さんと名本さん。彼女たちの後ろについて、たまに会話に混じるのは隆子ちゃん。清香ちゃんはその隣を歩く。


「北上の妹って、順応じゅんのうせいが高いよね」

「あいつのは、つらの皮が厚いだけだ」

 オレの評価に北上が反論すると、前を歩く隆子ちゃんが素早く振り返る。

「なんか言った? お兄ちゃん!」

「…地獄耳」

 妹の大音声だいおんじょうに、北上は独語どくごみたいに呟く。

「…隆子ちゃん。前見ないと、危ないよ」

 兄に対して目を吊り上げる隆子ちゃんを、清香ちゃんが心配する。

「うっ。……ごめん、ごめん」

 友人の言葉に、隆子ちゃんは大人しく前を向く。


 ――今、見事な力関係図を見た気がする。


 図書館から歩いて10分。

 テナントビルの2階に入っているファミリーレストランに入ると、12時前で客席はまだいていた。

 すぐにテーブルに案内してもらい、3人ずつにわかれて椅子に座ると、米倉さんがメニューを開いて、見やすいようにはいする。


 米倉さんが率先そっせんして世話を焼くなんて……。

 彼女に尊大そんだいなイメージを持っていた自分を訂正した。


「メニュー決まった?」

「まだですぅ」

 米倉さんの問いかけに、名本さんが申し訳なさそうに答える。

 早めにメニューを決めたオレは、右手で頬杖をついて、同席するメンバーを観察する。

 窓側には、奥に隆子ちゃんが腰かけ、真ん中に清香ちゃん。その隣が北上。テーブルを挟んで、通路側の奥が米倉さんで、横に名本さんが座っている。

「森井は、もう決まった?」

 名本さんを飛び越えて、左から米倉さんの質問が来た。

「まあ、ね。そういう米倉さんは、決まったの?」

「決まってるわよ」

 前屈まえかがみで真剣にメニューを眺める名本さんの頭上を、米倉さんとの会話が飛びう。

「隆子ちゃんは? もう決まった?」

 オレから真向かいに目線を移して、米倉さんは北上の妹に声をかけると、隆子ちゃんはメニューを行き来している。

「う~ん。どうしよう」


「清香ちゃんは、もう決めた?」

 北上の柔らかい口調を耳にして、オレは横目で彼らを見る。

「……いえ。まだ…」

 名本さんと同じようにメニューをじっと見つめる清香ちゃんを、隣の北上が気にかける。

「ゆっくり決めて大丈夫だから」

 おどおどと答える清香ちゃんの前に、北上がメニューをずらす。彼女が気兼きがねなく見られるように。

 妹には無愛想ぶあいそうなのに、妹の友人には心を配ることができるみたいだ。

「ありがとう、ございます」

 清香ちゃんはそっと北上を見て、柔和な笑みがにじみ出る。

 嬉しそうな、幸せそうな。


 ――北上に、気があるのかな。

 何となく、そう感じた。


「…ごめんなさい。決まりました」

 ためらいがちな清香ちゃんの言葉に、名本さんが目を上げる。

「清香ちゃん、早いですねぇ」

 名本さんのゆったりとした笑い顔で、この場の空気までもほんわかとなる。

 その空気感に、心惹かれる。

「夕香、決まった? 店員呼ぶよ」

「はい。お願いします」

 名本さんが笑顔そのままで答えると、米倉さんは呼び出しボタンを即座に押した。

 少しして現れた店員に個々にオーダーして、ドリンクを取りに行ってから、ゆっくりする。




「名本さんのおうちって、西口なんですか?」

 ミートドリアを食べていた隆子ちゃんは手を止めて、名本さんを見た。

「そうなんですよ。駅からバスで15分くらいですかねぇ」

 オレンジジュースを飲みながら、名本さんは頷く。

「うちと清香ちゃんのおうちは、末広すえひろです。」

「じゃあ、うちの高校に近いんですねぇ」

 地元の地名にいち早く反応したのは、名本さん。オレは名本さんの家が市内にあることを今日知った。

 北上はわれかんせずの姿勢にてっして、アイスコーヒーを飲む。

「隆子ちゃんと清香ちゃんの家は、近いの?」

「はい、わりとご近所です」

 アイスコーヒーを飲みながら、むつまやかに話す彼女たちを眺める。


 こんな風に同級生と外食するの、初めてだ。


 和気わき藹々あいあいとしゃべる女子たちを見て、心づいた。

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