第9話

* 33 *

『名本さんが好き』

 きっぱりと告げたオレの声。

 その言葉にびっくりした名本さんの顔が浮かんだ直後。


 ――夢だ。


 認識すると同時に、覚醒かくせいした。

 半袖ティーシャツの袖口から出た肌をひやりとした空気が触れて、うすら寒さを実感して身震いする。

 半分開けた窓から絶えず涼しい外気が入り込むから、窓を閉める。


 昨日の夜、上昇したままの体温をましたくて、窓を開けてベッドに横になった。目をつぶっても眠気ねむけが差す気配がない。

 心臓の音が騒がしく、高揚こうようした感情で眠れないから、電気を消したままスマートフォンをいじる。

 暗闇の中で見る液晶画面の光は眩しくて、目にみる。


 ――名本さんは、どう感じたんだろう。


 出し抜けに脳裏に浮かぶ、名本さんの顔。

 すると、名本さんの気持ちが気になり出した。

 スマホを見ていても、意識は名本さんのことに向いてしまうから、枕元に離して目を閉じる。




 目を閉じては、屋外の音が気になって、頭が冴える。一晩中、そんなことを繰り返した。

 スマホの画面を見ると、午前5時前。


 ベッドに横になったまま、窓の外に目を向ける。しらみ始めた空をぼうっと眺めながら、起きようか悩む。

 眠れないなら、勉強しようか。果たして、こんな状況で勉強して、頭に入るんだろうか。

 思い悩んで、二度寝することに決めた。




 ドアが閉まる音で、目を覚ました。

 枕の横にあるスマートフォンを持ち上げ、時間を見る。

 5時40分。

 姉の葉月が、大学に向かったのだろう。


 ――名本さんに好きだって言った。

 と姉に伝えたら、どんな反応するだろう。


 絶対にそんなことは言わないが、姉の反応には興味がある。

 冷やかすだろうか。それとも、あっさり受け流すだろう。

 想像してみるが、よくわからない。自分の姉ながら、彼女の思考回路が不明な時がある。


 ……まあ、いっか。


 考えることを放棄して、寝ることも諦めて、ベッドから起き出す。

 寝不足で重い頭のまま階段を下りて、台所に行く。

「おはよう」

「おはよう。早いわね」

「…学校で勉強しようと思って」

 驚く母に対して、苦しまぎれに言い抜ける。

「そう。おかずできてるから、食べて行きなさい」

 疑わない母に、内心ほっとする。

「うん」

 突っ込んで聞かれる前に、そそくさと朝食を食べて、洗面所に向かう。

 母親が納得している間に、家を出よう。顔を洗いながら決意して、自分の部屋に戻って制服に着替える。


 ――好きだと言われて、名本さんはどう思っているんだろう。


 制服のネクタイを締めようとして、頭をよぎったのは、名本さんのこと。

 教室に行けば、名本さんと会う。意識した直後、鼓動がはやまる。


 ――後悔しているのか?


 自問するが、答えはノー。後悔していない。

 それなら……。

 大きく息を吐き出して、自分の心を落ち着かせる。

「男は度胸どきょう

 荷物をめた鞄を持って1階に戻る。

「じゃあ、行くよ」

「気をつけて」

 台所にいる母に声をかけて、家を出た。


 普段より時間をかけて学校に向かうことにした。

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