第13話
* 49 *
朝起きてカーテンを開けたら、久しぶりに雨がやんでいた。
名本さんが引っ越すと聞いた日の夕方以来。
あれから1週間――。
授業中はそれに専念して、休み時間は自分の机で寝ていた。そうしないと、友人たちと何もない顔でしゃべる名本さんが気になってしようがなかった。
放課後は、図書室の書架整理を手伝って、気を
――
名本さんは、まだいる。
だけど、確実にその日は近づいている。
いつ転校する?
名本さんのいなくなる事実が、胸の奥でわだかまる。日に日に
スマートフォンで時間を確認する。
普段より1時間早い。
ベッドに横になっていても寝れそうになくて、のそのそと起き出した。
制服に着替えて顔を洗ってから、食事を取る。そのまま家を出て、駅に向かった。
ホームに到着して、すぐ来た電車に乗る。しばらくぶりの早い時間の電車は空いていた。学生が少ないせいか、車内は
シートに座って、鞄の中から小説を取り出す。昨日買ったばかりの新刊を読み始めた。
8つ目の駅で電車を降りる。改札を通り、東口に進む。
駅前ロータリーのデッキ通路を歩きながら、空を見上げた。
視界一杯に広がる、灰色の雲。
『灰白色』
名本さんの言葉が脳裏に
白に近い、明るい灰色。
昨日までの濃いめのグレーではない、雨雲と違う色。所々雲が薄く、うっすらと日の光が見える。
灰色の世界が変わっていく。
薄紙をはぐように。
「おはようございますぅ」
間延びした独特の口調に、ドクンと心臓が跳ねる。
立ち止まって後ろを見れば、名本さんがのんきな笑みを浮かべていた。
「おはよう」
「こんな風に会うのは、久しぶりですねぇ」
「…そうだね」
何を話せばいいのか頭に浮かばなくて、適当に答えた。
名本さんの転校に対する
こちらに歩み寄った名本さんは、速度を
「今日は、晴れそうですねぇ」
その言葉に名本さんを見ると、空を眺めながら嬉しそうに笑う。
その表情に、胸が締めつけられる。
「上ばかり見ているとコケるよ」
上を見ながらのんびりと歩く名本さんに注意を
「はーい」
素直に頷いたのに、顔は上を向いたまま。そんな彼女の後を追う形で歩を進める。
お互い無言のまま、しばらく歩いた。
学校に近い交差点の信号が赤に変わり、立ち止まった直後、名本さんがこちらに向き直る。
「今日、どうしても森井くんにお話ししたいことがあるので、放課後美術室でお待ちしてます」
オレの目をまっすぐに見つめて、名本さんが真顔で告げる。
不意打ちのようなタイミングに、一瞬思考が止まった。
――もしかして………。
何て答えればいい? 何を言えばいい?
「おはよう」
オレが返答に迷っていると、米倉さんの声が割り込んできた。
「おはようございますぅ」
パッと後ろを振り返った名本さんは、米倉さんに挨拶を返す。普段と同じ屈託のない口調。
さっきの話題は強制終了となったらしい。
――尻切れとんぼだ。
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